孤児院編 その3 大丈夫だから、至って正常だから

 さて、とりあえず数値を上げるであろう『▲』ボタンを使うには経験値が必要な事が分かった。

 分かった・・・が、肝心の経験値の入手方法が分からない。

 ああ、魔物退治で経験値稼ぎとか無理だからね?普通に自分が死ぬ未来しか見えないのでそれ以外。


 いや、なんとなくは分かるんだけどね?だって上げる『▲』で経験値が必要(減る)なら下げる『▼』で経験値が貰える(増える)と思うじゃん?

 でも少々お試しするには敷居が高い、何故ならハリス君の基礎能力値が低すぎるんだよね・・・。

 等価交換で1上げるのと1下げるのが同じ経験値量なら良いんだけど何らかの手数料でも取られるようなら元の数値に戻せなくなるからな。


 てことで基礎能力値をいぢるのは(下げてみるのは)少々デメリットが大きすぎる。

 となると残るは『レベル』と『スキルランク』。言い換えるなら『レベル1』を0にするか『土魔法ランク1』を0にするか。

 ・・・迷う必要はないな。下げるなら『泥団子作り』で経験値が増えるのが分かってるので取り返しが付きやすい土魔法一択である。


・・・

・・・

・・・


「ポチッとな」


『経験値が1000点プラスされました』


 おお!やっぱり経験値が貰えた!!・・・いや『貰えた』じゃなくて『戻せた』か?まぁこまけぇことはいいんだよ!!!

 さっそく増えた経験値を土魔法に振ってみる。


『土魔法が ランク1 に上昇しました』


『減らしたのに増やすのかよ!』って?だってこれで増減させる為の経験値効率が分かるじゃん。

 一応確認のために土魔法だけを3回ほど上げたり下げたりしてみる。

 どうやら必要経験値が減ることも増えることも無さそうだ。

 これで一安心と次のステップに進んでみることに。色々と上げ下げしてレベルアップ、数値アップ、ランクアップに必要な経験値量の確認である。


 そして結果発表。


 レベル及びランクを上げるのに必要な経験値は

『1で1000、2で2000、3で4000、4で(おそらく)8000』と増えていき

 能力値を上げるのに必要な経験値は

『1→2で2000、2→3で3000、3→4で4000』と増えるみたいだ。0→1?いや、最低値が1だからさ。・・・そこそこ能力値に『1』があるハリス君とは一体。


 つまり能力値はそこそこ上げやすいけどレベルやスキルランクは10にしようとしたらべらぼうな経験値が必要って事だな。


『最底辺しか無い能力値の振り直しが出来るようになったから何だっていうんだ?』ごもっともである。

 でも少し読み返してみて欲しい。

『土魔法』の経験値を上げる方法(泥団子作り)は分かっているのである。

 つまり他のスキルも何らかの行為を繰り返せば経験値は溜まっていくってことだ。


 ついでにスキルのランクについて少々補足説明。

 スキルとは剣術や槍術、料理や木工、はたまた歌唱やスリなど多種多様にわたり『稽古や作業を続ける』事で身につく技術で『ランクが1~10まで上げられるもの』と生まれながら持っている(極々稀に後天的に入手する事もあるが)『ランクのないもの』がある。後者はどっちかって言うとスキルじゃなくギフトみたいなものか?


 俺が現在持っているスキルで言えば『土魔法が前者』で『やりなおし』が後者だな。

 まぁ『やりなおし』についてはただの役にも立たないクソ称号だと思ってたわけだが・・・。


 そして『ランクの上がるスキル』はランク1はそれなりに身につけやすくランク10にしようと思えばそれこそ何度も人生をやり直せるくらいじゃないと厳しい。

 いや、厳しいどころか実質無理だろこれ。

 死ぬ気で10年、20年と頑張ってもランク3程度まで上がれば御の字ってレベルだしさ。ランクだけど。


 勇者なんて何回か本当に死にかけるような生活を10年以上続けてもスキルランク5が最高だったし。

 どうしてか?それは『ランクが上がる毎に必要経験値が増えて得られる経験値量が下がる』から。

 否、下がるだけならまだしもランク1まで経験値が貰えていた行為では経験値が入手出来なくなることも多い。


 剣術で例えるならランク1に上げるには『木剣の素振りを繰り返す』事で経験値が上がっていたのにランク2に上げるには『対人での打ち込み稽古』が必要になりランク3にしようと思えば『戦場での殺し合い』をしなければいけない・・・みたいな感じだ。


 うん、そうそう戦争なんてないしランクなんて上げらんないよね。まぁ例え話なんでさすがにそこまで厳しくはないと思うけど。

 でもこれが・・・ランク1を何度も何度もやり直せるとしたらどうだろうか?

 いや、もちろんただやり直してるだけなら時間の浪費でしか無いけどさ『1ランク分の経験値を溜め込みながら』新たにやり直せるとしたら?


 ふふ、ふふふふふ、ふはははははははは!


 そう、最強である!

 俺様こそが最強なのである!!

 ・・・そんな言うほど簡単でも無いんだけどね。必要なのは『地道な作業の繰り返し』だからね。

 何度も繰り返すけど現状の能力値がアレ過ぎて取ることが出来る行動が圧倒的に限られるしさ・・・。


 てなわけで(?)ここから試行錯誤である!いや、今日はもう出来ることもないし明日から試行錯誤である!俗に言う『明日から頑張る』だな。

 それ何もしない時の言い訳じゃん・・・。


 そして時は流れて・・・一週間。翌日じゃないのかよ。だって地味な検証の繰り返しだったんだもん仕方ないじゃないか。

 アレだよ?シーナちゃん。俺がいきなり奇行に走ったもんだから心配して


「ハリス・・・どうしたの?」


 から始まり


「ハリス・・・そんなに辛かったの?ご飯半分わけてあげようか?」


 だの


「ハリス・・・あなた疲れてるのよ。少し休んだほうがいいわ」


 だの完全にメン○ラ扱いである。


 てかさ、それでなくても少ない幼女のご飯、パンを半分こしてわけてくれようとするのとかホント止めてね?キツイから。男としてどころか人間としての尊厳とか考え込んじゃうから!それもこれも全部貧乏が悪いんやぁ・・・。

 そんな完全に俺の心を折りに来てるとしか思えないシーナちゃんをなんとかかんとかなだめつつも分かったこと。


「泥団子作りは割に合わねぇ」


 であった。

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