孤児院編 その2 俺の戦いはこれからだっ!!

 尻の違和感(アッー的な意味では無い)を無視してパンとスープをお盆に乗せてもらい適当に空いてる席・・・に座ると他の子に嫌な顔される(火傷がほら・・・)ので食堂の端のテーブルのさらに端っこに座る。隅っこハリスである。


 すると今度は小太りな子供が近寄ってきてパンを半分ちぎって持っていかれる。あのかったいパンをちぎるとか結構な力持ちだな。いや、ハリス君でもちぎれるけどさ。

 ちなみに半分にした時に少し大きい方を置いていくのは良心の呵責かなにかなのか?当然こいつの名前も知らない。


 そして食べ終わり、部屋に戻る途中の廊下で背の低い子供がニヤニヤした顔でこちらを見てくる。

 所謂『小馬鹿にした顔』ってやつだな。

 先程までとは違い実害は皆無なので微笑み返してやったらビクッてなってた。小動物かよ。

 繰り返しになるがこいつの名前も当たり前のように知らない。


 どうやら直接的に嫌がらせしてくるのはこの三人だけらしいが他の子供達も声を掛けても来なければ近寄っても来ない。まぁ俺の見た目がね・・・全身大火傷だからね。

 もちろん俺は大人だから現状では虐められようが無視されようが言い返しも仕返しもしない。いや、出来ないだけとも言う。


 だってステータス低すぎて喧嘩になったら絶対に勝てないからな!喧嘩相手が(俺の返り血で)真っ赤に染まるからね?

 ゴブリンとの戦闘で死ぬ新米冒険者宜しく孤児との喧嘩で死ぬハリス君、笑い事では無いのだ。


 そんな完全アウェーな状況のハリス君だけど


「ハリス、今日もご飯盗られてたでしょ!ちゃんと言い返しなさいっていつも言ってるのに!」


 一人だけだが構ってくれる子がいる。

 こちらを頬を膨らませて見つめる、癖のある赤毛を肩口で切りそろえた顔の左半分が焼けただれた女の子。

 一つ年上の『シーナちゃん』だ。


 幼女に叱られるおっさん・・・今日イチ心が痛いんだけど?

 この子、火傷仲間(?)だからかハリス君がここに来た当初から何やかやと世話を焼いてくれている非常に良い子だ。

 むしろこの子がいないと今まで生活が成り立っていなかったと言っても過言ではない。


「争いは同じレベルの~以下略っ!」


 とりあえず言い返せないんじゃなく言い返さないんだからねっ!と幼女に弁明しておく。うん、近年まれに見る凄まじい雑魚キャラぶりだな俺。

 そして呆気にとられてこっちを見るシーナちゃん。


「・・・」

「・・・」


「・・・」

「・・・」


「ハリス喋れるんだ!?!?」


 ・・・どうやらハリス君、今まで一言も声を発して無かったらしい・・・。

 そこからやたらと話し出すシーナちゃんと「お、おう」とか「せやな」とか適当に相槌を打つ俺との会話のキャッチボール(ピッチャーがシーナちゃんでキャッチャーが俺と言う親子でするようなキャッチボール)がしばらく続けられることになった。

 幼女、ぼちぼちストレス溜まってたんだね。


 さて、初日の夜である、ある意味初夜である。クッソ嬉しくねぇ・・・。

 あれから日中は特にすることも無かったんだけどシーナちゃんが隣に付いて歩くので一人になれず・・・。

 トイレに籠ればいつでも一人?いいか、ここにあるのはトイレじゃない、便所だ!!

『臭い、虫がいる、薄暗い』と三拍子揃ってて住環境としては最悪なんだよ!!いや、元々住むところではないのは知ってるから大丈夫。


 てか少々アレな話で申し訳無いんだけどさ、トイレで大きい方をした後のお尻の処理、どうすると思う?

 トイレットペーパー?そんなもの有るわけ無いだろう。

 ローマみたいに海綿に棒が付いたやつ?少なくともこの国では使ってないな。てかアレはアレで寄生虫が恐いよね。

 布の端切れ?噂では上級貴族は使ってるらしいな。う○この度に布を使い捨てるとか正に大貴族。もちろん元実家は貧乏貴族なので見たことはないけど。


 なら何を使ってるのかと言えば・・・『ヘラ』である。もちろんギリシャ神話の女神(浮気男の奥様)では無い。

 正確には木片でこそげ落とすと言う・・・。通称『ク○ベラ』。そのまんまか。


 現代人にはキツすぎるだろこの環境!!おお、紙よっ!!

 ・・・早急に、早急に何とかしないとメンタルとか○門とか壊れちゃうっ!!

 もちろんお風呂なんてあるはずもなく、井戸で水を汲んでボロ布で体を擦るのがせいぜいである。歯ブラシ?なんか柔らかい木片をしがんでから歯を擦るだけ。


 せめて塩でもあれば歯磨きも多少はマシなんだけどさ・・・塩もお高いからね。スープの味付けすらあのレベルなのに『歯磨きに使うからください』なんて通るはずもなく。

 お風呂に関しては若いから新陳代謝はいいけど脂分が少ないのが僅かな救いか?あ、脂分が少ないのは若さじゃなく肉不足なだけだわ。

 もちろんお風呂も大貴族宅や大商人宅には普通にあるからね?サウナじゃなく湯船のタイプの風呂が。

 庶民は夏場の水浴びが精一杯の贅沢なのだ。冬場?凍え死ぬわ。


 て事で部屋という名の物置で魔導板を見つめる俺である。

 室内にランプ的な文明を感じさせる明かりなどと言うお金のかかるものが有るはずもなく、物置部屋なので窓もなく、真っ暗な室内で俺の目の前30センチ程の所にぼんやりと板が浮かんでいる。

 あれだな、物置だからか丈夫な作りになっていることだけが救いだな。隙間風とかほぼ入ってこないし。・・・それはそれで夏場は地獄じゃないか?


 そして魔導板画面は光って見えるのに部屋の中は暗いままというどういう仕組なのか、物理的な諸々を無視したホントに謎な板である。

 朝見たのと同じ数値が表示された画面。もちろんのんべんだらりと過ごした1日で何らかの経験値や数値が上がってるなどということもなく。


 はぁ・・・『やりなおし』かぁ・・・何か特別な能力でもあればなぁ・・・。

 タブレットとは違い表示されるだけで操作の出来ない魔導版の画面。何気なく『やりなおし』と書かれた文字を指でつつく。


『スキル やりなおし がアクティベートされました』


・・・

・・・

・・・


 えっ?何ごと?アクティベート?

 今までも何回か画面つついたことあるけどこんな反応したの初めてなんだけど!?

 そして画面内で明らかな変化がすぐに起こった。


 各数値の左右隣に三角形のボタン『▲▼』が現れたのである。

 これは・・・数字を好きにいぢれるのかっ!?

 とりあえずものは試しと『レベル ▲1▼』の▲をタップしてみる。

 すると表示される


『経験値が足りません』


 ・・・まぁそんな美味しい話は有るはず無いよな・・・。

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