手紙
ヴィクストレームは翌朝の早い時間に目覚めた。
暖かい朝日が部屋に差し込んでいた。
ベッドから起き上がり、窓の外を見ると、正面に並ぶ建物のわずかな隙間から穏やかな海を見ることができた。
ヴィクストレームは、お湯を沸かし紅茶をいれる。
ベッドに腰かけ、紅茶を飲みながら、どのようにして警察に押収されてしまった貸金庫の中の魔術書を取り戻すかを考える。
警察署に侵入するのは、幻影魔術を使えば簡単に出来るだろう。しかし、単に魔術書を盗み出すと、自分自身がすぐに疑われるのは明白だ。後々、自分が追われることになる可能性が高いので、それは、できればやりたくない。なるべく自分が動く事なく、この問題を解決したいと考えている。
しばらく時間をかけて、盗み出す方策について考えるが、直ぐにはいい案が思い浮かばなった。
ヴィクストレームは、気分を変えて外へ食料でも買いに出ることにした。
ヴィクストレームは部屋着から着替えて、宿屋の近くの大通りの朝市にやって来た。
そこで買い物をしていると、整然とした数多くの軍靴の音が聞こえた。
アグネッタはその音の方を振り返って通りを眺めると、帝国軍と昨日見た傭兵部隊の一行、三百人ほどが進軍をしているのが見えた。
そして、その中に傭兵部隊の隊長、ユルゲン・クリーガーの姿も見えた。
昨日、城の中で盗み聞きした怪物退治に向かっているのであろう。
ヴィクストレームは買い物を止めて、帝国軍と傭兵部隊の後を少し離れて後に続いた。大通りは民間人も多いので、ヴィクストレームが後をつけても気付かれる事は無いだろう。
どうやら一行は港の方へ向かっている。おそらく港の端にある海軍の桟橋に向かっているのだろう。船を使って移動するのであれば、オストハーフェンシュタットまで丸一日。そこからボールック高原へは徒歩による進軍となるはずだ。とすると高原までは五日ほどかかるだろう。
一時間ほど進むと、帝国軍一行が海軍の敷地内に入る。これ以上は後をつけることは不可能なのでヴィクストレームは諦めて市場に戻ることにした。
ヴィクストレームは帝国軍の一行をみて、少々焦りが出てきた。魔術書の件を早くケリをつけ、自分も怪物の一件を処理しなければならない。
そして、シュミットことローゼンベルガーのこともある。
警察にはオストハーフェンシュタットに居るローゼンベルガーの事を伝えたが、まったく別の店の名前を教えたので時間稼ぎは出来るだろう。
実のところ、ローゼンベルガーがどうなろうと知ったことではないが、彼にはまだ利用価値があると考えていた。なので、こちらの魔術書の件も急いだ方が良いだろうと考える。
ヴィクストレームは港から市場へ戻り、当面の食料を買い込んで部屋に戻る。
食事を取りながら、どうすべきかを考えていると、一つ案が浮かんだ。
ヴィクストレームは、食事を取り終えると鞄の中から便箋と封筒を取り出し、ペンとインクで手紙を書き始めた。
手紙を書き終えると封をして、それを出しに郵便局へ向かう。
共和国時代は郵便制度が発達していたので、帝国に占領された後もそれが生き残っていた。郵便金額は少々高いが駅馬車と同様に郵便馬車が主要都市を行き来している。
ヴィクストレームの手紙の宛先は旧共和国の都市モルデンに居る仲間。
モルデンは戦争でかなり荒廃していると聞いていたので、郵便局員にちゃんと手紙が着くかどうか確認する。局員によると、余計に日数がかかるが何とか届くという。
ヴィクストレームは代金と共に手紙を局員に渡した。
現在、ある任務遂行のために色彩の大陸中の主要都市のいくつかに、ヴィット王国の魔術師たちが“商人”などと称して、滞在している。
ヴィクストレームはモルデンに居る仲間の一人に手助けの依頼の手紙を送ったのだ。
手紙が届くのに数日、仲間が動いてくれるまでには更に数日かかるだろう。仕方がない。ヴィクストレームは、はやる気持ちを抑え待つことにした。
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