こいつは死なない女です

コップの中の嵐だと

あなたはすまして言うけれど


アタシは大海原に翻弄されて

溺れ死んじゃいそうなのよ


もがいて溺れて牛乳カップに

浮かんで沈んで瀕死のアタシ


見ているのなら手伝ってよ

見ているだけならおじゃま虫

ウロウロするなら道連れに

しちゃうんだから

本当よ♡


ねえ、なってくれない道連れに

お願いだから一緒にいて

見捨てちゃイヤよ

いいヒトだから


大事な大事なアタシのいいヒト

付き合っているんでしょ

付き合っていたいでしょ

付き合っていたいのよ


溺れているから手伝って

溺れているのはアナタのせい(それは恋のせい)

溺れていたいのあなたのそばで(それは愛のせい)


もう離さない一緒に来て

あなたがいるなら地獄の果てでも

きっと笑って過ごせるわ

きっと笑って許せるわ

あなたは笑っているけれど(それはなぜ?)


何のため?彼は言う

何のため?アタシは問うた

決まってるじゃないか

決まっているじゃないの

二人の言葉はすれ違う

これは思わぬ展開よ


そしてあなたは苦笑い

「ごめんよ」

謝ってほしくない

誤ってほしくない

アタシの言葉は聞こえない

あなたの言葉は聞きたくない


そんなヒトとは思わなかった

あいつの背中を見送って

カップの中から這い出した

ずぶ濡れに牛乳まみれの

独りぼっちな

惨めなワタシはカフェテラス


冷たく冷めた牛乳の中

アタシはコーヒー注ぎ込む

熱々の火傷しそうな真っ黒の

ワタシの心を注ぎ込む

カップの中で混じりあう

黒と白

オセロゲームの裏表

勝ち負けだけが人生か


象牙色のカフェオレが

カップの中で湯気を出す

カップをつかむ手温める


もう飲み頃に冷めているから

もう一度確かめたいの

ワタシは何が欲しかった

ワタシは何を失った


ほろ苦い液体はそれでも温かい

飲み干せば

きっと元気になる

もっと元気になる


秋のマロニエ

街路樹の落ち葉の色はカフェオレよ

店のギャルソンは男前

眺めていればそれだけで

見つめ返せば笑顔がステキ

懲りない女と人は言う


注文した珈琲は

さしずめ漆黒の誘惑よ

人生のすべてを含んで黒くなるから

薫りをたしなむ余地がある

苦味をたしなむ女(ひと)がいる


だから貴方も恥ずかしがらずに

だからそうね


こっち向いて♡

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