逃避行の駅舎にて

もう星は消えちゃった


薄めて冷ましたスープのような

ぬるくて酸っぱい朝が来る


ああ罪深いアタシ

もう覚えていないご乱行

昨日の皆様

ゴメンなさいね


髪をかき上げシャワーを浴びて

懺悔の儀式はもう終わり

気にしちゃワタシは嘘になる

しらじらしいから

ゴミ箱にポイ


昨日の思いで

ゴミ箱へポイ


牛乳パックの白い乳

清らかな牛の乳

子牛の分まで飲み干せば

きっと

きっと

キレイになれる


ココロも体も健やかに

キレイに

綺麗に

身づくろい

ピッカピカに磨き立て

今日もアタシは最高さ


お出かけ前にポリ袋

イッパイごみを詰め込んで

近所の角のゴミ捨て場

放り込んで

投げ捨てる

もうおしまいさ


これっきり

昨日までのアタシはもういない

ゴミのわたしはもういない


ゴミ捨て場には

そんな私が

そんなわたしが金網の中で並んでる


ポリ袋に包まれて誰の目にも触れず

そっとしておいて

誰も触れないで

覗くんじゃねぇバカヤロウ


ゴメンなさいね

今日のアタシは特別なのよ

大事な大事なお客様

もてなすワタシのショータイム


きっと喜ばせ

きっと夢中にさせて

満員御礼

商売繁盛

間違いナシ


だからとっても素敵

だからうっとり気分

そんな気持ちを引き立てる

化粧の女は振り返らない


回収を待つポリ袋

昨日のワタシが詰まってる

ワタシの心が詰まってる

古臭い後悔や

生臭い嫉妬や嫉み

胸のムカつく野郎ども


一切合切詰め込んだ

アタシの汚点よサヨウナラ


ワタシの魂さようなら

もう会わないし逢えないのよ

過去の男たち

夢中にさせて惚れさせた

いかれた野郎たちに祝福を


ワタシのかけらを一緒にどうぞ

お気になさらずバイバイしましょ


振り返らないアタシの未来

それは電車に乗って環状線

それは廻り回って

始発駅から終着駅へ

同じ名前の堂々巡り


家に帰れば同じこと

また繰り返す懺悔の儀式

買い置きしてる牛乳パック

いくらあっても足りやしない


どうしよう

もう下りないぞ終着駅

どうしよう

もう捨てられないゴミ袋


途中下車して乗り換えて

何処かの最果てローカル線に

揺られて過ごすも今日限り

無人駅の終着点


街の明かりが遠くに見えた

それを見てたら恋しくなって

それを見てると寂しくなって


「もう帰ろうか」と独り言


明日の始発は何時だろ

真夜中の女は星を見る


まだ星は

そこに輝いて

瞬いているのはおんなの瞳


夜空の中にまだ見ぬ

アタシの夢を追う

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