フェロモン談義。
会社の同僚三人でランチを食べながら、なんとはなしに、'女性のどこに一番ハッとしてグッとなるか'といった話になった。
部長が、
「やっぱり〝脚〟かな。すらっと綺麗な足だとついて行きたくなるね。」
というので、
僕は、
「すらっと綺麗な脚・・・分かります分かります。が、しかし、やっぱり僕は、〝おっぱい〟ですね。真っ昼間から発音するのも気が引けるし、とても恥ずかしいのですが、やはり女性のシンボルです。魅力的です。」
と言った。
部長が歯の間にホウレン草のソテーをくちゃくちゃさせながら言った。
「ワキミズくん。アレかい?シンボルって言ったら、女性のシンボルが仮に、おっぱいだとしたら、東京のシンボルは今や東京スカイツリーだって、そういうことかい??」
「よく意味は分かりませんが、全く違うと思います」
僕は冷たく言い放った。
後輩のHが、神経質そうに野菜と肉を取り分けている。
趣味は鉄道とジオラマ製作というナイズガイである。
「あのさ、Hは、どう?こんな下衆な話はキライかい?」
と、僕が聞くと、
しばらく意外そうな面持ちで僕をじっと見つめながら、少し怒ったような表情でHは言った。
「バニーちゃんですよ」
・・・。
バニーちゃん??
今、確かにこの男はバニーちゃんと言ったぞ。
・・・。
はて、女性には〝バニーちゃん〟といったパーツがどこかにあったのだろうか。
僕は困惑した。そして、こんなときにこそ逆に考えるんだ!といった荒木先生の教えに従って、逆に男性には〝バニーちゃん〟といったパーツがあるかを考えてみた。
無論、なかった。
女性にだって、〝バニーちゃん〟といったパーツはきっとない。
しかしながら、人間で最も悪しき、そして、悲しい行いは決めつけることである。もしかしたら、エクアドル人あたりが、男性のギャランドゥを指して、「オーゥ、バニーチャン。ヒデキ・バニーチャン」とかなんとか言っている可能性も零コンマ何パーセントかは残されているやも知れず、確実に、ないかどうかは誰も断定はできないのであるが、きっと、ない。
そもそも、
「女性のどこにグッとくるか」
という、「どこに」の問いに対して、
「バニーちゃん」
といった回答は、やはり日本語としても不自然である。
僕は、毅然とした態度で、
「H君、バニーちゃんはおかしい。君はバニーちゃんのコスプレをした女の子が好きなんだろう」
と言った。
横で部長が、
「私はバドガールが好きだぞ」
と、おしぼりで鼻をかみながら言った。
バドガールなぞ知らん。
Hは言った。
「あのですね、いいですか。〝バニーちゃん〟は〝バニーちゃん〟なんです。誰が着ようが着るまいがそんなのは関係ない。大事なのはフェティシズムなんです。僕は女性と〝バニーちゃん〟はニアリィイコールではなく、同義的なものとして捉えているのです。」
・・・。
まったくわからん。(どうしよう)
僕は、完全に質問した相手を間違えたと思った。
「ごめん、僕が悪かった。君は、〝バニーちゃん〟そのものに、深い愛情を持っているんだね」
僕が言うと、Hは誇らしげに、
「そうです。その通りです。ネットで毎日いろんな〝バニーちゃん〟を見るし、ハンズで何着も購入もしています。何時間みていても飽きません。ゴッホの絵画を眺めるようなものですよ」
と言った。
僕は思った。きっと、Hは、世の中の女性を、芸術的で崇高なものとして捉え、ある意味では、繊細且つ純真無垢な性格なのだと。
「君はすごいな。女性の見方が、他の追随を圧倒的に許さないほど、急角度に突き抜けているんだね」
僕はある種の畏敬をもってそう言うと、彼は少し照れた様子だった。
ただ、僕はどうしても気になったことがあったので、敢えて聞いてみた。
「本当に申し訳ない。君のぶっ飛んだ趣向はよく分かったが、敢えて、敢えていうのであれば、女性の〝どの個所〟にグッとくるんだい??」
僕は、敢えて、〝どの個所〟の部分に力を込めて発音し、聞いてみた。
Hは、しばらく考えこんでいたが(部長はその間にウ○コをしに出ていった)、少し小首をかしげながら、
「やっぱり・・・」
「やっぱり??」
「やっぱり、〝アソコ〟そのものでしょう」
と言った。
・・・。
・・・・。
こいつ、変態だ。
生粋の変態だ・・・。
僕は、
「ごめん・・・、やっぱり全くお前のこと理解できねーわ」
と言うと、Hは悔しそうに、
「いいえ、ワキミズさんは全然分かってませんね。いいですか、ワキミズさん。ワキミズさんが、彼女から、〝私、ワキミズさんというより、ワキミズさんの〝アソコ〟そのものに夢中なの〟っていわれたら、超絶に嬉しくないですか」
僕は思った。
〝私、ワキミズさんというより、ワキミズさんの〝アソコ〟そのものに夢中なの〟
だと・・・。
ワキミズそのものよりも、ムスコさんに首ったけ、なんだと??
もはや、ワキミズの黒糖ドーナツ棒(フジバンビ)なしには生きていくこともツライ・・・だと???
・・・。
あれ?? ほんとだ???
なんだかとっても嬉し恥ずかしい・・・。
部長がものすごく手を濡らしながら戻ってきて、
「ワキミズちゃんごめーん。トイレに一万円札流しちゃった・・・。今日はチェックしといてくれないかな・・・。」
と言った。
そんな最低な昼休み。
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