02 雨中開戦

 大村は開戦にあたり、上野の近くの河川や街道も封鎖し、果てはおしや川越、古河にも兵を入れ、念の入った固め方をした。

 をのぞいて。

 そして雨天の予測の元、彰義隊に宣戦布告。


ッ」

 黒門口、薩摩藩兵は西郷の号令一下、半次郎を中心に、篠原国幹しのはらくにもと川路利良かわじとしよしらが攻撃を開始。

「こんゆっさ、薩摩が死なねば勝てぬ」

 西郷は大村の戦略ストラトギーに理解を示し、己が大村の立場でもこうするだろうと考えていた。

 陸軍の主力、長州奇兵隊は北陸に出征中であり、旧幕府陸軍や艦隊は、いまだ健在。

 そして。

「半次郎、大砲おおづつじゃ」

 川路の指差す方向、上野の山の高台、山王台から彰義隊が砲撃、黒門口に迫る薩摩藩兵を襲う。

 ちなみにこの山王台は、今日こんにち、西郷隆盛像が立っている場所である。

「死ね言うは、か」

 半次郎は笑った。

 篠原は黙ってうなずく。

 半次郎はひとつ伸びをすると、突撃を命じた。

っど。おいたちが派手にやればやるほど、搦手からめて

 大村の意図を、半次郎は正確に理解していた。

 かつての師赤松小三郎から、戦術タクチーキを徹底的に叩き込まれていたからである。


 搦手。

 黒門口から反対側にあたる、谷中やなか口。

 長州藩兵ならびに佐賀藩兵もまた、配置についていた。


「チェスト!」

 半次郎は自ら刀を振るって黒門へ向かった。

 彰義隊はその防戦にあたりつつも、火矢を放った。

 ここは江戸市中。

 商家といい、民家といい、は尽きない。

 だが。

「こん雨じゃ、無益!」

 半次郎は振り向きもせず、黒門口へと吶喊とっかんしていった。

 川路は念のためにと振り返るが、火は上がっていなかった。

「恐るべし」

 川路は舌を巻いた。

 これを期して雨中開戦を仕掛けた大村の鬼謀に、そしてそれを悟っていた半次郎に。

 その半次郎は戦いながら、山王台から砲弾が襲う中、縦横無尽に駆け回る。

 それは半ば本能的な動き。

 しかし半次郎はそれにより、勝機を見た。

「川路!」

「何じゃ!」

 半次郎を、篠原と共に掩護していた川路が怒鳴る。

 そうしないと聞こえないほど、激しい砲撃だった。

 半次郎もまた、怒鳴る。

「あすこの店、二階じゃ!」

 それだけで川路は理解する。

 半次郎の言う、山王台の横の店の二階から銃撃すれば。

山王台あの高台を撃てる!」

 川路は西郷へ伝令を飛ばした。


 

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