第15話
[福良、今どこ?まだオフィス?]
[もう家です]
[行ってもいい?理由は分かってると思うけど]
[いや、俺が伺いますよ?]
[いや、俺が行くわ]
端的なメールのやり取りの後、程なくして、インターフォンが鳴った。
ピンポーン
「こんばんは……」
「……うっす……」
ファルコンさんは言葉少なめに挨拶し、居間のソファに腰を下ろした。
俺はキッチンへ回り、コーヒーを入れようとした。
「いや、いいよ。すぐ帰る」
「でも……」
「明日も外だから」
ファルコンさんは外部での仕事が忙しく、最近オフィスに来ていない。
「で、早速だけど」
「はい……」
“早速”と言ったが、無言だった。
暫く。。
体感的には五分は沈黙に感じた。
「ファルコンさん、あの、、」
無言に耐えきれず話し始めると、ファルコンさんが頭を下げた。
「ごめんな‼︎‼︎ ホント‼︎」
「えっ⁈」
俺はてっきり殴られると思っていたので、真逆さに驚いた。
「いやー……なんつーか……あいつの編集スキルで誘ったってのが、もちろん、もちろん!あるけど……けどさ、、あいつが福良好きだったのも知ってたからさ……それもあってどうかなって思って、誘ったからさ……俺にも責任あるなぁーって」
「えっ⁈ あ、会う前から俺の事好きだったんですか⁈」
「うん、あれ?知らない?だから、内緒で会わせて怒られたのよ。」
「あぁ!初対面の日ダッシュ‼︎」
「そ、恥ずかしくて逃げたのと、俺が言わずに会わせたから」
「…」
「マジ⁈…… 気づいてなかった?」
「あ、、はい……何が何だか分からなかったです……」
あの夜は頭が回らなかった。
初めての感覚だった。
人には凄く興味があるし、自分にはない事が出来る人や自分にないものを持っていると余計興味が湧く。
しかし、初対面であんなにもワクワクした人は初めてだった。
そして、初対面の人にヤキモチを妬く感情を抱いたことも。。
自分の不可思議な感情に手一杯だった。
「そっか……でも、あいつが福良の事、、、好きなんは分かったんだろ?」
「あぁ、、まぁ………」
「いや……だからだよな……ごめん。気を遣わせて……」
「その……さっきから何を……」
「え?だって、彼女いたんだろ、福良」
–もうそんな話をしたんだ–
言葉が出てこない。
「…」
「俺もてっきり福良もムツのこと、好きなんだと思ってたからさ……でも、ムツが自分の事を好きだって気持ちに気づいて!合わせてくれたんだろ?」
「そうゆうわけじゃ、、、」
「“今日彼女に会ったんだ”“だからあのお店に一緒に行ってくれなかったんだ”って。“福良さんと同じシャンプーの匂いする子と会った”って。」
「……」
「最初聞いた時、彼女いんのにムツと――って思ったから、殴りに行こうかとしちゃってさー。そしたら“私が勘違いしてたー‼︎”って止められて。」
何と言っていいか。
ファルコンさんに全て話す?
信じてもらえるか?
、、あわよくば睦さんに誤解を解いてもらえる⁈、、
都合の良い事やらどうしたらいいかと、頭の中が忙しかった。
「アイツさ、ずーっと好きだったからさ、福良の事。舞いあがっちゃってたみたいでさ。ほんとごめんな〜」
「そうなんですか……んっ⁈えっ⁈ずっと……?」
頭の中会議とファルコンさんの会話を両方聞いていたので、ファルコンさんへの反応が遅れた。
「まぁ、“ずっと”って言えると思うよ。
Webの頃から好きで、、YouTube開始からすぐ福良福良言い始めたし」
「でも、最初顔は……」
最初のYouTubeは“声”でしか登場していない。
「声。話し方。笑い方。よく言ってたよ。だから、顔出しした時はもう、、大変なんてもんじゃなかったわ!
まぁ、………だからさ、大好きな時間が長すぎたわけでさ。大好きな人に優しくされただけで、好意があると思って舞いあがったわけでさ……小学生かっつーのな!」
ファルコンさんは、無理に笑った顔をして笑った。その顔を見て、更に辛かった。
「……」
「んでさ!もう、オフィスには来ないから!」
「えっ⁈」
「本業忙しいのもあるけど、編集あったら自宅でするって。新しい人も入ったなら――って言ったらしいが、それは伊沢が止めたらしくてさっ。まぁ編集スキルは高いからかな。これからはメールでー、、、ってそれも気遣うか。
、、連絡は俺がするわ‼︎ ほんと悪かったな!」
「いや……あの……ファルコ……」
「ごめん!電話だわ。じゃ、また」
ファルコンさんは忙しそうに、話しながら出ていった。
俺は暫く動けなかった。
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