第9話

ソファに腰をドカッと下ろした。


「はぁー、、、」


深いため息をついた。

毎度ながら嫌になる。昔からそう。

熱くなり、言いたいことを言う。

そして後悔する。

あんな態度、良くない。



足の怪我で時間潰し程度に――のつもりだったが、作業をしてみると面白く、時間を忘れてしまう。

そして、楽しいだけでなく、評価してもらえる事が嬉しかった。本職もいい会社ではあるが、どちらかというとチームワーク作業というより、ソロプレイ。チームで『商品』というものをチームワークで作ってはいるが、チームワークのカタチが違う。

提出した画像を皆で確認し“いいじゃん!”と直で評価してもらえる事が嬉しかった。


そして、嬉しい事がもう一つ。

登録者数が飛躍的に上がった。

これに関しては周りも驚いていたが、誰よりも私自身が一番驚いた。ファンが見たいと思う深堀りであったり、アングルなどこれまでとは違った撮り方にも意見したりもした。


テレワークで作業していたが、次第に相談しながらの作業や、カメラ位置の細かい指示など、在宅だと色々と厳しい部分が出てきた。


この頃には、最初のような“恥ずかしい”みたいなファン的な感情は皆無に近く、完全に社員意識になっていた。


それでも初出社は緊張した。

入り口は暗証番号を入力して入るドア。

インターフォンを押した。

「、、あ、今開けますね!」

ーあ、この声ー

ガチャりとドアが開いた。

「ふふ、おはようございます」

「お、おはようご、ございます」


緊張しながら福良さんの後ろについていき、部屋を案内された。


「で、ここが撮影室ね」


あ、いつもPC画面で見るー

ソファ、、デスク、、ルービックキューブ、、

ーカメラ位置はこっちのがいいな、、あとここにも設置したいな、、


「、、さん、、さん、、睦さん!」

「あっ!すみません‼︎」


思わず今まで考えていた事を考え始めてしまった。


「じゃぁ次の部屋が最後。編集室、行こうか」


「デスクは自由にどうぞ」


この後、早速編集作業に入った。

緊張は福良さんを見た時が最後で、すぐに編集モードに入り、一時間後にはカメラ位置を指示、セットしていた。


本業はフレックス出勤なので、撮影日は午後休暇を取り撮影に参加する様になった。


編集中は、一人の演者として見ているが“編集スイッチ”をOFFにすれば、やっぱり福良さんの事は大好き。この気持ちは変わらずだった。


福良さんは、、福良さんも、、?

、、確信はない。

しかし、今日のような他の人と話していると突っ掛かってきたり、遮ったりする。ただ、仕事に対しての厳しさ?違う意味?分からない。


どうゆう感情でかは分からないが、ただ話しているだけであんな強く言われれば、私もつい反抗してしまう。


その時は正しいと思っている。

しかし、時間が経つと“間違った態度だったかなぁ、、言いすぎたかなぁ”と後悔の波が押し寄せてくる。その波の勢いは凄まじく、いつも飲み込まれてしまう。この波に飲まれたら、もうどうにもいかない。溺れるだけ。



私はスマホを手に取った。




「……どした?」

「ファルコン、、、」


こうゆう時は話を聞いてもらうが一番


「……でね、“話したくない”って言っちゃったの!どうしよ、、怒ってるかな、、」


「何回目だよ、、こうゆうの⁈」

「……五回くらい……?」

「倍だよ、倍‼︎ ざっと考えたって、二桁はあるよ‼︎ 」

「…はぁ、って事は今日も進展なし?」

「、、うん、、」


「はぁ……付き合ってもいない。告白もしない。けどヤキモチはやくわけだ……ハッキリして!って思わねぇの?」


「……気まずくなりたくないし、、別に……」


とは言ったが、そりゃ好きだし彼女になりたいとは思ったりはする。


しかし、気まずくなりたくないもあるが、下心で入社したと思われるかもしれない。

福良さんにも皆んなにもそんな風に思われたくない。


だから、告白はしない。

付き合う事もない。


そう思っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る