第8話

……ふんっ。


イライラする。

しかし、イライラしている時はいつも以上にスピードが上がる。

次第に“編集high状態”に入った。


ノイキャンしたかのように周りの音は聞こえなくなり、頭や目の前に次々と文字が浮かんでくる。浮かび上がった言葉からBestをtypeする。

頭の中で流れるBGM……




「……はぁ、ダメだ。また“入っちゃった”」

「まぁ、早く終わるし、いいんじゃん?」

「たださぁ……帰れないよなぁ、俺らも」

乾とノブがため息混じりに睦を見ていた。

彼女はパソコンを睨みながら仕事し続け、もうとっくに定時過ぎた。

恐らく彼女の耳には定時を知らせる合図も、視界も遮断され、現在編集室のデスクには彼女しか座っていない現状に気づいていない。


「あれ、ノブも乾も突っ立ってどした?」

編集室に入ってきた福良が二人に話しかけた。

「……」

二人は無言で目線を彼女に送った。


「あぁ、、なるほど、、」

二人の方が勤務年数は長いが、年齢と編集処理能力やセンスからか、あっという間に彼女の方が“先輩”になってしまった。


「俺残ってるから、二人は上がりな」

「……じゃぁ、、すみません。あがります……」

二人が遠慮しながら、申し訳なさげに出て行った。


遠くから“バタン”とドアの閉まる音がした。


彼女に話しかけてみようかと一歩近づいた瞬間だった。

「よしっ‼︎ 終わりっ‼︎」

彼女が急に大声を上げ、立ち上がった。


「わぁ!、、、お、お疲れさま〜」


「……」


優しく言う福良に対し、彼女は福良を睨んだ。


彼女はサッと目線を手元に戻し、サッサと帰る支度を始めた。

慌てて福良も片付け始めたが、遅かった。

すでに彼女はリュックを背負っていた。


「お疲れさまでした。お先に失礼します!」

深々と頭を下げ、部屋を出て行く。


「ちょっ……ちょっと‼︎」

「なんでしょうか?」

「いや……あの……」

「本日のお仕事……いや、来週分の仕事もほぼ終わっています。経過報告も入力し、映像はレビュー依頼をしてありますが、、何か?」


いつもよりスピード早く話す彼女。

言葉出ずにいると、福良を交してドアへ向かおうとする。


福良はドアの前に立ち、退出を遮った。

「待ってよ……」

「……」

「……昼間の事、何か怒って……」

「はい、怒ってます!だから話したくないです。帰ります!!」


彼女は福良を退けて、出ていってしまった。

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