第3話

ファルコンさんが帰ってからも数字当ては続いた。一度も外れる事はなく、原理もわからない。何かタネがあるんじゃないかと、探ってみたが全くわからない。しかし、“分からない”はワクワクする。全く分からないが、外れる事はない。ワクワクは大きくなるばかりだった。

しかし、暫くして店員さんが閉店を知らせに来た。


「残念だな、、」

“ホントに残念、、”


帰る支度を始めると彼女の様子が変わった。

『えっ、、あれ、、、』と彼女はキョドキョドしている。


“そういえばファルコンさんが見えないからって言ってたな……”


顔面蒼白の彼女。


「……大丈夫?」

さっきまでキャッキャと笑っていた彼女の顔は、ズンと重たく、暗い顔だった。


「……もしかして、、吐く?」

「いや、吐かないです」


話し方も声もさっきまでとは一転し、低くハキハキとしている。

「えっと……実はですね……」


彼女は、一生懸命落ち着きを取り戻そうとしている。

僕は自分の状況を必死に伝えようとする彼女の手を握った。

「大丈夫。安心して。俺が目になるから」


“、、やばっ!はっず……”

言った後に恥ずかしさが込み上げてきたが、僕の恥ずかしさとは裏腹に、彼女の表情は安堵に変わっていた。


“よかった……”





「真っ直ぐね、で!ストップ」

彼は私の手を握り、細かく説明をしながらゆっくり歩いてくれた。


「ここで待ってて、お会計するから」

「いやっ‼︎お金は私が‼︎」

「いいよ、僕が払……」

「私がっ‼︎‼︎」

こんな事までしてもらい、お会計なんて!

ここは絶対譲らない‼︎

「……じゃぁ……」

私の前にあったぼんやりとした背中が視界から消えた。


手探りで鞄の中からお財布を取り出し、カードで会計を済ませた。

振り向くと人はいるがどれが彼か分からず、キョロキョロした。


「あれ〜どうしたの、一人?」



……さっきまでの人の声じゃない……


「酔ってるのかな〜?ねぇ、一緒……」

知らない声の人は私の手首を掴んだ。


「えっ、、あの、、私、、」

“こわっ…………”


「俺の連れなんで‼︎」

急にグイッと体を引き寄せられた。

この声……


“なんだよ、連れいんのかよ”

知らない声の姿が小さくなっていく、、


「ごめんね、靴を用意しとこうと思って……怖かったよね?大丈夫?手首痛くない?」


彼が私の手首を優しく持ち上げた。


「大丈夫です、、ありがとう、、ございます」

思わず手を引っ込めてしまった。


「なら、よかった。じゃぁ行こうか!はいっ、手」

さっき思わず引っ込めてしまった手を言われるがまま差し出すと、彼は優しく握り、私の体も支えながら靴を履かせてくれた。


「……なんか、、こんな、、ごめんなさい……」

「いいの、気にしないで!いこっ‼︎」


手を繋ぎながら、店を出た。







「……あのさ、、ファルコンとはいつからの友達なの?」

俺は実はずっと気になっていた。なんとなく感じる二人のなんともいえない雰囲気……

ただの友達と思えなかった……


もしかして、友達以上、、?


「あぁ……言ってないんだ……なんでだろ」

“何その言い方”

「……友達、、じゃないの……?」


「友達ではないかな……」


“何それ、、”

“もしかして、元カノと元カレ⁈”

“まさか……まさかワンナイト……”

“、、セ、セフレ的な、、”


嫌な想像で頭がいっぱいになり、思わず黙ってしまった。すると彼女が慌てて俺の前に立ち塞がった。


「‼︎イヤイヤ、違うから‼︎そうゆんじゃなくて‼︎」

彼女は僕の前で激しく両手をふり、強く否定した。

「えっ?」

「違う‼︎カラダの関係なんてないから‼︎‼︎」


「えっ?声に出てた⁈」

「いや、、声には出てなかったけど、、」

さっきまでの強い言い方とは一転し、歯切れ悪くモゴモゴ言っている。


「、、えっ、、まさか、、⁈」


“繋いだ手から⁈”

“まさか、、”


数字当てなんて非ではない。

不可解すぎる、、

そんな伝わるなんて、、


僕の頭は“なぜ分かったんだ”という問題で埋め尽くされていた。


「いとこ! ファルコンと私はいとこなの!」


違う難問を考えている間に、最初の答えが発表された。

その問題をスッカリ忘れていた為、理解するまで少し時間がかかった。

「い、、とこ⁈ 、、いとこ、、イトコ、、あぁ!いとこ!いとこか!全然似てないね‼︎」

「、、似てないよ。別に兄妹じゃないし、、」


“いとこ、いとこ”と何度も言い、更に訳の分からない“似てないね”、、

こんなにアホな返答は人生で初めてだ。


しかし、、

あのなんとも言えない雰囲気はそうゆう事か……


「、、でも、最初からそうパッと言ってくれればいいのに」

「いや、ファルコンから聞いてると思って……何で言ってないのかなーって考えちゃって。」



「仲良しいとこなんだ、二人は」


“とりあえず安心した……”



“?、、安心したってなんだ……”

初対面の相手に……

これから彼女とは仕事の仲間になるだけ。


今日は何だか変だ。

自分の感情と格闘していると、彼女は思い出すように話しながら歩き出した。


「仲良しってか、、、ファルコンは心配しぃで。兄より兄っぽくて。」


“あ、お兄さんいるんだ……”


「今日もたぶん“ちゃんと着いたか?”って連絡来るか、家の前で待ってるかどっちかかな」


“へー……ほんと心配しぃ……”って……


んっ⁈


「えっ?家の前で待ってる……?」

その後も彼女はこれまであった心配しぃ話を沢山してくれた。

「あとー、、」

新しい話をし始めようとすると、彼女が前方を指さした。


「ほーら‼︎いた!」

指差す彼女の先に誰かいる。


「えっ、、見えるの?」

「見えないよ。見えないけど、あの背中の丸まった感じはファルコンだなって!」


その丸まった背中に近づいていくと、確かにファルコンさんだった。

ファルコンさんはゆっくりと立ち上がった。


「……おせーよ……」

ポケットに手を突っ込み、吐き捨てるような、絵に描いたような不貞腐れ方をしている。そして、大きくため息をついた。


「はぁ、、、福良、悪かったな。家まで」

“まるで自分のものみたいな言い方、、ただのイトコだろ、、”


「そんな全然大丈夫で……」

ファルコンさんに返答している途中、彼女は驚いた声で僕を遮った。

「…ふっ…ふ……くら……さん……?」

彼女はキョトンとしている。


「えっ?」

三人して声が揃った。



「……」


彼女は硬直し、微動だにしない。


ファルコンさんも僕も何故か動けず、目を見合わせた。


ファルコンさんが目で“なんか言え!”と訴えてきた。


「、、い、いやー確かに言ってなかったね、タイミング逃しちゃって……ほらぁ〜ファルコンさんが最初に遮ったから〜。

……じゃぁ改めて……福良でーす。」


いつものように顔の横で手を広げて、ニッコリ挨拶した。


“あれ、、すべった……?”


彼女の反応は

無……だった。



“やば……はずっ……”

そう思っていると突然彼女が叫んだ。




「ファルコンのバカ‼︎‼︎」


そう言って急に走り出し、エントランスに入ってしまった。


「ちょっ……おいっ‼︎待てっ‼︎……ごめん福良‼︎後で連絡する‼︎マジで送ってくれてありがとう‼︎じゃ!」


“待てって‼︎”

ファルコンさんは彼女を追いかけていった。




――この状況はなんだ――


今日は分からない事だらけだ――――

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