第2話

「それでね〜、私が――」

ご機嫌に話す彼女。お酒が入り、気分は更に上がる。

どうやら仕事でいい事があったらしい。


「ねぇ、ちゃんと聞いてる〜?」

「はいはい、聞いておりますよ。」

「じゃぁ、一語一句間違えずに言ってみて!」

「それは無理だけど、えっと――」


俺の特技。全部は聞いてなくてもそれなりに聞いてる風にまとめる事が出来る。俺の話を聞いて更に満足そうな彼女。


「よく出来ました〜!んじゃぁ、続きね‼︎」


ご満悦講演は続き、お酒は進んでいった。


「 あっ、、いたっ、、」

「んっ?どした?」


話の途中、ご満悦な彼女が突然顔をしかめた。

「分かんないけど、急に目痛くて、、」

「なんか入ったんかな、見せて?」


特に何も入っているようには見えなかった。しかし、痛みは続き、彼女は“鏡、見てくる”と立ち上がり、お手洗いに向かった。しばらくすると、フラフラと壁を触りながら戻ってきた。


「外したのか、コンタクト」

「……うん。なんか目ん中で破れてた。だから、痛くはないけど、まったく見えん……。ファルコン帰りさー、家まで送ってほしい。。すまぬが、、」

「それはいいけど、大丈夫か?もう帰る?」

「え?なんで?具合悪いわけじゃないし」


人が心配してるのに……もう飲み始めた。

まったく……


遠くで声がする。



“いらっしゃいませ〜”

“お一人ですか?”

“あ、奥のお座敷に――”


お!着いたかな。


「……すみません、遅くなりました‼︎」

福良がお店の人に案内され、座敷へと入ってきた。

「おぉー‼︎お疲れ様ですー!」

俺は福良を手招きし、彼女の横に座るよう促した。


彼女の横に座り、

「はじめまして、ふく……」

“マズイ!名前は……!”慌てて口を挟んだ。

「あぁ――‼︎おい!来たぞ!起きてっか?」

トロンとした目で彼女は福良を見た。


……コンタクトしてないから、あの距離じゃ“顔がある”って認識程度だな……


「……はじめまひて」

フニャッと笑って挨拶した。


“やっぱり……”


彼女が挨拶しても、福良は暫く反応しなかった。

“珍しいな……人見知りしないタイプなのに…”


少し間があいてから福良が反応した。

「……は、はじめまして」


「フフ……いい声ですね〜好きな声」

フワフワ笑いながら、少し揺れている。


“見えないとこんなに酔いが回るのか……”酒が強い彼女がこんな状態は見た事がない。


彼女に気を取られていたが、福良の顔は真っ赤になっていた。


「……ふく……」

話しかけようとしたら、福良から話しかけてきて、言葉がぶつかった。

「もう彼女、だいぶ飲んだんですか?」

「まぁ、それなりかな。ただ、いつもはこんなにはならないんだけど、コンタクト外してから酔いが回りやすくなったみたいで……」


突然彼女はムクっと起き、じっと福良を見ている。


「嫌いですか、私の事‼︎」

「……えっ⁈」

「酔ってる女は嫌いですか⁈」

「そうゆうわけじゃないですよ……」

「じゃぁ……好きですか、私の事」


“何を言い出すかと思ったら……”フッと鼻で笑い、福良を見ると魔に受けたのか困った顔をしている。


「えっ……あっ……あの――」

“そんな露骨に困るかね…”



「ほら、おいっ!得意のアレ‼︎やってみろよ」



「得意のアレ?」

福良が聞いてきた。

「コイツ、読めるんすよ、心」

「えっ?」


何を言ってるんだろうかと混乱してると、彼女は福良の前に左手を差し出した。福良は彼女と同じように手を出した。


「察し悪っ‼︎」

そう言って福良の手に彼女は手を重ね、恋人繋ぎをした。


「えっ⁈」

戸惑う福良を無視し、彼女は言った。

「数字を思い浮かべて下さい。」


言われるがまま福良は目を閉じた。


「……ふふ、あの――普通の数字でお願いしてもいいですか?」

「えっ⁈」

笑いながら彼女は言った。福良は驚き、目を見開いた。


「なに、なに?なんだよそれ?」

俺は彼女に聞いた。



「何人かにやったけど“数字を思い浮かべて下さい”で『√2』を浮かべた人、初」


「わはははは……さすが福良!」

俺と彼女が笑う中、福良はキョトンとしている。


「……ホントに読める……の?」

「ふふふ……」


そのあと、二桁……三桁……五桁……八桁……


「なんで?????」

当てる度に新鮮ない反応で福良は驚いていた。


「素直な人ほどよく読めるんです。真っつぐな方ですね〜」

嬉しそうな彼女。


しかし――

いつまでやってんかね……二人は……


「……俺、帰るよ?」


試しに言ってみた。


「あ、そう。」


アッサリとした反応のあと、また“はい、分かった〜”と続けている。

「えっ?……ねぇ?マジで帰っちゃうよ?」


「ふふふ、ばいば〜い」

二人して手を振り、繋いだ手も振り始めた。


“マジかよ、、”

「マジで帰るからな!」


俺が立ち上がってもキャッキャし続ける二人。

ちくしょう、、

“やっぱ帰らない”なんて言えねぇじゃねぇか。


ファルコンは店を出た。

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