閑話:第4話 それ行け! 僕らの御者さん!!
「あ〜る晴れた〜 ひ〜るさがり〜 荒野へ続くみち〜 に〜ばしゃ〜が〜 ご〜と〜 ご〜と〜 王子〜を乗せて行く〜 かわ〜いい〜 お〜うじが〜 売られてゆ〜く〜よ〜 か〜なしそうな〜 ひと〜みでみているよ〜 ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜 王子をの〜せ〜て〜 ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜 荷馬車がゆれ〜る〜」
最近、酒を呑むとつい口ずさんでしまう一曲。
〝バン!!〟
「あんた! また辛気臭い歌を歌って! こっちまで気が滅入ってしまうわよ!」
妻がテーブルを叩いて注意をしてくる。
10日前のあの日。
第3王子を荒野にほっぽり出してから、何かと上手くいかない。
特に妻の機嫌が悪い……。
まさか、妻が第3王子のファンだったとは……知らなかったのだ………。
あの王子、王太子が王位を継いだ後、少しでも役に立てれるようにと街にちょこちょこ顔を出しては、王都民と交流を深めていたそうだ。
妻が働く肉屋にもよく顔を出していたとか……。
御者をして、あちこち行ったり来たりしていた俺は知らなかったのだ。
お陰で妻との仲もギスギスだ。
「あ〜る晴れた〜 ひ〜るさがり〜 荒野へ続くみち〜 に〜ばしゃ〜が〜 ご〜と〜 ご〜と〜 王子〜を乗せて行く〜 かわ〜いい〜 お〜うじが〜」
〝バン!!〟
「いい加減にしな!」
また口づさんでしまい、妻に怒られる。
この曲を頭に擦り込んだ元王子の顔が脳裏に浮かぶ。
元気なのだろうか………。
いや、もう死んでいるだろう………。
あそこには魔獣がいる……そうじゃなくても、もう物資が尽きているだろう……。
もう死んでいる……俺が荒野のど真ん中でほっぽり出したんだから。
そのことに関しては、王様達からは文句を言われなかった。
既に死んだと思っている王子だからと。
それだけが……それだけが、唯一の救いなのだ。
……じゃぁ、何故モヤモヤする。
何故、妻との仲がギスギスする。
何故、後悔の念に駆られるのだ。
きっと、あの王子の表情のせいだろう。
誰も恨んでいないかのような表情。
たまたま、自分に有用なスキルが与えられなかっただけ。
そのせいで追放されると理解し、悟った表情。
………。
…………。
……………駄目だ!
〝バン!!〟
このままじゃ駄目だ!!
テーブルを強く叩きながら立ち上がったると、俺は急いで家の外へ出る。
もう間に合わないかもしれない。
もう遅いかもしれない。
でも、探さずにはいられないのだ。
「あんた! どこへ行くんだい?」
「王子を探しに行ってくる!」
背中に妻の声が掛けられるが振り向かずに答える。
ちゃんと答える時間も勿体無い。
俺は急いで厩舎に向かうと、馬を馬車に繋げ荒野へ向けて走らせ始める。
「あ〜る晴れた〜 ひ〜るさがり〜 荒野へ続くみち〜 に〜ばしゃ〜が〜 ご〜と〜 ご〜と〜 王子〜を乗せて行く〜 かわ〜いい〜 お〜うじが〜 売られてゆ〜く〜よ〜 か〜なしそうな〜 ひと〜みでみているよ〜 ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜 王子をの〜せ〜て〜 ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜 荷馬車がゆれ〜る〜」
その時、俺はあの日に王子が口ずさんでいた歌を口ずさんでいたのだった。
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同瀬馬野抱枕
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