第29話
上を向けば外壁に大きく開いた穴から見える景色は灰色の雲が浮かんでいる。
その雲の下には無残にも残骸になった建物が広がっており、その景色は灰色の雲と同じような世界が広がっていた。
コロニーという存在はすでに機能を停止しており、隣にはこの惨劇を共に引き起こした黄色い僚機が立っている。
自分はモニターからメッセージを受け取る。
そこには一つの点が色濃く示されており、どうやらそこは別のコロニーのようだ。
「次の指令を受け取ったか?息子よ」
隣にいる黄色い僚機、クゥ・リトルファーザーが問いてくる。
どうやらこのコロニーが再び復興するまで別の場所で管理者の代行として動けということなのだろう。
「ここも近いうちに監視者の攻撃が始まる。私たちもこの場から離れよう」
クゥ・リトルファーザーがそう言うと、レーダーから複数の反応を示される。
その表示は敵を示す赤い表示をしており数は三つであった。
「最後の仕事のようだな息子よ。ここに来る愚か者を排除するぞ」
クゥ・リトルファーザーが大口径レールガンを構え、発射体勢に入る。
自分はその攻撃に巻き込まれないように射線から離れて向かってくる三機に対峙した。
「おいおい……。マジであいつなのかよ」
その一機は見覚えがあった。
彼はビックマウスであったがやるべきことをやろうとしている者の姿であった。
「あいつがこんなことを……正直信じられないね……」
その一機は見覚えがった。
彼は達観的な口ぶりだが、自分の身を顧みずに作戦を成功に導く者の姿であった。
「ですが、これが現実です。悲しい事ですが」
その一機は見覚えがあった。
彼女は不器用な動きながらも、味方を信用して身を削る者の姿であった。
キャプテン・プロテクター。
フォルトゥーナ・スマイル。
ロンズ・デーライト。
自分の目の前に現れたのはいずれも自分と作戦を共にしたことのあるこの三機であった。
「ロウの旦那がやられたと聞いたが、まさかやったのはお前だったか……正直に言って失望したよ」
フォルトゥーナ・スマイルが通信越しで落ち着いた様子でこちらに言葉を流す。
話すその声はにはどこか落胆しているようだった。
「嘘だと言ってくれよな?お前が……お前がこんなことするなんてよ……後ろの奴に騙されてるんじゃねーか!?」
キャプテン・プロテクターが通信越しで焦りを感じている様子でこちらに言葉を流す。
彼は未だに自分が主犯ということが信じられない様子であった。
「貴方がなぜこんなことをしたのかはわかりません。ですが無関係な者を巻き込んだ罪は重いです。貴方はこの裁きは受けるべきです」
ロンズ・デーライトは通信越しで怒りを感じている様子でこちらに言葉を流す。
その声色には怒りと共に僅かな戸惑いも感じられた。
それぞれの声を聞いていると、ブルー・スワローの背後から巨大なエネルギー反応がモニターで確認される。
クゥ・リトルファーザーがこちらに向かってくる三機に対して遠距離攻撃を行おうとしていた。
「ッ!!やべぇ!!」
その光景を確認した三機は瞬時に回避行動を行おうと機体を傾ける。
クゥ・リトルファーザーの狙いはこの場で援護射撃が得意なフォルトゥーナ・スマイル。
回避した彼に狙いを定め引き金を引こうとした。
――ガキィン!!
突如として自分の背後から何かの甲高い金属音が周囲に鳴り響く。
ブルー・スワローは咄嗟に機体を振り向かせ、クゥ・リトルファーザーのほうを見た。
――バチチチチ……。
後方にいたクゥ・リトルファーザーの機体は突如として現れた機体に踏まれるように乗っかられていた。
放とうとしていた大口径レールガンを持っていた右腕は乗っかている機体の脚部によって踏まれており、銃口は地面を向いていた。
そしてクゥ・リトルファーザーの機体の左肩から胴体に向かって上から手に持ったブレードによって貫かれていた。
――ギギギギギギ……。
鈍い音を立てながらクゥ・リトルファーザーの機体は抵抗も出来ずに動かなくなっていく。
そこに座るかのように鎮座するその機体の色は薄桜色をしており、肩には薔薇の花びらの背後に鎌が描かれたデザインしたデカールが貼られていた。
「久しぶりだな」
聞き覚えのある凛とした声が自分の耳に入る。
声の主は紛れもなくセレナであった。
ただ一つ違うのはその声が普段よりも低く、そして憤怒に満ち溢れているという事であった。
――ガキィン!
セレナの操るローズ・リッパーが胴体を貫いたブレードを引き戻す。
その衝撃によって少しでも抵抗しようと動いていた左腕が外れ、大きな音と共に地に落ちていく。
ローズ・リッパーは引き戻したブレードで今度は首元から胴体に向けて狙いを定め、そのまま突き立てていく。
――ガギギギギギ……。
抵抗できなくなった相手の首元から胴体にブレードを強引に突き立てていき、やがて胴体のコックピットに刃が到達する。
持ち主を失ったその機体は力が無くなるように機能を完全に停止した。
「残念だよ……。お前が殺しの味を占めたことがな……」
その一言を聞いているといつの間にか向かってきた三機がブルー・スワローを中心にして取り囲んでいた。
「これで四対一になったが卑怯って言うなよ?お前は大量虐殺者なんだからな。これは当然の行いさ」
「これなら俺でもお前を墜とせそうだぜ!」
「油断しないでくださいキャプテン・プロテクター。貴方の悪い癖、出てますよ」
三機が戦闘モードに移行するのを見て、ブルー・スワローも同じように移行する。
背後を確認すると半壊したクゥ・リトルファーザーの上部を蹴り飛んで着地するローズ・リッパーが見えた。
「躾が十分ではなかった結果がこれか……。私の甘さが原因ならケジメをとらせてもらう」
四機がブースターを吹かせ、一気にこちらに向かって行く。
自分はブルー・スワローを高く飛び上がらさせ、空中戦に持ち込もうとした。
「悪いが、逃がさないよ」
その様子を見て、フォルトゥーナ・スマイルが両腕、両肩から大量のミサイルをこちらにばら撒いていく。
――シュォォォォン!!
大量のミサイルがこちらに向かって誘導するのを確認した自分はさらに高く上昇し続けた。
上昇している間にレーダーから一つの反応がこちらに接近してくる。
「くたばりやがれ!!」
自分と同じ高さまで急上昇して追い付いたキャプテン・プロテクターがミサイルに追われるブルー・スワローの横まで近づき、ライフルガンを構える。
――ドン!ドン!ドン!ドン!
放たれるライフルガンを見て自分は即座にその場で急停止を行い、上に向かっていた進路を横方向に変えて、加速する。
――キュォォォン!
「うおぉ!?」
上昇している相手に向かって撃ち込んだライフルガンの弾を不自然な挙動で回避したブルー・スワローはキャプテン・プロテクターの方へと突っ込んでいく。
その背後には放たれたミサイルが追従しており、その光景を見たキャプテン・スワローは地上へ降りるように回避行動を行った。
――ガガガガガガガガガガガガガガ!!!
地上に降り注ぐミサイルを両機が躱している中、地上にいたロンズ・デーライトが手に持ったガトリングガンで牽制を行う。
地上を滑るように移動していた自分はさらに速度を加えながら、片手に装備されたライフルガンで応戦する。
――ドン!ドン!ドン!ドン!
超高速で動くブルー・スワローに対して放ったガトリングガンの弾に被弾することとはなく、逆に機動力に難があるロンズ・デーライトは多少の被弾を食らってしまう。
だが重量型のせいか、遠距離からライフルガンを放ってもあまり効果がないようであった。
――ビィィィ!ビィィィ!
突如としてコックピットに警告音が鳴り響く。
すぐにレーダーを確認したがなぜか反応を示さないため、モニターによる目視を行う。
するといつの間にかローズ・リッパーが自分の行動先に待機しており、自分を待ち構えるように両手に持った大型エネルギーライフルガンでこちらに銃口を向けていた。
――キュォォン……。
――ドォン!ドォン!
――キュォォン……。
――ドォン!ドォン!
チャージを繰り返しながら撃ち放たれるエネルギー弾を自分は全てを回避できずに多少の被弾を食らってしまった。
その食らった衝撃の影響で挙動が不安定になり、自分は一旦地上に降りざる追えなくなってしまった。
――ズシン……。
自分はブルー・スワローの状況を確認する。
放たれた物はエネルギー弾であり、クレイアシールドの消耗が七割を切りそうであった。
どうやらローズ・リッパーはECMを展開して自身の姿をレーダー消し、不意打ちを仕掛けてくるらしい。
このまま四機を一度に相手にするのは分が悪いと感じた自分は、最初に墜とす機体を絞り込む。
数秒の静寂の後、思考していた中の成功プランを完成させると自分はブルー・スワローを高く空中へ飛翔させた。
「また同じことをするのかい?」
フォルトゥーナ・スマイルが同じように両手と両肩からミサイルを発射させる。
自分は放たれたミサイルの発射位置を確認すると、そこへと向かっていく。
向かってくるミサイルを多少の被弾を食らいながらも、自分はフォルトゥーナ・スマイルへと突っ込んでいった。
「こいつ……!やらせるかよ!」
自分の意図を知ったキャプテン・プロテクターが立ちはだかるかのようにブルー・スワローの前に出る。
自分はもう片方に装備した高出力ブレードを手にしながら突っ込むためにさらに加速を行いながらブレードをチャージした。
「うおおお!!」
雄叫びと共にキャプテン・プロテクターが向かってくるブルー・スワローにライフルガンで迎撃しようとした。
その時を狙い、自分は高出力ブレードを横に薙ぎ払う。
――シュォン!シュォン!
薙ぎ払ったブレードから光刃が出現し飛び出していく。
それは目の前にいたキャプテン・プロテクターの機体に着弾した。
「あ……あぇ?」
光刃の直撃を受けたキャプテン・プロテクターの胴体は内部にまで到達しており、そのまま力無く地上へと落下していった。
「なんだあれは!?くそ!ロンズ・デーライト!俺を護ってくれ!!」
「わかりました!」
護る者がいなくなったフォルトゥーナ・スマイルはロンズ・デーライトに合流しようと後退を開始する。
幸いにもフォルトゥーナ・スマイルとロンズ・デーライトが合流が間に合い、ロンズデーライトを盾にしながら布陣を作る。
自分はそれを確認すると肩から垂直ミサイルを放ちながらライフルガンを掃射していく。
――シュォォン!シュォォン!
――ドン!ドン!ドン!ドン!
放たれた垂直ミサイルは二機の真上から落ちるような軌道をとり、さらに前方からのライフルガンの攻撃によって回避は困難になっていた。
「シールド展開!!」
ロンズ・デーライトは両肩にあるシールド展開装置を使用し、周囲にクレイアシールドの膜を作り上げる。
――ドガァン!ドガァン!
クレイアシールドの膜によって攻撃は避けられたが爆風によって周囲が煙に舞い、視界が遮られる。
――ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!
音とレーダーを確認するに、恐らくローズ・リッパーが牽制の射撃を行っていることを知った。
展開したクレイアシールドは内側からは攻撃できない為、援護を行おうとシールド展開装置を切ろうとしたが常にミサイルがこちらに降り注いでくるためにそれが出来ずにいた。
やがて降り注ぐミサイルが止むのと同時にシールド展開装置のエネルギーが尽き、クレイアシールドの膜が消え始める。
周囲は依然として煙によって目視できないがレーダーによって確認することはできる。
レーダーにはブルー・スワローの気配はない。
フォルトゥーナ・スマイルとロンズ・デーライトがローズリッパーの援護を行うためブースターを吹かそうとしたその時だった。
――キュィィィィン!!
まるでシールド展開装置が切れるのを待っていたかのようにレーダー上で急接近するブルー・スワローが確認された。
「ッ!!」
目視は困難な状況のためレーダー上しか確認できなかったが、それは驚異的な速さで二機の背後に裏回っている赤い表示が映し出される。
そのことを確認した瞬間、背後から音が鳴り始めた。
――ドン!ドン!ドン!ドン!
煙が舞う中から数発の弾丸がフォルトゥーナ・スマイルに襲い掛かる。
ライフルガンの弾は背中のブースターに着弾し、さらにそこから奥へとめり込んでいく。
「畜生……。さすがに今回は微笑んでくれなかったか……」
当たり所が悪かったせいか、フォルトゥーナ・スマイルはそのまま機体制御不能となっていく。
ロンズ・デーライトは制御不能となったフォルトゥーナ・スマイルの盾になるように前に出てガトリングガンを放つ。
だがロンズ・デーライトのクレイアエネルギーはすでに枯渇しており、勇ましいしの姿は裸同然の状態であった。
そのことを理解している自分は放たれるガトリングガンを距離を離しながら躱していく。
やがて事前に撃っておいた垂直ミサイルがロンズ・デーライトを上空から襲い、直撃させる。
瞬く間に二機の機体の機能を停止させると、自分は機能を停止したその二機に近づきコックピットにライフルガンを止めのために撃ち込んでいった。
「容赦ないな」
その光景をどこからか見ていたのか、姿を現さずにセレナが自分に通信越しで聞こえてくる。
「私が教えたんだ。当然と言えば当然か……」
レーダーにはECMのせいで何も表示されない。
だがローズ・リッパーは近くに必ずいるというのは自分は分かっていた。
「もはや交わす言葉もない……か」
ほんの少しの静寂。
ミサイルによって発生した爆煙がゆらりと揺れる。
その方向を自分は見ると大型エネルギーライフルガンがこちらに向かって投げ込まれていた。
自分は反射でそれを払おうとすると、いつの間にか死角からローズ・リッパーが至近距離まで迫っていた。
その機体の色は薄桜色ではなく、青い光によって強く輝いていた。
――ドガァァァァン!!
それはブルー・スワローを中心にして青い光輝く大爆発が起きた。
近くにあった形を保っていた建物を全て瓦礫に変え、周囲に灼熱の風が吹き荒れた。
ジェネレータ―を限界点まで強制稼働の影響による機体の熱暴走。
それによって自身の機体ごと大爆発を起こしたのだ。
パラパラと、砂埃が火の粉と共に舞い散る。
そこには焼け焦げた機体が転がっており、その近くに立っている者がいた。
その姿は灼熱によって機体の半身が溶けており、装甲が剥がれ落ちていた。
――ギギ……ギギギ……。
焼け焦げた骨組みを露出したその機体は溶けた脚でその場からゆっくりと去り始めていった。
――――
新しい管理者の元、人類は再度復興を始める。
いくつかのコロニーは破壊されていったがそれも徐々に少なくなっていく。
やがて人類は先駆者達の一つの言い伝えを次の時代へと必ず繋げていった。
その内容は思い上がれば蒼い鳥が現れて不幸を降り注ぐというものであった。
銀色の曇天 @EnjoyPug
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