第28話

『作戦を説明します。

 コロニー全域を目標としてクゥ・リトルファーザーと共に攻撃をお願いします。

 この時代は我々の想定よりも先を行き過ぎています。

 貴方が協力してくれたのは良いことですが、新たな異分子が生まれるのも時間の問題です。

 それを阻止するべく、この時代は終わりを迎えるべきでしょう。

 コロニーの各区部にあるエネルギー供給所を破壊すれば、その区部は時間と共に壊死するでしょう。

 異分子の存在は貴方だけでよいのです。

 貴方の存在意味をここで示してください』





 コロニーの中心部に自分と黄色い機体を操るクゥ・リトルファーザーが鎮座する。

 目の先にはコロニーの各区部に存在するエネルギー供給所。

 これらを破壊すれば、人々のライフラインが失われ多大な被害を生むことになるだろう。


「良い返事をしてくれた。今や君は私の息子だ。快く思うよ」


 隣にいるクゥ・リトルファーザーがそう告げてくる。

 自分は新たなに提供された武装のチェックを行いつつ、戦闘モードへと移行する。


「では始めようか息子よ。浄化による秩序のために」



 ――――





「こりゃ……一体何が起こってるんだ……?」


 破壊された建物の上空を通過する機体、シェン・ロウガが呟く。


『Let's Grand Finale. Next new World』


 その言葉と共に始まったコロニー全域に無差別破壊が行われていた。

 情報によると地下に潜っていた武装集団に行われたものではなく、少数のTAによる攻撃であった。

 少数でありながらその行動は迅速で、そして破壊的な被害を生み出していた。


「行動が速すぎる……。坊やが消えた事と何か関係があるのか……?おいセレナ、そっちで何かわかったことあったか?」

「わからん……。あいつはいつの間にか私たちの前から消えた……。奴等の情報によればあいつの中にあるナノマシンが突如として正常に機能しなくなったと言っている……。今や生きているかどうかも不明だ」

「クソ……。こんなとき坊やがいれば心強いんだがな……」

「泣き言を言っても仕方ないだろう。さっさと目標ポイントへ向かえ」


 シェン・ロウガは坊やの身を案じつつ目標ポイントへ向かう。

 地上ではパニックになった民衆が逃げ回り、それを逃がさないような形で炎が囲い込んでいた。


「まさに地獄絵図だな……」


 この光景を見てシェン・ロウガは心に思ったことを漏らす。

 接触者コンタクターによる大規模攻撃ではなく、誰かの仕業によって起こされたこの惨劇にシェン・ロウガは舌打ちを漏らす。

 地上で響き渡る悲鳴を聞きながら、シェン・ロウガは目標ポイントへと急いだ。





「いいぞ息子よ。次の目標はあの区部だ」


 クゥ・リトルファーザーと共にブルー・スワローはコロニーの各区部にあるエネルギー供給所を襲撃していく。

 途中、防衛のために出撃したのであろう軍用WFをライフルガンで撃ちぬきながら進んでいく。

 抵抗してくる軍用WFを薙ぎ払いながらこの区部にあるエネルギー供給所をライフルガンで撃ちぬいた。


 ――ドン!ドン!ドン!ドン!


 ライフルガンの弾が供給所の建物を貫通し、そして倒壊していく。

 その衝撃でエネルギーの制御ができなくなったせいか供給所は付近を巻き込みながら爆散していった。


「よくやった息子よ。これで目標の六割は達成した。次が終わればこのコロニー全体のライフラインの復旧はほぼ不可能になる。その状態で天井に穴を開けばこの作戦は完了する。もう少しだ、頑張れ息子よ」


 クゥ・リトルファーザーの言葉を聞きながらブルー・スワローはこの区部の街並みを見渡す。

 それは炎と硝煙に包まれており、地上では阿鼻叫喚の悲鳴が鳴り響いていた。


「その機体……坊やか?」


 唐突に聞き覚えのある通信が入り、その通信元の方を機体を向けながらモニターで確認する。

 そこには見覚えのある狼と龍がデザインされたデカールが肩に貼られており、黄緑色をした機体がこちらに向かっていた。


「新たな邪魔者が入ったな。私は先に行く。息子よ、ここは任せた」


 クゥ・リトルファーザーが次の目的地である区部へと先へ向かう。


「待て!クソ野郎!!」


 先へ向かおうとするクゥ・リトルファーザーに対してシェン・ロウガが装備されているハンドウェポンで銃口を向ける。

 その動きを見て、ブルー・スワローも手に持ったライフルガンをシェン・ロウガに向けながら立ちはだかった。


「……良い予感っていうのは当たらねぇくせに嫌な予感っていうのはよく当たる。セレナ、この坊やを見てどう思う?」

「……まさかとは思っていたがはっきりいって信じられん。頭が痛くなる……」

「そう言っているぜ坊や。この声を聞いてるだろ?今ならまだ間に合う。物騒なその武装を解除して戻ってこい」


 シェン・ロウガの説得にブルー・スワローは沈黙で返す。

 周囲が炎によって朱く染まっていく中、シェン・ロウガが先に痺れを切らしたように口を開いた。


「ったく……反抗期かよ。親っていうのはお節介でも子供に道を正さなきゃいけないんだぜ。まぁ俺の場合はセレナと違ってまどろっこしいことはしねぇ。鉄拳制裁だ。覚悟しろよ」


 その言葉と共にシェン・ロウガの両肩に装備されたミサイルが発射される。

 流れるように水平に撃たれたミサイルをブルー・スワローは飛翔しながら空中へと舞い飛ぶ。

 放ったミサイルの後ろに着くようにシェン・ロウガも前進しながらブルー・スワローのほうへと飛び向かって行った。


 ――シュォォォン。


 回避を繰り返しても次々と放たれるミサイルにブルー・スワローは振り返り、手に持ったライフルガンで応戦する。


 ――ドン!ドン!ドン!ドン!


 撃ち込んだライフルガンの弾は多数のミサイルを撃ち落としたが、撃ち落としきれなかったミサイルがブルー・スワローの周辺で爆破する。


 ――ドォン!ドォン!


 爆破の衝撃でほんの少しだけブルー・スワローの挙動が不安定になり、シェン・ロウガはその隙を見逃さずにハンドウェポンであるグレネードランチャーで狙いを定め、撃ちまくる。


 ――ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!


 その攻撃をブルー・スワローは急加速を繰り返して、ジグザグの軌道を作りながら回避を試みる。

 だが、先ほどのミサイルの攻撃によって機体のバランスが不安定な状態の飛行により一発だけ被弾してしまう。

 機体の制御がさらに不安定になり機体がさらにグラついてしまった。

 この隙を見たシェン・ロウガは一気に加速し、ブルー・スワローに急接近する。

 こちらに向かってくるシェン・ロウガを見たブルー・スワローは空中で機体の挙動を元に戻そうと制御しながらライフルガンで向かってくるシェン・ロウガに撃ちまくる。


 ――ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!


「うおおおおお!!」


 シェン・ロウガはブルー・スワローに機動力では勝てない。

 この隙を逃せば次はないと確信したロウは下手に速度を落とさないために敢えてに回避に専念せず、ブルー・スワローに向かって真っ直ぐ突っ込んでいった。


「おらぁ!」


 撃ち込まれたライフルガンは分厚い装甲とクレイアシールドで強引に耐えながらブルー・スワローに至近距離まで近づいた。

 シェン・ロウガは思い切りコックピットのある胴体に向かって脚部で蹴り込む。


 ――ガコォン!!


 高速で近づいて蹴り込んだ衝撃はブルー・スワローを守っているクレイアシールドをも貫通させ、直撃を与える。

 その結果、ブルー・スワローの胴体部分は衝撃によって凹んでおり、それによって機体の制御ができなくなったせいか地上へと墜ちていった。

 コックピット部分に装甲を凹ませるほどの威力で蹴り込んだのだ。

 ふつうならパイロットは衝撃によって意識が飛ぶか、まともに操縦できないぐらいのダメージは与えたはずだ。

 勝負はついた。

 シェン・ロウガが一息つくその時であった。


 ――ドン!ドン!ドン!ドン!

 ――シュォォォン!!


 蹴り飛ばし、地上へ墜ちているブルー・スワローが、その状態で手に持ったライフルガンと両肩のミサイルを放つ。

 突然のことに回避しようとしてもシェン・ロウガの反応が遅れて攻撃を受けてしまう。

 無理な特攻をしたせいかクレイアシールドも消耗しきっており、放たれた攻撃は直撃に等しかった。


 ――ガァン!ガァン!ガァン!ガァン!

 ――ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!


 ブルー・スワローは墜ちながらも放った大量の弾幕によってシェン・ロウガは機体の制御が出来なくなるほどの致命的なダメージを負ってしまった。


「くっ……」


 シェン・ロウガは全身を炎に纏いながらブルー・スワローと共に地上へと墜ちていった。



 ――


 墜ちた衝撃による全身の痛みを味わいながらロウは意識を取り戻す。

 周りを確認すると周囲は焼けているところに落下したようだが機体自体は緊急用の冷却機能によって機体ごとの丸焦げは回避しているようだった。

 だが機体を動かすことは無理なようでロウはなんとかしてその中から脱出を試みようとする。


 ――ズン……。ズン……。


 重い足音がこちらの方へと向かってくるのが聞こえてくる。

 ロウはその音の方向をモニター越しで見るとそこにはコックピット部分が凹んだブルー・スワローの姿があった。

 ブルー・スワローは手に持ったライフルガンでゆっくりとこちらに銃口を向ける。


「……っへ、そういうことかよ。運がねぇな俺も……。すまんなセレナ……そういうこった」

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