IF 代行者

第27話

 黄色いメッセージを開き、その内容を確認する。

 差出人はクゥ・リトルファーザー。

 その内容はとある誘いであり、そしてこの世界の答えが知れると書かれていた。

 自分はこの誘いに乗るかの選択を迫られ、長い時間を掛けて悩んだ末に指示された場所、ミラージュ・ピース社へと向かった。


 ――――


 ふと目を開けると自分はいつの間にか暗い部屋に一つだけ置かれた椅子に座っていた。

 少しばかり痛む頭痛で手で頭を押さえながら記憶を辿るとミラージュ・ピース社に辿り着いたときに何者かに襲われ、意識を失ってしまったことを思い出す。


「目が覚めたかね?」


 天井の蛍光灯が光り出し、自分を中心に明かりが照らされる。

 暗い部屋のせいで目が慣れていないためか、眩しい光から逃れるように反射的に手の平で目元を覆う。

 やがてゆっくりと目を開けると目の前にモニターがあった。

 先ほどの声はここから聞こえたらしくその声は中年の男性のようである。

 恐らく自分を招いたクゥ・リトルファーザーなのだろう。


「君がここに来た……ということは私たちの招待を受け入れた……ということでいいのかね?」

「――――?」

「なるほど……。君はただ答えを知りに来ただけ……ということか」

「――――」

「たしかにこのまま君を拘束して監禁すれば彼らが黙ってはいないだろう。だが真実を知って君はどうするのかね?」


 その問いに自分は口を閉じる

 その答えを知ってしまえば彼はこの空間から自分を返してはくれないだろう。

 だが自分の身体にはナノマシンによって生体データが管理されている。

 生命反応が弱まれば、ナノマシンを経由して自分を監視している人物が必ず反応を示すだろう。

 最悪の結末として命が潰えたとしても、その答えの情報をデータログとして記録して回収してもらえばよいのだ。

 この答えによって世界は変わるかもしれない。

 とにかくそのことを聞き出すことに、自分は口を開こうとした。


「答えか……。その答えの先は果たしてあるのか……」


 突如として中性的で機械のような無機質な声が部屋に響き渡る。


「貴方が出るとは……」

「よいのです。それについては私が説明しましょう。果たしてこの異分子は答えを聞いてどう思うのか……興味があるのです」

「なるほど……。ではそれをお任せして私は下がっておきます」


 クゥ・リトルファーザーの存在がモニターから静かに消え失せる。

 この部屋にいるのは自分と無機質な声の主のみになった。


「さて……貴方は何を知りたいのですか?」

「――――」

「なるほど……先に我々の正体ですか……。我々は秩序や混沌に偏らない完全な中立である情報生命体。我々はこの世界を管理し、そして制御するために存在しているのです」

「――?」

「はい。そもそもこの世界は単なる母体の模造品にしか過ぎません」

「――――?」

「混乱するのは当然でしょう。なにせまともな過去の記録がないと言ってもよいのですから」


 自分の目の前にあるモニターの砂嵐が変わり、そこには二つの星が並んでいた。

 無機質な声の主はそのまま説明を続ける。


「遠い過去の話です。人類は母星である地球の資源枯渇の問題に直面してました。このままでは奪い合いの末に滅びを迎えるのは予期できることでした。しかし、宇宙開発の末に母星である地球に非常に似た星を発見します。それが貴方がここにいるこの星です」


「……」


「人口の増加と資源の枯渇の問題を解決すべく、人類はこの星に移住することにしました。そしてそこで得た資源を地球に送るというメカニズムを作ることに成功しました。貴方たちが得た資源エネルギーは企業という媒体を通して送っていたのです」


 モニターに映る二つの星から今度は人々が争う映像へと切り替わる。


「我々に指示されたことはこの星に住む者の管理……。そして恒久的に母星である地球に資源エネルギーを送ることです。だがこの星に移民した者は世代が重なるとその義務を放棄しようとしました。」


 やがてモニターにそらから降り注ぐ接触者コンタクターの映像へと移り変わった。


「我々は彼らの叛逆の危険性を察知し、自立型の清浄装置を生み出しました。この粛清によって彼らの闘争の本能を管理しました。我々の存在を認知させないために星を曇らせ、その闘争のエネルギーの矛先を変えたのです」


 接触者コンタクターの映像から自分たちに馴染みがある旧型の機体が動く映像へと切り替わる。


「ですが時として我々に感づき、我々に叛逆をしようとする異分子が現れます。異分子の存在はこのバランスを崩し、母星である地球にも危害を加えることが予期されました。異分子の存在による影響は無視できません。我々は異分子の存在を感知したら"リセット"することで事無きを得ました」


 この世界の真実を聞き、自分は驚きを隠せなかった。

 接触者コンタクターによる大規模襲撃はその時代に自分が言われている異分子が誕生した結果によるものということらしい。


「異分子の存在は看過できません。これだけのシステムを造り上げても沸いて出てくるのです。よって我々は新たな試みとして代行者を作ることにしました。それに選ばれたのが貴方なのです」


 "代行者"という言葉を聞いて自分は直感的にそれを理解する。

 恐らくそれは接触者コンタクターの手ではなく異分子を利用したリセットを行うことなのだろう。


「これがこの世界の答え……真実なのです。母星である地球にいる人類は闘争という問題はもう解決されています。ですがこの星の人類は争いを求め、自滅の道を辿っています。異分子を狩る者として我々に協力してくれませんか?」


 目の前にホログラム化された女性のような手が自分の目の前に差し出される。

 拒めば自分の命の保証はなくなり、この世界は再び終わりを迎えてしまうだろう。

 受け入れれば自分は恐ろしい事に関与させられる。

 だがもしこれが上手く行けば人々は絶対悪の存在によって制御され、このようなことは二度と起こらないかもしれない

 自分はその手を――。

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