第25話
――ピィィン……。
周囲を爆破した蒼い機体に一つの匿名のメッセージが送られてくる。
メッセージは黄色く表示されており、自分はそれが何を意味するのか直感で理解しそのメッセージを開く。
そこには地下通路へ導くナビデータが添付されており、まるでこちらを誘い込むかのような内容であった。
「招待状のつもりか……?ならば後悔させてやろうじゃないか」
自分は添付されたナビデータをマップにインプットし、モニターに道標を表示させる。
ナビの行き先は、ミラージュ・ピース本社には通じておらず、その横にある施設を示していた。
その施設を見ると外見は古い工場のようであった。
機体を発進させ、示されているその工場の中に入ると床がゆっくりと動き出した。
目の前の床はやがでTAまるごと乗せられるほどの大きさを誇るエレベータが現れ、それは地下へと続いているようだった。
「確かにこの先に奴の反応がある」
地下へと続くこのエレベーターの先が最終決戦になるのだろう。
自分は意を決してそのエレベータに乗り込み、地下へと降りていった。
――ゴゥン……。ゴゥン……。
ゆっくりとした速度で蒼い機体を乗せたエレベーターは降り進んでいく。
降りていく中、匿名の通信がエティータを介して入ってくる。
『お前たちは何故現れる』
その声は中性的で、それでいて機械のような無機質な音声がブルー・スワローの内部に響き渡る。
『何故反抗する』
エレベーターが降下する音と共に静かに自分に問いてくる。
『流刑地となったこの世界においてお前たちの存在意義は初めから決まっている』
降りている
『選ばれなかった者たちの世界。それを管理し、そして制御するのが私の役目……』
エレベーターの光景は黒い鉄の壁から、白い鉄の壁へと移り変わる様子は降下の終わりを告げているようだった。
『
やがてエレベーターの降下を終えると目の前には開いた扉があった。
自分はその奥へ吸い込まれるようにブルー・スワローをゆっくりと進める。
『いくら消してもバグのように湧き出るお前たち異分子の選択はそれを受け入れるか、修正されるかだ』
白い一本道を奥へと進んでいくと、閉じられた扉が目に映った。
扉の前まで辿り着くと、ロックを解除したような音が鳴り響く。
『お前はどうだ?』
重い音と共にゆっくりとその扉は開かれると、その先はここが地下とは思えないほど縦にも横にも広い空間が存在していた。
TAを乗っていて広いと感じるほどの広大な地下広場の先には一つの白い機体がこちらの到着を待っているかのように佇んでいた。
『それがお前の選択ならば私は罪人を裁き、世界を護る選択をする』
目の前にいる羽のついた白い機体に自分はデータ照合を開始する。
機体照合……機体名ヴァルネイム・スリー。
手には小型のレールガンと高出力ブレード、肩には上に向いたミサイルポットを武装している。
『戦闘システム、アテナを起動』
ヴァルネイム・スリーが戦闘モードに入ると白い機体の関節部分と頭部のモノアイが赤く発光する。
自分もそれに合わせて戦闘システム、エティータを起動させる。
エティータから自身の身体に情報が流れ込んでくる感覚は幾度の戦闘と調整によって慣れたせいか以前よりも不快感をあまり感じなくなっていた。
『異分子の排除……開始』
――――
地下に作られた広い空間でお互いの機体が背中のブースターの火を吹かせ飛び回る。
一つは加速と停止を繰り返し、時折急旋回を行う直線的な動きで飛び回る
もう一つは常に加速を行い、最高速度を維持しながら曲線的な動きで飛び回る。
人の領域を超えた速度によって繰り広げられるドックファイトを先に制したのはヴァルネイム・スリーのほうであった。
「――ッ」
背後を取ったヴァルネイム・スリーは手に持ったレールガンで目の前にいるブルー・スワローに向けてチャージをせずに撃ち込む。
――ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!
背後から感じる殺気と自身の死の予感を感じると、自分の景色は時間が急激に遅くなるような感覚を味わう。
機体に接続している自分の身体はエティータからの情報を絶え間なく送られてくる。
膨大な情報を処理しながら最善の選択を送られた情報をピックアップし、その選択を実行する。
身体に力を込めると、ゆっくりと流れていた時間は徐々に早くなり、やがて元に戻る。
――ギャンッ!!ギュォォォン!!
一瞬の急加速によって、背後から襲い来るレールガンの弾をすり抜けるように躱していく。
さらに間髪入れずに速度を上げ、ヴァルネイム・スリーから引き離そうとする。
その行動を咎めるようにヴァルネイム・スリーは前にいるブルー・スワローに向けてレールガンを構える。
「――」
だがその行動はエティータによって予測されており自分は急旋回を行い、ブルー・スワローを振り向かせライフルガンを構える。
手に持ったライフルガンは以前扱った試作品ではなく調整の末に完成系になっており、さらに新たな切り替えモードであるC型が使えるようになっている。
自分はライフルガンをC型に切り替えると、ライフルガンで狙いを定める。
新しい切り替えモードのC型は連発は出来なくなるが弾をチャージすることで一撃の威力を高めるモードであった。
――ドォン!ドォン!
チャージしきったライフルガンの弾は光を帯びながらヴァルネイム・スリーに向けて撃ち放つ。
その光景を見たヴァルネイム・スリーはすぐさまレールガンで狙いを定めるのを中止し、回避行動に専念する。
――ガキィン!
一発だけC型のライフルガンの直撃を貰い、青い火花が白い機体から散り始める。
自分は再度ライフルガンの弾をチャージするために時間を稼ぐべく、飛び回っていた空中から、地上付近へと降下する。
――ビィィィ!ビィィィ!
「――――!」
地面スレスレの部分で降下すると、モニターに警告音が鳴り響く。
レーダーを確認すると、複数のミサイルが上からこちらに向かっているのを確認した。
自分は冷静に視認するためにモニターで確認すると、そのミサイルは垂直に発射されたあと降り注いでくるパターンの物であった。
降り注ぐミサイルの爆撃から回避するために、自分は地を這うようにブルー・スワローを加速させる。
――ドガァン!ドガァン!
ミサイルの着弾音が加速する背後から爆発音が轟き、その衝撃が機体に伝わる。
執拗ともいえるほど何度もミサイルによる爆撃を行うヴァルネイム・スリーの攻撃に自分はC型のライフルガンのチャージを中断し、回避に専念した。
――キィィィィン!!
それと同時に背後から襲い来るミサイルと挟み撃ちをするようにヴァルネイム・スリーが前方の斜め方向から急速に近づいてくる。
手には高出力ブレードが握られており、自分は素早くライフルガンをC型から連射可能なB型に切り替える。
――ブォン!ブォン!
ヴァルネイム・スリーは大きく振りかぶって高主力ブレードを何度も空を斬る。
その先からは光刃が飛び出し、降り注ぐ背後のミサイルと挟み撃ちのような形になる。
「――!!」
自分はヴァルネイム・スリーがいる方を避けるべく機体の進行方向を変え、B型のライフルガンで牽制する。
――ドガガガガガガガ!!
進行方向を変えてもヴァルネイム・スリーはこちらに向かって高出力ブレードを振り続け、光刃を出し飛ばしてくる。
連射によるライフルガンの弾幕と光刃がぶつかり、バチバチと甲高い音が鳴り響く。
実弾では光刃を受けきることはできないが、飛ばしてきた光刃の威力をある程度弱めることが出来たため、自分は挟み撃ちの状態を振り切ることに成功した。
「――」
ミサイルとの挟み撃ちという危機的状況から抜け出し、ほんの一瞬だけ息を付こうとした止まろうとしたその瞬間、エティータから警告音が響き渡る。
警告音が鳴り響く方へと振り向くとヴァルネイム・スリーがレールガンをチャージして遠くから狙いを定めている状態であった。
――ドォォン!!
放たれたチャージされたレールガンの弾をブルー・スワローを急発進させギリギリのところで回避する。
すり抜けたレールガンの弾は遠くで着弾し、爆発音ともに衝撃がこちらに響き渡ってくる。
自分はライフルガンをB型からオーソドックスな性能をしているA型に切り替え、牽制を行いながら飛翔した。
――ドン!ドン!ドン!ドン!
放たれたれ続けるライフルガンの弾に対してお構いなしのようにヴァルネイム・スリーは再度レールガンをチャージしながら高速でこちらに近づいてくる。
――キュォォォォォォン。
ヴァルネイム・スリーは超高速でブルー・スワローを中心にして回るようにライフルガンの牽制を回避しながらこちらにレールガンで狙いを定めていく。
自分はエティータから次の相手の予測行動をピックアップしてもらい行動にでる。
地上にいれば垂直ミサイルによって死角を作られてしまう。
それを避けるためにブルー・スワローをさらに高く飛翔させた。
――キィィィン。
それを追うようにヴァルネイム・スリーも高く飛翔する。
振り切るために飛び上がり続けるブルー・スワローの背後にピタリとつき、チャージしたレールガンで撃ち込む準備を始める。
超高速で飛び回る二つの機体はやがて互いの距離が詰め始め、背後にいた機体がレールガンを構える。
「――!」
その瞬間を待っていたかのように、自分はブルー・スワローを反転させライフルガンを構える。
ライフルガンの銃口にはエネルギーが溜まっている状態の光が漏れ始めていた。
自分は逃げている間にライフルガンをA型からC型に切り替えておいたのだ。
「――!!」
――ドォン!ドォン!
両機の銃からそれぞれ火が吹き出す。
互いの放った銃弾が直撃し合い、それぞれの機体が空中で吹っ飛ばされる形になる。
ブルー・スワローはレールガンの直撃の影響で機体を制御できずにライフルガンを手放してしまう。
しかしヴァルネイム・スリーの方は違った。
すぐさま体勢を整え、高出力ブレードで追撃の準備をする。
目の前の敵は吹き飛ばされた影響で挙動を管理できず、体勢が不安定な状態であった。
ヴァルネイム・スリーはその隙を逃さないために羽の形をしたブースターを思い切り吹かす。
――ギュォォォン!!
急加速によって生み出された超高速によって吹き飛ばれたブルー・スワローと距離を一瞬で大きく詰める。
近接攻撃が可能なレベルの超至近距離に到達するとヴァルネイム・スリーは大きく
高出力ブレードをった手を振り上げる。
その瞬間であった。
「――!!」
ブルー・スワローの機体が青く発光し、その光は急激に強くなる。
ライフルガンを手放したことによって空いた手には格納してあったミカヅキブレードが装備されていた。
全身が青く発光しているのは機体のジェネレーターの限界突破まで稼働させエネルギーを急上昇させたのだ。
その影響でモニターの画面は砂嵐のように乱れ、エティータからエラー音と警告音が大きく鳴り響き、コックピット内の熱気が急激に篭り始める。
「――――ッ!!」
ブルー・スワローとミカヅキブレードが限界を超えるほどの爆発的なエネルギー供給によって全身が『青』から『蒼』へと変わっていく。
ヴァルネイム・スリーがそれを認知した時にはもう遅く、それは高出力ブレードを振りかぶっている状態であり、今すぐ攻撃を中断して回避行動に移るのは不可能であった。
ヴァルネイム・スリーによって大きく振りかぶった高出力ブレードの攻撃をブルースワローの胴体部分で受け止める。
――メキメキメキ!!
ブルー・スワローの胴体部分がひしゃげるほどの音が鳴り響くと同時に自分もミカヅキブレードを大きく横に薙ぎ払った。
――キュィィン……。
――ドオォォォォォン!!
一瞬の静寂の後、クレイアエネルギーによって生み出された蒼い爆発が二つの機体を空中で包み込む。
その爆発の中心から煙を纏いながら両機がその衝撃によって吹き飛ばされて地に墜ちる。
――ゴガァン!!
二機しかいないこの広大な地下空間に墜とされたブルー・スワローは横に倒れながらも微かに残ったエネルギーを使って周囲を確認する。
ジェネレーターは急激な負荷によって使い物にならなくなっており、クレイアエネルギーをチャージすることは不可能になっていた。
それは燃料が枯渇していると同じであり、もはやピクリとも動くことすらできなくなったブルー・スワローは一点を見つめる。
蒼い大爆発によって煙が舞う地下空間。
その中から一つの影が見えてくる。
『――――』
そこには全身を炎が纏い、部分的にバチバチと電気が漏れながら近づいてくるヴァルネイム・スリーの姿であった。
『――――』
美しい白い輝きを放っていた装甲の塗装は全身を包む炎によって黒く変色していく。
全身を焼き焦がせながら一歩ずつ、ゆっくりとこちらへと向かってくる。
――ズシン……。
無理やりにでも動いているためか、片方の腕が千切れ墜ちる。
――ギギギ……。
やがて片脚が動かなくなってしまうが、その片脚を引きずってでも近づこうとする。
残った片方の手には高出力ブレードが握られているが、使いものになるかどうかモニター越しでは判断が難しいほど損傷しているようだった。
そんな状態でもヴァルネイム・スリーは目の前にいる横に倒れたブルー・スワローに向かって歩みを止めない。
以前として全身が炎に包まれており、特に羽の部分が強く燃えているその姿はまるで怒りをも感じる。
『――……――――……』
やがてヴァルネイム・スリーは聞き取れないほどの小さな機械音が鳴り響きかせながら、ブルー・スワローの目の前で機動を停止させた。
立ち燃えながら停止させたヴァルネイム・スリーの黒いモノアイを自分はただただ見つめていた。
「敵TAヴァルネイム・スリーの撃破を確認。よく生き残った……。お前は本当に……大した奴だ……。今から救援を送る。待っていてくれ」
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