第23話

 セレナ達がブルー・スワローのパイロットを救出している間、コロニーに変化が訪れる。

 突如としてミラージュ・ピース社が雇うハウンズ、ヴァルネイム・スリーが代表して短いメッセージをコロニー全域に告げる。


『Let's Grand Finale. Next new World』


 このメッセージと同時にミラージュ・ピース社が保有する自立型兵器と共に無差別的なを開始した。

 だがこの宣戦布告に対して大企業である二社は沈黙という行動にでた。

 無条件降伏に等しいことに、各企業が雇うハウンズが独自に抵抗に出る。

 戦力的に一対多数の状況という圧倒的有利の差で新たな争いが始まった。

 だが抵抗したハウンズはミラージュ・ピース社の領域に入ることすら許されなかった。

 宣戦布告から数日という短い期間でコロニーの全域を事実上のたった一機のTAに制圧されてしまった。

 抵抗の気力を失った区部は自立型兵器による無差別的な大規模攻撃によって外と隔絶されたコロニーの天井にいくつもの穴を開け、汚染された外気を取り込み壊滅状態になる。

 半壊したコロニー内は、もはや人の住む場所はなくなり生き残った人々は地下深くへと潜り始めた。

 ただ一つだけ地上にあるとすれば、それはミラージュ・ピース本社であった。

 外からミラージュ・ピース社を見た者の発言からするに、クレイアエネルギーをそらに向かって何かに送るような事をしていると言われる。

 それはエネルギーに反応する接触者コンタクターを呼び寄せることに等しく、人々は過去の記録から大規模襲撃による滅亡を思い出す。

 しかし弱り切った人々は何が起こるか解っているとしても黙って見ていることしかできなかった。

 ただ一匹、蒼い燕を除いては。




 ――通信記録。

『彼の回収は成功したようだね』

「……おかげさまでな」

『いやいや素晴らしいことだよ。企業おえらいさんは彼の存在について理解していないようだ』

「……」

『救出は出来たんだ。不満なことでもあるのかね?』

「お前らはあいつをどうすれば気が済むんだ?」

『何を言っているか理解できないが、ああいう風に望んだのは彼自身だ』

「……」

『そしてそれを黙認したのは君だろ?』

「だが怪物にしろとは言っていない」

『君は立場を分かっていないようだな。元を言えば契約の中には君の代わりなど最初はなかったのだ。たまたま機体と体を損傷させ、彼を君の代わりにしてほしいという提案を受け入れたに過ぎない。しかし……やはりというべきかベテランに教えさせたほうが戦闘結果が他よりも早い結果を出しているな。君は優れた教官だよ』

「……あいつの状態はどうなっている?」

『ふむ……君には聞く権利があるだろう。運ばれていた彼の状態は一言で言うと……肉塊そのものだったな。生きているのが不思議で仕方なかったよ。システムのおかげか、はたまたナノマシンのおかげなのか……。五体満足という人の体としては不十分な状態になってしまっているが安心してほしい。彼は大丈夫だよ』

「それは言葉通りの意味か?」

『言葉通りの意味だ。これ以上、何か聞く必要はあるのかね?』

「……救出の際に提供されたデータの出所を知りたい」

『情報関連はこれまで通り質問は受け付けない』

「どこからか奪ったか買収したとか?」

『説明の必要がない』

「……まぁいい。もう用は済んだ。あいつを頼む」


 ――――通信終了。



「……クソ共が」



――――




 


 ――某窓のない空間。

「先生。エティータのデータ内容が解析完了しました」

「ようやくか……。聞こうじゃないか」

「はい。ヴァルネイム・スリーとの戦闘前後において、謎の表示と共にブルー・スワローの機体性能の上昇について、ヴァルネイム・スリーの戦闘システム【アテナ】が絡んでいるのは間違いありません」

「つまり、以前の謎の反応は彼女がいたから……ということになるのかね?」

「それで間違いないでしょう。つまりはオリジナルは【アテナ】になり、【エティータ】はその模造……いえ、この完成度は贋作とっていいでしょう」

「よくできているということではないのかね?」

「【アテナ】のシステムを模していると言いますがその完成度はお世辞で言っても四割程度しか模していません。つまりはこのシステムは出来損ないなのです」

「君がそこまで言うとは……。まぁそういうことなのだろう」

「正直に言って拍子抜けしましたね。唯一特出するべき点としてはオリジナルに対しての敵対反応が異常に高いというぐらいでしょうか。データを見ると【アテナ】のシステムを発見したときにシステムの攻撃性が高まっています」

「アンチ【アテナ】とまではいかないが可能性はあるということかな?」

「それに関してはあながち間違いありません。……ところで彼の容態は?」

「ああ、彼なら命に別状はないよ」

「ですがあの姿……」

「ははは。君はまだ若いな。あの姿は我々にとっては逆に好都合なのだよ」

「……?」

「【エティータ】のシステムは君の言う通り出来損ないの贋作かもしれない。だがそれでも高性能で、同時に異常だ。並みの人間が利用するならばそれは消耗品と変わらないかもしれない。そうはならないように彼を定期的に強化しているが、それでも身体の負担は大きい」

「……」

「しかしだね。今の彼を見てごらん。あのような姿……人としての重りがないのだよ。……ここまで言えばわかるだろう?」

「なるほど……。それは素晴らしい考えです」

「外はもう世界の終わりのような雰囲気が漂っているな。だが彼がその終わりを変えてくれるかもしれない」

「彼が人類の救世主ということですか?」

「救世主にするんだよ。我々の手によって」

「なるほど……。彼も望んでいることでしょうね」

「そういうことだ。ではそろそろ始めていこうか」

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