第21話

『セレナ・リオネイルだ。作戦を依頼したい。

 企業が管理するコロニー外の施設に取り残されている私の相棒を救出してほしい。

 その施設付近は先ほど禁止区域と指定され、そこにいる相棒は死亡扱いになっている。

 だが独自で得た情報では、破壊された機体の中に僅かながらの生命反応が確認された。

 さらにこのコロニーは終わりの時が近づいていることが分かった。

 だがそんな状況でも企業やつらは何もせず、安全なに避難してこの時代が終わるまで沈黙を続けるようだ。

 企業やつらのゆりかごの中には管理者という黒幕もいることは確認している。

 奴を引きずり出すためには相棒の存在は必要不可欠だ。

 十分とは言えないがそれなりの報酬は用意してある。

 説明は以上だ。

 あまり時間がない。貴方の迅速な判断を待っている』




「貴方たちと組むなんて、珍しいこともあるのね」


 黒い塵が舞うコロニーの外を自動的に動く三つの大型輸送機で目標ポイントまで機体が揺られながら向かっていた。

 この作戦に参加したのは三名。

 キャプテン・プロテクター。

 フォルトゥーナ・スマイル。

 ロンズ・デーライト。

 グループという括りでは同じ所属だが、その中から異なる企業の契約を交わす彼らにセレナの依頼を受けたのだ。


「まずは礼を言いたい。今回の作戦に協力してくれて感謝する」


 通信越しで三名にセレナが感謝を述べる。

 彼らは以前の作戦で僚機として共に戦った仲間である。


「あいつとは以前一緒に戦ったからな。まぁ任せておけ」

「相変わらずのビックマウスだなキャプテン・プロテクター。大丈夫なのか?」

「あ?俺は俺の出来ることをしているだけなんだが?」

「いやいや煽りで言ったわけじゃないさ。お前みたいなの面白くて結構好きなんだよね」

「結局煽ってるんじゃねーかそれ?」

「雑談をしているところ申し訳ないのですがもうすぐ投下ポイントです。準備を」


 ロンズ・デーライトの言葉と共に三機は吊るされているフックから機体を外される。

 汚染された大地に降り立った場所は禁止区域に指定された施設からやや離れた場所に三機は降り立った。

 この先をどうするのかフォルトゥーナ・スマイルがこの作戦の疑問をセレナに投げる。


「さて、あそこに近づけば警備のWFに見つかって即親企業に報告。俺らは文字通り終わりってことになるが何かプランがあるのか?」

「それについては問題ない。ロンズ・デーライトの企業が協力してくれた」

「なるほど。それだったら安心だな」

「その企業が何を協力してくれたんだ?」


 キャプテン・プロテクターの一言に皆がロンズ・デーライトに注目し始める。

 するとロンズ・デーライトの背中のほうから一つの小さな機械が飛び出し、空中で停滞した。


「我が社で開発しているこのビーコンを使います。このビーコンは独自の電波を発していて至近距離なら未踏境界線の中でも電子機器の使用は可能です」

「へぇ。便利な物を作っているね」

「我が社は民間企業のための開発を主にしています。軍事用ではありませんが、こういった作業に必要な人が安全に労働できるような物の開発は我が社の得意分野です」

「そういうことだ。目標ポイントを施設を経由しない場合は遠回りすることになる。それには未踏境界線に踏み込む必要があるためこのビーコンを利用するということだ。行きと帰りの道標をビーコンで作りながら目標ポイントの崩壊したコロニーへと向かう」

「しかし便利なものをよく貸してくれたもんだな」


 フォルトゥーナ・スマイルの一言にセレナが何かを思い出すように含み笑いをする。


「あの企業には貸しがあるからな」





 黒い塵のカーテンの先をロンズ・デーライトが先導して三機が目標ポイントに向かって駆け巡る。

 目標ポイントの場所は一度行った場所ということもあり、そこで収集したデータログを参照にしてある程度の距離とその道筋を割りだしている。

 問題はその道中であり、施設の地下通路が使えないとなると黒い塵が砂嵐のように舞う景色は目視しにくい上にレーダーが使えないこの道を使うしかない。

 そんな手探りな中、ロンズ・デーライトは背中から定期的にビーコンを射出しながら進んでいく。


 ――バシュン……バシュン……。


 射出されたビーコンは空中で停滞し、目印となる赤い光が周囲を照らす。

 一定距離の感覚で射出されたビーコンはそれぞれの照らしている赤い光がお互いを結ぶように一本の線が引かれていた。


「こうして帰り道も示してくれるのか。はぁ~すげーな」

「おいおい……一応周りを警戒してくれよ?急に横から接触者コンタクターに襲われるとか勘弁だからな」


 キャプテン・プロテクターがビーコンの起動する光景を見ながら進んでいくのをフォルトゥーナ・スマイルは少し呆れているようだった。


「提供してくれたデータによるともうすぐ到着予定です。彼の時間もあまりないでしょう。このまま突っ走ります」


 黒い砂嵐の中を三機は加速させて一気に走り抜ける。

 黒い塵の景色を橋ち続けているとやがて黒い砂嵐が弱まり、辺りの景色が鮮明になっていく。

 そこには天井が開いた巨大なコロニーが建っており、所々に破壊された後が見られた。


「ここが前時代のコロニーってか……。なんていうか……すげぇとこに来ちまったみたいだな」

「おいおい本当にこんなとこにブルー・スワローのパイロットがいるのかよ」

「あー……あー……。セレナ嬢、聞こえているか?キャプテン・プロテクターは早くも離脱したいようですよ」

「離脱したいならさせておけ。その場合は契約違反として報酬は支払わないからな」

「わかっているって。わかっているよ!」


 三機は前時代のコロニーの近くまで移動をした。

 だが中に入ろうとしてもコロニーの中に入るための侵入口が見当たらず、右往左往してしまう。


「セレナさん、コロニーの入口はどこになりますか?」

「データによると入口がその付近にあるはずだが見当たらないか?」

「セレナ嬢の言っている入口っていうのはこれか……?瓦礫で埋まっているぞ」

「なんだと……?さて、どうしたものか……」

「難しい事考えずに、天井の穴からいけばいいんじゃねーか?」


 キャプテン・プロテクターがコロニーの天井に顔を向けた。

 二機と一人は少し悩んだ後にそれしかないという形でコロニーの穴の空いた天井から侵入することにした。


「私は電波の関係上ここまでだ。エネルギーの使い過ぎで接触者コンタクターに悟られるなよ」


 セレナの声を聞きながら三機はコロニーの天井へと飛び立つ。

 地上から天井までのかなりの距離が離れているが、三機はゆっくりと上がっていく。

 黒い塵が舞う天井まで上がりきると、天井には大きな穴がいくつも開いているのを確認した。


「ここから入れるな」


 いくつもある開いた穴の中から大きさが十分なものを選び、三機はゆっくりとそこから崩壊したコロニー内部へと降下していった。


「結構暗いな」


 コロニー内部に降り立った三機は機体に装備されている照明で明かりを灯しながら周辺を確認していく。


「しかし、ここに数百年前に人が住んでいたと考えると何とも言えないな」

「フォルトゥーナ・スマイル、それはどういう意味ですか?」

「なんで滅んだかって意味だよロンズ・デーライト。だって崩壊しているとはいえ、建物の形状とか見るからに今の俺らと変わらない生活水準をしていると思わないか?」

「それって接触者コンタクターが原因なんじゃねーの?」

「でも今と同じ技術力を持っていたとしたらその対抗策もあったはずです。一体何が原因で滅んでしまったんでしょうか……」

「さぁな。ここにロスト・アーカイブがあればそれを回収して解析すればわかることかもな」


 ロンズ・デーライトとフォルトゥーナ・スマイルが話している時、キャプテン・プロテクターが提供されたマップログを参考にしながら周囲を見渡していた。


「あんま喋る時間はない感じだぜ二人共。周辺データを見てもここはいつ倒壊してもおかしくはない感じだ。ブルー・スワローの奴は戦闘をしたんだろ?だったらさっさと見つけて脱出しないと」

「キャプテン・プロテクターの言う通りだな。場所の目星は付いているのか?」

「戦闘が起こった箇所から割り出したデータを見る限り……。もっと先のようだ」

「提供された生命反応のデータを見る限りまだ生きています。手遅れになる前に助け出しましょう」


 三機はマップデータから撃墜されたブルー・スワローの場所を割り出した所へと向かう。

 その道中、切断されたブルー・スワローの腕と脚部を発見した。


「この辺でやられたみたいだな」

「ていうか、あの挙動をするブルー・スワローの機体をブレードで斬ったのか……。そんな奴が存在するのか?」

「わかりませんが、この辺にいるのは確かのようです」

「よし、さっさと探し出しますか」


 三機は展開し、ブルー・スワローの痕跡を探し始める。

 やがてキャプテン・プロテクターが不自然に天井に穴の空いた施設を発見した。


「なんだここ?なんで穴が開いてんだ?」


 穴の空いた場所へとキャプテン・プロテクターが向かうと、そこには胴体と首だけになったブルー・スワローがそこに転がっていた。


「おい!!発見したぞ!!」


 通信で他を探している二機にキャプテン・プロテクターが叫ぶ。

 二機はすぐさまキャプテン・プロテクターがいる穴の空いた施設へと向かってきた。


「こいつは……ひでぇほどにやれているな」


 フォルトゥーナ・スマイルがほとんど胴体だけになっているブルー・スワローを見て呟く。

 装甲は熱と外から降り注ぐ黒い塵によって蒼い装飾が黒く濁っており、地上に落ちた衝撃で機体全体も酷く歪んでいる悲惨な状態に三機は息を飲んだ。


「あの方がここまでやられるなんて……」

「生命反応はまだあるんだよな?」

「一応反応はしています。ただこの状態での反応となるともう……」

「そんなことは後だろロンズ・デーライト。今はこいつを助けるぞ」

「キャプテン・プロテクターの言う通りだ。ほぼ胴体だけっていうのはある意味で幸運かもな。運びやすい」

「私が運びましょう。こちらで用意した救出用の装備をしています」

「よし、それはロンズ・デーライトに任せよう。キャプテン・プロテクターと俺はこいつを運び出すぞ」


 フォルトゥーナ・スマイルとキャプテン・プロテクターは共同して残骸となったブルー・スワローを外へと運び出し、ロンズ・デーライトは自身の左腕をパージして、そこに胴体だけのブルー・スワローを救出用の装備で固定した。

 固定する作業をしている時に判明したが、残骸となったブルー・スワローの胴体の中から光が外側にほんの少しだけ漏れているのを三機は確認した。


「この機体が彼を守ってくれたのね……。準備は出来ました。脱出しましょう」

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