第19話
『依頼の概要を説明する。
以前の調査で発見した禁止区域に指定されている施設内に向かい調査してほしい。
あの施設はコロニーの規則により近づくことすら許されないが未発見のロスト・アーカイブが眠っている可能性が高い。
だが我々の調査部隊を向かわせたが何者かの襲撃されたという報告がされている。
襲撃者は
謎の襲撃者を撃退するためには君たちの力が必要になる。
施設内に存在する襲撃者の撃退、また施設内で破壊された調査部隊のデータの回収、可能なら収集も頼む。
説明は以上だ。
荒れたコロニーを再建させるためには、ロスト・アーカイブは必要不可欠なのだ。
そのためには禁忌に踏み込む事も必要だ。
では良い報告を期待している』
「コロニーの外に出るのは久しぶりな気がするな」
「確かにな。企業の争いに巻き込まれて上を向いても塞がれた蓋の裏を見ているもんだったな。最も、外に出ても薄暗い曇り空なのは変わりないが」
大型輸送機に二機のTAが吊られながら目標ポイントへと向かう。
二人の会話を聞いて自分は
それは地平線まで千切れることのない雲がまるでコロニーの天井のように覆っており、その隙間から太陽の光が漏れているのだろう。
黒い塵と僅かに漏れる光によって、大地は薄暗い空間に包まれていた。
もしもこの曇天の空が無くなれば、大地に光という命が吹き込まれるのだろうか。
そんなことを思いつつ、自分は目標ポイントまで機体をゆりかごにして揺られていた。
「しかしセレナよ。今回の依頼……かなり黒い感じだったが受けてよかったのか?」
「……どうせ汚れ仕事をさせられるんだ。今か後かの差でしかない」
「だがよぉ……。まぁお前がそう言うんだったらいいけどな」
セレナとロウが今回の依頼について不信感を露にする。
企業同士の戦争が終結し今のコロニーの状態は傷ついた部分を癒している最中だ。
戦争に疲れた民衆は争いという言葉に敏感になっている。
そんな中に突如として怪しい依頼が舞い込んできたのだ。
警戒はしたが、セレナの様子を見る限りどうやら断れないようである。
水面下で自分たちが新たな火種にされることが脳裏に過っていた。
「目標ポイントだ。投下するぞ」
ガコン、と機体を固定する器具が外され、二機が汚れた大地に降り立つ。
窪みの中に隠れるように作られたこの施設内のうちの一つにTAが入れるスペースが確保されている場所がある。
その中に入り、襲撃者撃退と調査部隊のデータ回収が依頼内容だ。
「坊や、さっさと中に入ろうぜ」
ロウが先導して中に入ろうとする。
その施設の外側ではいくつもの作業用WFが放置されていた。
恐らく先に来た調査隊の物なのだろう。
つまりはこの中に問題の襲撃者がいるのが想像できる。
自分はロウの後ろについていく形で施設内に侵入していった。
TA自体まるごと入ることのできるその施設は地下へと降りる下り坂があり、それに沿うにように進んでいく。
周りを見ると整備がされていたのか、周辺を確認するとあまり老朽化が進んでないように見える。
恐らく、ここは一つ前の時代の産物なのだろう。
やがて下り坂から一本道が暗い空洞と共に現れた。
機体に装備されたライトで周りを照らすと、そこにはこちら側に倒れている調査隊の旧型が穴だらけになって破棄されていた。
「機体照合……。まぁうちのもんだよな。坊や、このぶっ壊れた旧型を調べるぞ。中が生きてたらここを調べたマップデータがあるはずだ」
自分とロウは破棄された旧型に近づく。
旧型のコックピット部分の装甲を引き剝くと中は銃弾によって肉の破片が飛び散っていた。
幸いにもデータは生きており、自分とロウはそこからデータを自分たちの機体とセレナに転送させていく。
転送を完了させると自分とロウはこの施設のマップデータをモニターに表示させた。
驚くことに内容を見るとマップデータはかなり奥まで表示されていた。
「なんだこのデータは……。もう最深部以外は表示されているじゃないか」
「
「だとしても襲撃者のことを踏まえると奥まで行けたとは考えづらい……」
「じゃあこのデータは一体……」
「かなりきな臭いぞ……。用心しろよ」
セレナの警告に自分たちは息を飲みながら施設内を探索することにした。
その施設は外にある工場のような建物があったために、何か資材を運ぶ通路なのかと自分は思っていた。
だが実際にこの場に立ってみると、資材を運ぶ通路というよりはまるで逃走経路のような道筋に感じたのだ。
「――」
「坊やもそう思ってたか」
そのことを伝えるとロウも同じようなことを思っていたらしい。
つまりはこの先には他の施設に繋がっているということになる。
しばらく進んでいると薄暗く、そしてかなり広い空間に辿り着く。
地下施設といえども不自然に広い空間の周辺には旧型や作業用WFの残骸がいくつも散らばっていた。
「おいおい……。数が多いから照合してみるとよぉ……残骸の中にフューチャー・コスモスの機体もあるぞ」
「お互いの企業のハウンズがここに来て衝突したのか?」
「見る限りどちらも調査部隊ってとこだろうな。禁止区域っていう言葉はマジで意味がねぇんだな」
「だがそれだと相打ちになっている理由が見えない。気をつけろ。確実に別の奴がいるぞ」
セレナがそう言った瞬間、エティータから謎の音が鳴り響く。
そこには一つだけ【A】の文字が現れる。
その文字の意味を何かと考えていると、奥から何者かがこちらに向かってきていた。
――キィィィィィン
そのTAは全身が灰色一色に染まっており、肩にはアイギスのデザインが描かれたデカールが貼られていた。
「おでましってやつだな」
自分とロウが戦闘モードに入る時、エティータから相手のデータが表示される。
敵のTA名は【ファウヌス・マキナ】と表示され、すぐさまセレナにこのデータを送信する。
「照合……
「――――」
「だろうな……。だったらブルー・スワローに関係しているかもな」
「おい、お相手さんそろそろ仕掛けてくるぜ」
敵TA、ファウヌス・マキナはこちらに向かいながら右手に装備した銃でこちらを乱射していく。
――バン!バン!バン!バン!
その銃撃は光を帯びており、何かのエネルギーを纏っているようであった。
「パルスライフルガンか!!めんどうなものを!!」
ロウが叫びながらファウヌス・マキナが放つパルスライフルガンを回避し続ける。
機体を通り過ぎるエネルギーを纏った弾丸は施設の壁に当たりバチバチと電気音を鳴らしていた。
「警告。これ以上の詮索は必要ではない」
攻撃を回避し続けるとファウヌス・マキナはオープン通信でこちらに言葉を交わしてくる。
その落ち着いた男の声は、機械音に近く、感情のない無機質な声質のようであった。
「警告。警告。警告。警告……」
ファウヌス・マキナは"警告"という言葉をこちらに向かってひたすら繰り返す。
もはや不気味なノイズを発するだけになったのをロウが舌打ちをした。
「うるせぇ野郎だ。黙らせるぞ」
パルスライフルガンから掻い潜っている間にロウがグレネードランチャーでファウヌス・マキナに狙いを定め、撃ち込んでいく。
――ドォン!ドォン!
だが、ロウが放ったその攻撃は地を蹴って飛ぶことで回避されてしまう。
その動きはまるで着弾する場所が発射された瞬間に分かっているような動きであった。
「なんだと?」
自分も攻撃の手を加えるべく、試作ライフルガンを連射のできるB型に切り替え撃ち込んでいく。
ライフルガンで撃ち込むその瞬間、自分の操作で機体を動かすというよりは機体から流れる情報が脳に流れ込み、自分の意識ではなくエティータによって勝手に手が動いているような感覚に陥った。
――ドドドドドドド!!
ライフルガンの連射によって、ファウヌス・マキナは多数の被弾を受ける。
その被弾を受けつつ、後退していく中でファウヌス・マキナはブルー・スワローに機体を真正面に向けた。
「異分子を発見。排除対象発見のデータを送信」
ファウヌス・マキナは何かを話した後、今度はこちらに向かって機体を急加速させる。
高速で風を切る音と共に今度は左手からエネルギーを帯びたブレードを取り出した。
「最優先目標更新……排除開始」
「――!!」
取り出したブレードは見たことのある形をしており自分は恐怖を感じた。
何が何でも敵の接近を食い止めるべく、自分は試作ライフルガンでファウヌス・マキナに弾をばら撒く。
――ドドドドドドド!!
だがその攻撃は左右に急加速を繰り返され回避される。
その光景はまるで自分が相手に行っているジグザグとした動きそのものであった。
「――!?」
高速で不規則な軌道でこちらに向かっていくその光景はまさに人の動きではないということを示している。
急速に近づいてくるファウヌス・マキナに対してこちらも素早く格納してあったミカヅキブレードを取り出し装備した。
――ガキィン!!
ブレード同士の鍔迫り合いになり、お互いの機体がギリギリと鳴り響く。
だがこちらのミカヅキブレードはエネルギーがほとんどチャージされていない状態である。
相手はエネルギーをチャージしてあるミカヅキブレードで、さらにこちらに接近した速度で勢いを増している。
その結果自分は押されるような形となり、後ろに後退しながら受けるしかなかった。
――ガキィン!!ガキィン!!ガキィン!!
そんなことをお構いなしのようにファウヌス・マキナはミカヅキブレードを乱暴に叩きつけてくる。
勢いのあまりに後ろに下がるしかなかった自分はいつの間にか壁に追い詰められてしまっていた。
後方の壁と敵機に挟まれ、さらには近いこともあって肩に装備したミサイルは撃てない状況にあり、このままではやられてしまう一歩手前の状況だった。
「坊や!耐えろよ!!」
その言葉と共に目の前にいたファウヌス・マキナの背にミサイルが着弾する。
遠くからロウがこちらに向かって自分ごとミサイルで攻撃してくれたようだ。
だがそのミサイルの爆風にも怯まずに何度もブレードを叩きつけてくる。
――ガキィン!ガキィン!
「野郎!」
ミサイルが背中に直撃してもお構いなしに目の前の機体はミカヅキブレードを振るい続ける。
そんな異常な光景にロウも焦りを感じながら間髪を入れずにグレネードランチャーをファウヌス・マキナの背中目掛けて撃ち込みまくった。
――ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!
何十発か撃ち込むと、ファウヌス・マキナの背から火が吹き出す。
どうやらクレイアシールドが剥がされ、グレネードランチャーの直撃を受け続けた結果なのだろう。
ファウヌス・マキナは振り続けた腕が鈍い機械音を鳴らしながらその場で力尽きるように降ろし始める。
「異分子のレベルを更新……フェイズを……ラストステージへと……移行を……提……」
その言葉と共にファウヌス・マキナは動作を停止した。
「い……異常な奴だ……こいつは一体なんだったんだ……?」
「送られてきたデータを照合しても未知のままだ……。どこにも属していない」
「なんかフェイズとか言ってたよな……。嫌な意味に聞こえるぜ」
「調査部隊はデータを遺して全滅……。どうやら
「確実にヤバい匂いしかしねぇ」
「一応達成の条件は満たしている。無理に行く意味はないが……」
セレナとロウが話し合っている中、自分は戦闘が終了してからずっとモニターを見ていた。
それはモニターに【A】の文字が点滅しながら表示されているからであった。
この先にエティータに関連している何かがあるのは間違いない。
背中から脳髄にそこに行けという命令が走り込んでくる。
自分の意思ではなくブルー・スワローがそこに行きたがっているようであった。
「――――」
「行くべきって……おいおいマジか?」
「……反応しているのか?」
「――」
「そうか……。ならば行くしかあるまい」
「……坊やが決断したら俺はついていくしかねぇ。今はお前の僚機だからな」
二人の視線が奥に広がる暗い空間が目に映る。
この先に何があるのか。
緊張と不安による寒気が身体を走ったが自分のモニターにはこの先に行けとエティータが反応し続けている。
自分は意を決してエティータに導かれるように機体を動かし、ロウと共に奥へと進んでいった。
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