第17話
『依頼の概要を説明します。
こちらの調査によってリトル・クゥの本拠地を探し当てることができました。
貴方は至急そこへ向かい、首謀者である【クゥ・リトルファーザー】を撃墜してください。
尚、敵施設周辺には無数の自立型兵器を確認しています。
この作戦は敵対企業であるフューチャー・コスモス社よりも先に仕掛けるべきであり、迅速な行動をお願いします。
成功すれば、コロニーの主導権を握ることができるでしょう。
説明は以上です。
ハーモニー・テクノロジー社にとって貴方の力は必要不可欠です。
それでは良い結果を待っています』
「坊やと組むのは久しぶりだな。なんだか遠い昔みたいだ」
「歳を取りすぎてついにボケ始めたかロウ……。それは引退した老兵の発言だぞ」
「そう言うなよセレナ嬢。俺はな、嬉しいんだ。またこういう面子で何かをするっていうことがよ」
「――――」
「お前も満更ではなさそうだな」
「坊やもこう言っているんだ。……さて、親玉がいるボスエリアにそろそろ到着するな。坊や、楽しくやろうぜ」
お互いの企業が争った中に奪い合いに値しない区部が放置されている所がいくつか存在している。
情報によるとテロリストであるリトル・クゥはそこに拠点を作り、戦力を高めていったらしい。
そんな放置された薄暗く瓦礫だらけの区部の中を進んでいくと遠くでポツンと佇む重量型の黄色いTAが鎮座していた。
肩には黄色いフードがデザインされたデカールが貼られている。
モニターに表示される識別表示を確認し、この機体がクゥ・リトルファーザーで間違いないようだ。
「あれが親玉のようだな」
「なんだあの姿は……。奴のデータを調べる。気をつけろよ」
自分とロウはクゥ・リトルファーザーを視認すると警戒体勢に入る。
セレナは敵機の分析を急いでいた。
なぜなら重量型の黄色いTAは特に脚部の膝の部分が厚い装甲に覆われており、また片腕が背中に掛けて一体化しているような武装も装備されているからだ。
「招待状は破いたようだな。父は悲しい……」
クゥ・リトルファーザーがこちらに向けて悲しみの声をする。
招待状というのはこの作戦前に自分に宛てたメッセージのことなのだろう。
「何を言っているか知らんが、お前を倒せば今回の騒ぎもこれで終わりだ。コロニーの為にさっさと墜ちてくれ」
「この世は欺瞞による虚偽に満ち溢れている。父は皆にそれを見通す
「それがコロニー内を混乱に貶めるキッカケになっているのか?客観的に見てもお前らのやってることは自己中心的な大量破壊にしか見えんがね」
「愚かな息子よ……。だがそれでも父は共に来れば全てを赦そう。今こそ父が手を取る気はないか?」
「……悪いが俺の親父は当の昔に逝っちまってんだ。それにな、お前みたいな親だったらその子供は捻くれるか歪むしかねぇと思うぜ」
「……残念だ」
「残念なのはお前の頭だよ。お喋りはこれで満足か?」
自分とロウが近づくために背中のブーストを吹かそうとすると、瓦礫の中から敵対反応の赤い表示がレーダーに現れる。
その瓦礫のほうを確認すると黄色く塗装された多数の旧型が姿を見せていた。
「なるほど……これが例の自立型兵器か。データを見た感じ外部をジャンク品で覆っている程度だな。お前たちなら苦労はしないはずだ」
「そういうことだ坊や。こんなもんさっさと墜とすぞ」
自分は試作ライフルガンのA型で。そしてロウはハンドウェポンのグレネードランチャーを構える。
――キュィィィン!
敵機である自立型兵器が甲高い音と共にこちらに向かって手に装備されたライフルガンで襲いにかかる。
――ドン!ドン!ドン!ドン!
自分とロウは地を思い切り蹴り上げ、飛び跳ねるように自立型兵器のライフルガンの攻撃をうまく避けていく。
こちらも反撃とばかりに自立型兵器に向かって二機は撃ち込んでいく。
――ドン!ドン!ドン!ドン!
――ドォン!ドォン!ドォン!
しかし二機の攻撃によって次々と自立型兵器は爆散していくが、いくら撃墜しても瓦礫の中から植物が生えるように湧き出てくる。
「こいつらキリがねぇな」
「やはり本命を狙うしかあるまい。目標に向かって一点に集中砲火した突破が無難な選択だろう」
「俺もそれ思ってたぜ」
「だが奴の詳しいデータがほとんどない上にその場から動かない行動が妙にきな臭い……。十分警戒しろ」
セレナの案に賛同するように自分とロウはクゥ・リトルファーザーの方へと機体を向け一気に加速し、速度を上げる。
だが、その瞬間を待っているかのようなタイミングで二機の目の前に複数の自立型兵器が立ち塞がった。
「っ!?なんかやべぇぞ!!避けろ坊や!」
立ちふさがった複数の自立型兵器は両腕を構えた挙動でこちらに向かって突っ込み始める。
違和感を感じたロウが叫び、自分とロウは左右に別れる形で回避行動を行った。
――ギュィィィン!!
その瞬間、自立型兵器と自分たちは交差するように通り過ぎる。
大きな音を鳴らしながら何かを空ぶりながら振ったその腕にはパイルバンカーが装備されていたことを確認した。
自立型兵器はこちらが気づかれるギリギリまで隠していたようで、もしも気づくのにあと数秒遅かったらこれらに貫かれていただろう。
「自立型だからこういうので特攻させるってわけか。悪趣味だねぇ」
舌打ちをしながらロウは悪態を付く。
通り過ぎるパイルバンカーを装備した自立型兵器をロウが撃ちぬこうとしたその時、突如としてエティータから警告音が発せられる。
――ビィィィ!ビィィィ!
自分はすぐにその警告音の原因を探ると遠くにいるクゥ・リトルファーザーから発せられていた。
遠くにクゥ・リトルファーザーをモニターで拡大しながら確認すると片腕に装備されていた巨大なキャノンらしきものを構えていた。
「浄化による秩序を」
「――――!!」
「何!?」
自分はロウに大きく叫ぶと同時にクゥ・リトルファーザーから巨大なキャノンから青白い光が発せられる。
――キュォォン……。
――ドォォォォォン!!
一瞬の静寂と共に、自分たちが居た場所は爆発による爆風と熱に塗れた。
その場を瞬時に離れた自分はブルー・スワローに体が押しつぶされるほどの急加速を行い、上空へと避難した。
ロウは自分と反対方向へと跳躍をしたが、十分に離れることができずに被爆してしまった。
幸いにもロウの機体は重量型であり、クレイアシールドを前方に強く張ることで被害は最小限に済んだようだ。
「この浄化の光。次は外さない」
「くっそ、シールドをごっそり持ってかれちまった……。次くらったらやばいぜ……」
ロウの機体が青い火花がバチバチと鳴り響く。
自分のほうはブルー・スワロー自体には被害はほとんどないが、身体に負担がかかるほどの急加速を行ったことにより、視界がぼやけ始める。
ぼやけな景色の中、自分はクゥ・リトルファーザーを見ると最初の機体の形が変わっており、片腕の部分が変形しており一つの武器と化していた。
「あの腕は大口径レールキャノンか!あんなものコロニー内で撃ち続けてみろ!天井に穴が開く程度じゃ済まないぞ!」
「自立型兵器は囮かよ畜生……。また同じことをしてくるぞ」
「おいお前!体は大丈夫なのか!?」
「――」
「そうか……。ならば次の発射前に勝負をつけろ。じゃないとお前たちは消し炭されるぞ」
「坊や、囮で突っ込んでくる自立型兵器は俺のグレネードランチャーで援護する。遠慮なく突っ込んでいけ」
「あの威力だ。すぐには撃てまい。チャージ中の今が勝負だぞ」
自分の身体に鞭を打つように、急加速を行ってクゥ・リトルファーザーの方へと向かっていく。
モニターで確認すると、エネルギーの補充と弾の装填している最中であり、その動作はとても遅い。
セレナの言う通り今がチャンスなのかもしれない。
――ギュィィィン!!
ブルー・スワローの真横と背後から自立型兵器がパイルバンカーを作動させながら近づく音が聞こえる。
急加速と急旋回を繰り返せば振り払う事は容易であったが、それをすれば次の攻撃前に間に合わないだろう。
自分は回避行動を行わずにそのまま真っすぐクゥ・リトルソルジャーへと高速で向かう。
――ドォン!ドォン!
真っ直ぐ向かって行く中、真横と背後から爆散する音が聞こえる。
レーダーで確認するとロウが援護射撃を行っているようだ。
自分はロウの期待に応えるように、機体に更なる加速をさせる。
――キュォォォォォン
爆音と甲高い音と共に自分はクゥ・リトルファーザーに対して有効射程まで近づくことが出来た。
そのことを確認し、ブルー・スワローの手に持った試作ライフルガンと肩に装備したミサイルによって撃ち込んでいく。
――ドン!ドン!ドン!
だが、威力の高いA型とミサイルを撃ち放ったのにも関わらずクゥ・リトルファーザーのクレイアシールドが厚すぎるのか、その機体は微動たりともしなかった。
「――!!」
それならばとクゥ・リトルファーザーの背後に回るように旋回を行いながら試作ライフルガンを撃ち続けるが、装備されていない片方の腕と肩にクレイアシールドを発生させる武装が装備されているのか、どの方向で撃ち込んでもビクともしない。
「実に愚かだが、子は愚かで良い」
やがてチャージが完了したのか旋回するブルー・スワローをゆっくりと大口径レールキャノンを向け、照準を合わせる。
――キィィィン……。
エネルギーが砲身に集まる音が聞こえ始めており、自分は焦りを感じ試作ライフルガンをB型に切り替え、銃弾を浴びせていく。
――ドドドドドドド!!
だが、その弾幕も空しくクレイアシールドによって青い火花を散らしながら弾かれる。
残された手段はミカヅキブレードのみ。
仮にミカヅキブレードを使用した場合、最大までチャージをするまで撃ち込まれる可能性が高いと脳裏に過る。
「――」
博打だがそれでもやるしかないと決めた自分は、少しでも重量を軽くするために両方の試作ライフルガンと、背中に装備してあるミサイルポットを分離させ地に切り落とす。
そして格納してあるミカヅキブレードを取り出した。
両手両肩の重荷が無くなったことを確認するとすぐにミカヅキブレードのエネルギーチャージを開始した。
――ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!
遠くからロウが放った大量のミサイルがクゥ・リトルファーザーを襲い降りかかる。
その周辺は銃撃と爆撃の弾幕によって地は抉られていたが、クゥ・リトルファーザーが鎮座している周辺だけは整地されているように綺麗なままであった。
「異分子よ。秩序のために浄化されよ」
やがてチャージしきった大口径レールキャノンから青白い光が集まり、その臨界点を超えそうになる。
ミカヅキブレードのエネルギーチャージはまだ完了していない。
このまま突っ込んでも火力不足でクレイアシールドごと貫くことは出来ずに返り討ちに合うだろう。
かといってこの攻撃を至近距離で避けれるほど急激な加速は自身の身体が持たない。
どの選択をとっても最悪な結末しか待っていなかった。
「――」
やがて青白い光の臨界点を超えるその時、モニターがエティータによって蒼く変わり始める。
背中にセットしたプラグからエティータから送られる信号が脊髄に届く。
そこから一気に脳に向かって上がっていき、何とも言えない不愉快な感覚に自分は陥る。
走馬灯という言葉があるように、死ぬ瞬間に時間間隔が遅くなる現象が起こっているようだった。
一つだけ違う点を上げるとすれば、現実世界との時間間隔の遅延が異常なまでに食い違っているということだ。
「――」
自分の身体を含む全てが止まっているのだ。
正確には思考だけが動いているだけであり、自分が見ている光景は大口径レールキャノンが自分に向かって放たれる青白い光がモニター越しに映っているというだけだ。
死の牢獄とも言うべきなのか、極限状態によって全てが止まってしまうこの現象は目の前の死から逃れられないという恐ろしい現実を見せつけられているようであった。
だが思考だけは、澄んだ空気のようにはっきりとしていた。
この状態から少し時間が経った後、自分はあることに気が付く。
それはロウが放った数発のミサイルが大型レールキャノンに当たる一歩手前で止まっているという光景であった。
恐らくほんの少しだけだが、そこにミサイルが着弾すれば僅かに軌道がズレるのでないだろうか。
ならばその反対方向に最低限の急加速を行えばこの攻撃を回避し、自分も機体に押しつぶされずに済むのかもしれない。
その思考に至った時、ほんの少しずつ見ている景色が動き始める。
身体もそれに伴い、力を込めれば僅かながら動かすことが出来た。
「――――」
恐らく、エティータはこれをしろと命令しているのかもしれない。
今この場に襲い掛かる死から逃れるこの状況において一つしか選択が無い、と。
自分は覚悟を決めて機体を動かそうと試みる。
その思考と共に徐々に景色が止まっていた時間が動くかのように景色の流れが速くなる。
焦りと緊張で思考が麻痺しそうになるが、自分は意を決して操縦桿の手に力を込めた。
――キュォォン……。
やがて死の牢獄から抜け出せたかのように、自分は元の時間軸に戻れたような感覚に陥る。
それと同時にロウが放ったミサイルが大型レールキャノンに着弾した。
――ギュドォォォォォォン!!
「――!!」
自分はブルー・スワローの機体を回転させるように、先ほど感じた回避すべき方向へと傾ける。
青白い一筋の大きな光線はブルー・スワローをすり抜けるように通り過ぎた。
「何!?」
照準に捉え絶対に当たると確信していたクゥ・リトルファーザーは驚きを隠せなかった。
だが事実として目の前にいるのはその攻撃を回避した蒼い機体。
そして手に持っているのはミカヅキブレード。
刀身が青く光るミカヅキブレードのエネルギーチャージは完了している。
自分はミカヅキブレードを構えて、そのままクゥ・リトルファーザーに向かって発進した。
――ギュォォォォン!!
最大チャージしたミカヅキブレードの横薙ぎがクゥ・リトルファーザーを襲う。
それは纏っていたクレイアシールドを薙ぎ払い、さらにその先にある装甲を抉り斬った。
「馬鹿な……」
装甲ごと抉り斬られたクゥ・リトルファーザーの機体がガクりと前に屈みこむ。
もはや再起不能の状態になったクゥ・リトルファーザーの状態を確認すると、唐突に吐き気を催した。
血と共に胃の中の物を全て吐くと、目に映る光景が大きくぼやけ始める。
自分も限界だったのだろう。
身体を動かす力も意識も保つ力も僅かしか残っていなかった。
「愚かな子たちよ……。この世の真実を見なければ……全てが……終わりに……」
朦朧とする意識の中、目の前にいるクゥ・リトルファーザーはそう言い残し、機体が爆散していった。
「敵TAの撃破を確認。あの状況でよくやった……。今救援を向かわせている。頼むから持ちこたえてくれ」
遠くでこちらに近寄ってくる音が聞こえる。
そんな音と共に自分の意識は消えそうになっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます