第16話

『依頼の概要を説明します。

 今回の依頼は我が社が管理する移動兵器、ヘヴィトレインがリトル・クゥによって強奪されました。

 ヘヴィトレインは我がグループが誇る対接触者コンタクター兵器でありコロニー内に侵入されたときのために作られたものです。

 彼らはこれを奪い、コロニー内での無差別攻撃によって我が社が管理する区部は大打撃を受けています。

 彼らの行いは、もはや人類に対しての敵対行動と言えるでしょう。

 放置すれば他のコロニー区部にも大打撃を与え、コロニー自体が危うくなります。

 他の者にも対応させていますが、現状あまり良い報告は聞かされていません。

 一刻の猶予もありません。

 ヘヴィトレインを破壊し、その主犯を撃墜してください。

 説明は以上です。

 ハーモニー・テクノロジー社は貴方に多大な信頼を寄せています。

 それでは良い報告を待っています』




 天井が空いている建物の中に大型輸送機からブルー・スワローは静かに降ろされる。

 周辺はブリーフィングで伝えられていた兵器、ヘヴィトレインによって無残にも破壊し尽くされていた。


「自分たちの兵器が乗っ取られるとは……管理不足を疑うな」


 セレナの呆れたような声が通信越しに聞こえる。

 建物の中から周囲を伺うと遠くから列車の駆動音が徐々にこちらへと近づいてくるのが振動と共に自分に伝わる。


「第一目標はヘヴィトレインの破壊だが、周辺にTAの反応もある。可能なら両方叩くぞ」


 やがてレーダーには六車両もある表示されているヘヴィトレインが線路に沿ってこちらの方角へと向かってきた。

 建物の中から覗くとその列車は一車両ごとが重装甲に覆われており、いくつもの砲台が露になっている。

 さらにレーダーにはヘヴィトレインの上空にTAの反応があり、そちらをモニターで確認する。


「また犠牲者が来ると思ったが、来たのは異分子……お前か」


 移動しているヘヴィトレインの上空からTAが隠れていたこちらに気がつき、話しかけてくる。

 

「異分子とか言われているぞ。お前も有名になったもんだな」

「御託はいい。我が【クゥ・リトルコマンダー】と奪ったへヴィトレインで排除させてもらう。浄化による秩序を」


 クゥ・リトルコマンダーはそう言い放つと、ヘヴィトレインの上空から両手に持ったバズーカガンで建物に隠れていたこちらを撃ち込んでくる。


 ――ドン!ドン!


 バズーカガンの弾が周辺に着弾し爆発する。

 その衝撃で隠れていた建物を倒壊させようとしていた。

 自分は建物が崩れる前に天井に空いた穴に向かって飛ぶことで、倒壊する建物から避難した。

 だが建物からの脱出を狙ってたかのように今度はヘヴィトレインの砲台がこちらに狙いを定めてくる。


 ――ドン!ドン!ドン!ドン!


 向かってくる砲弾をブースターを横に吹かしながらなんとか回避する。

 このままでは的になるだけと判断した自分はすぐに身を隠せる地上に降り立ちながら今回の作戦用に右肩に装備したECMで相手のレーダーにジャミングを行いながら身を隠せるほどの建物の裏側に機体を潜めた。


「なるほど……。そういう連携でくるなら的になる図体のデカいほうをやるのがセオリーだな。車両の装甲は恐らく重量級のTA並みに加えてクレイアシールドを展開しているだろう。だが奴の軌道は線路に固定されていて読みやすい。先回りして脆い連結部分を狙っていけ」


 敵機の連携を見てセレナが自分に助言する。

 自分はセレナが言った通りにヘヴィトレインの線路を強調してモニターに表示させた。

 線路はこのコロニーの区部を円を描くように張り巡らされておりその中に自分が存在していた。

 自分はブルー・スワローをレーダーに表示させているヘヴィトレインの軌道を予測し、その横に待機した。

 やがて列車の音が鳴り響く中、自分は試作ライフルガンをA型からB型に変えておく。


 ――ギュゴオオオオン!!


 本来出すことのない速度で線路を走るヘヴィトレインの足元は火花が散っており、まさに暴走しているという言葉が相応しい様子であった。

 自分はタイミングを見計らってブルー・スワローの姿を横から飛び出すと、ヘヴィトレインの二車両目が目に映る。

 自分のその動きに上空にいたクゥ・リトルコマンダーが素早く反応した。

 クゥ・リトルコマンダーがこちらに手に持ったバズーカガンで狙いを定めて撃たれる前に、自分は試作ライフルガンをヘヴィトレインに撃ちまくる。


 ――ドドドドドドド!!

 ――カンカンカンカン!!


 試作ライフルガンで車両の連結部分を狙うが、高速で動いている上にほとんど当たらず、さらにクレイアシールドが厚いのか聞こえてくるのは弾かれる弾幕だけで全く手ごたえを感じない。


 ――ドン!ドン!ドン!


 上空からバズーカガンの弾がこちらに撃たれるのを確認すると、自分はすぐさま左肩に装備したミサイルで牽制を行っていく。

 クゥ・リトルコマンダーが放ったミサイルを回避している間にヘヴィトレインが再度こちらに狙いを定める。

 自分は先ほどと同じようにECMを展開しつつブルー・スワローの機体を残骸の中に隠した。


「目標が堅すぎて手数では無理に近いな。威力が高い武装を使った一撃を加えていけ」


 自分は試作ライフルガンをB型から威力の高いA型に切り替えると、今度は狙いを定めやすい後部車両を狙いに行く。

 物陰からレーダーでヘヴィトレインの軌道を確認しつつ裏を回るようにブルー・スワローを動かしていく。


「――――」


 今度は完全に裏を描く形になり、後部車両に自分の姿を現した。

 そのおかげかクゥ・リトルコマンダーの背後も取っており、相手がこちらに気づき反撃するまで一手遅れる形になった。


 ――ドン!ドン!ドン!ドン!


 クゥ・リトルコマンダーに牽制目的で左肩に装備したミサイルを撃ちながら、後部車両の連結部分へと試作ライフルガンを撃ち込んでいく。


「異分子め……。小賢しい真似を」


 上空にいたクゥ・リトルコマンダーは不意を取られた形になりこちらが放ったミサイルに対応しきれず、多数のミサイルが被弾する。

 それによって機体の挙動が不安定になり、クゥ・リトルコマンダーはヘヴィトレインから離れる形になった。

 この瞬間を好機と判断した自分は後部車両に更なる追い打ちを仕掛ける。


 ――ドン!ドン!ドン!ドン!


 やがて後部車両を纏っていた分厚いクレイアシールドが青く四散し、装甲が露になる。

 自分は攻撃の手を緩めずに、モニターで脆い部分を確認しながら試作ライフルガンを撃ち込んでいった。

 

 ――ガァンッ!!


 やがて後部車両から試作ライフルガンの攻撃によって火が吹き始める。

 あと数秒で連結部分が崩壊すると思ったその時、何かの金属音が響き渡る。


 ――バキィン!!


 後部車両と連結していた中央部分の車両が切り離したのだ。

 切り離された後部車両は火花を散らしながら速度を落とし、線路外へと落ちていった。


「チッ……。切り離せば線路に留まると思っていたが、何かの作動でこういう時に線路外に落ちるようにしているのか」


 セレナが通信越しで悪態をつくのが聞こえる。

 自分は再度、状況を立て直すためにブルー・スワローを近くの建物に身を隠した。


「車両を切り離しても、線路に留まらないよう設計されているなら連結部分の攻撃は時間と弾の無駄だ。列車をコントロールしているであろう前方車両に一撃を加えるしかない」


 自分は片方の試作ライフルガンをその場に放棄し、空いたその手から格納してあるミカヅキブレードを装備しながらヘヴィトレインの進路先をモニターに写しながら移動する。

 自分は前方車両に待ち伏せの形になるような位置取りを行い、ブルー・スワローを配置させた。

 やがてヘヴィトレインの音が近づくと、自分はミカヅキブレードにエネルギーを溜め始める。

 刀身が淡い青から濃い青へと変化するとエネルギーが溜りきった合図がモニターに表示される。


 ――ギュオオオオン!!


 火花を散らしながらこちらへと向かってくるヘヴィトレイン。

 だがレーダーにはクゥ・リトルコマンダーの表示がない。

 表示されない敵機に違和感があったがヘヴィトレインはもう間近に迫っていた。

 このタイミングを逃せば二度目があるかわからない。

 自分はこちらに向かってくる前方車両に飛び出そうとした。


「異分子がやることはわかっていたさ」


 だが飛び出す瞬間、すぐ横にいたのは前方車両の近くを飛んでいたクゥ・リトルコマンダーであった。

 クゥ・リトルコマンダーとの距離は離れており、ミカヅキブレードの射程圏内ではない。

 不意を突かれたブルー・スワローに向かってクゥ・リトルコマンダーはバズーカガンでこちらに狙いを定め、撃ち始める。


 ――ドン!ドン!ドン!ドン!


「――!!」


 自分は咄嗟にミカヅキブレードを横に薙ぎ払い、ブレードに溜めていたクレイアエネルギーを周囲に放つ。

 放ったエネルギー波によって撃たれたバズーカガンの弾がいくつか爆散したが、全てを捌き切ることは出来ずに何発か直撃を貰ってしまう。


「近くにくると毎回レーダーが使えなくなれば誰だってわかる。しかも片方なら精度は落ち、その影響度も限られてくる。機体の火力を上げるためにECMを両肩に装備しなかったのが仇になったな」


 直撃を受け、咄嗟に線路外に回避行動を移したブルー・スワローを追撃するようにクゥ・リトルコマンダーがこちらに接近する。

 クゥ・リトルコマンダーのバズーカガンが直撃によって制御を失ったこちらに狙いを定めた。

 ミカヅキブレードのために大量に使用したクレイアエネルギーによってシールドの回復が追い付かず、次の攻撃を食らえば致命傷は避けられない。

 絶体絶命。

 その時であった。


 ――ドォン!ドォン!


 両方の機体に割って入るような横からの攻撃によってクゥ・リトルコマンダーは撃つのを止め、回避行動を取る。

 自分は弾の発射位置を咄嗟にレーダーとモニターで確認する。

 レーダーに表示されているのは青。

 つまり友軍機である。

 モニターで確認すると目に映ったのは黄緑色のTA。

 肩には緑の龍がデザインされているデカールが貼られていた。


「こういう経験不足は後で補えよ、坊や」


 聞き覚えのある声。

 機体こそ以前と違うがそれはまさしくロウの声であった。


「シェン・ロウガ……」


 割り込んできたロウの名をクゥ・リトルコマンダー忌々しく言い放つ。

 ロウは自分の隣へと降り立つと、頭部のカメラで状況を確認するように周囲を見渡していた。


「ロウ。遅すぎるぞ」

「久しぶりだな。いやいや、元気そうでなにより」

「そんなことよりも今は結構ヤバイ状況だ。なんとかならないか?」

「なんとかするためにここに来たんだよ。さて、新しくなったシェン・ロウガのお披露目と行こうか」


 ――いくぜ!

 その言葉と共にロウは機体を加速させる。

 ロウの機体は以前とは比べると若干機体のサイズが大きくなったようだ。

 恐らく中量型から重量型へと変更したのだろう。

 そしてグレネードランチャーを持っていた腕はハンドウェポンへと変わり、先ほどの爆撃はそこから放たれていたようだ。

 肩にはミサイルポットが以前よりも一回り大きい物が装備されており、まさに重量型に相応しい機体に仕上がっていた。


「見苦しい老人が。お前みたいな奴は秩序ある世界には必要ない。このまま浄化してやる」


 クゥ・リトルコマンダーが上空でバズーカガンを撃ちながら後方へと引いていく。

 その背後にはヘヴィトレインが走っており、どうやら合流するつもりなのだろう。


「いいか坊や。こういう相手でデカブツを先に倒せなかったらな」


 そう言うとシェン・ロウガの肩に装備されているミサイルポットの蓋が開く。


「その取り巻きをデカブツから引きはがして素早く潰すんだよ」


 開かれたミサイルポットが無数のミサイルが飛び出し、クゥ・リトルコマンダーへと向かっていく。

 両肩から放たれたミサイルの数は数十個にも及び、さらにその中の複数のミサイルが圧倒的な弾幕に紛れてクゥ・リトルコマンダーの軌道に合わせるように撃ち込まれる。


「くっ……!」


 クゥ・リトルコマンダーの横と背後に回り込まれるようにミサイルが誘導する。

 そのミサイルのせいでヘヴィトレインと合流出来ず、さらに複数のミサイルに被弾してしまう。


「不味い……!」


 クゥ・リトルコマンダーはミサイルを避けきれずに何発も直撃を受けてしまう。

 それによってクレイアシールドはまだ完全に削りきれてはいないが、爆撃によって機体の挙動も不安定な状況になっていく。

 そこに追い打ちをかけるようにシェン・ロウガがハンドウェポンに搭載されているグレネードランチャーで狙いを定める。


「あばよ」


 ――ドン!ドン!ドン!ドン!


 射程距離に入ったシェン・ロウガはここぞとばかりにクゥ・リトルコマンダーにグレネードランチャーを撃ち込む。

 何発も撃ち込まれたクゥ・リトルコマンダーはやがて機体から火が吹き始め、爆散一歩手前まで陥った。


「異分子……やはり貴様は浄化に必要……」


 その言葉と共にクゥ・リトルコマンダーは爆散していった。

 機体の破片が飛び散る中、残るは暴走を続けるヘヴィトレインだけになっていった。


「へっ、新しくなったシェン・ロウガに掛かればこんなもんよ」

「……ロウ、助けてくれたのは嬉しいがまだ作戦は終了じゃない」

「お?……ああ、あの暴走列車か。坊やの機体は限界近いだろう。俺がやってくる」

「すまないな」

「なに、気にすんな」


 そういうとシェン・ロウガは暴走するヘヴィトレインへと飛び出していった。

 遠くでミサイルやグレネードランチャーがいくつもの爆散する音を聞いているとレーダーには暴走していたヘヴィトレインの表示がいつの間にか消えていた。


「ヘヴィ・トレイン、クゥ・リトルコマンダーの撃破を確認。作戦完了だ。今回はロウに助けられたな……。機体はこちらのほうが上だが、経験では相手の方が一枚上手だったな。こういうことが起こらないように今回の戦闘を後で確認しておけよ」


 セレナに釘を刺されていると、自分のモニターに一つのマークが表示される。

 そのマークは黄色く光っており、誰かからのメッセージであった。

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