第13話

『依頼の概要を説明します。

 今回の依頼ではフューチャー・コスモス側に位置する区部から生産区域に侵入しその施設を破壊することです。

 これまで後手に回ってきた私たちですが、そろそろ彼らに解らせる時がきたようです。

 この作戦にはその区部に囮部隊を派遣しておきました。

 そちらに注意を行かせて手薄になっているところを狙います。

 故に施設内は通常よりも警備の数が少ないと判断できます。

 今回もこちらで用意した僚機と組んでもらいます。

 説明は以上です。

 ハーモニー・テクノロジーは貴方を高く評価しています。

 それでは良い結果を期待しています』



 囮部隊と共に二機のTAが空白の区部に集結する。

 僚機となるその機体は薄紫色の装甲を纏い、肩には六角形を模した水晶のデザインが描かれているデカールが貼られていた。


「【ロンズ・デーライト】よ。よろしくね」


 澄んだような若い女性の声で淡々と挨拶を済ます彼女の機体は重量型であり、自分が扱うブルー・スワローよりも一回り大きい。

 明らかに機動戦に向いていないその巨体だが、代わりに脚部にはスカートのような膨らみがあり、その中に複数のブースターが仕込まれていた。

 空中戦は得意ではなさそうだがこれを利用して地上での戦闘では問題はないのだろう。


「そろそろ作戦時間だ。突入準備をしておけ」


 セレナの一言によりお互い、区部の先にある生産区域の突入準備を始める。

 やがて作戦が始まり、囮部隊の旧型や軍用WFが行動を開始する。

 囮部隊としてに現れたハーモニー・テクノロジーの部隊に、フューチャー・コスモス側も応戦をするように旧型や軍用WFが送り込まれていく。


「頃合いね。行きましょう」


 囮部隊が注意を引く時間と突入ルートを確保しているため、自分たちもそのルートに従って突入していく。

 囮部隊に気を取られたのかその横を抜けて生産区部に侵入するのは容易かったことに自分は安堵する。

 このまま生産区部にあるプラントを強襲、破壊して作戦は終了と思われた。


「賊め。来たな」


 だが現実は甘くなく、生産プラントの前に一つのTAが立ちはだかる。

 その肩には四つの盾がデザインされているデカールが貼られていた。


「敵TA【ロイヤル・ガード】を確認。中量型のマシンガン持ちだがここにいるのはこいつだけか……?」


 セレナがロイヤル・ガードを確認した後、周囲の状況に違和感を覚える。

 周辺にはロイヤル・ガード以外に軍用WFが複数いるが、セレナにとっての違和感はそれらではなさそうだ。


「気をつけろ。何かあるぞ」


 セレナの忠告を聞きつつ、システムを戦闘モードへと移行させる。

 ロンズ・デーライトは両手に持つガトリングガンで軍用WFを駆逐していく。


 ――ガガガガガガガ!!


 圧倒的な連射力で軍用WFは成す術もなく蜂の巣にされていく。

 自分はライフルガンでロイヤル・ガードを狙いながら機体を飛翔させた。


「空き巣しかできん企業の犬め。もはや畜生の誇りしかあるまい」


 ロイヤル・ガードはマシンガンでそらにいるブルー・スワローに撃ち放つ。


 ――ドドドドドド!!


 だが自分にとってはその攻撃を避けるのは容易であり、機体を急加速させてロイヤル・ガードの死角を取る。

 死角から狙いを定めてライフルガンを放つ。

 その時、セレナから通信が自分の耳に入った。


「待て!!回避しろ!!」


 その言葉の直後、エティータから警告が鳴り響き、自分は咄嗟に回避行動を行う。


 ――ズドンッ!


 ブルー・スワローが居た場所に一発の弾丸が通り過ぎ、そして建物に着弾する。

 放たれた一発の弾丸は建物を即座に倒壊させ、瓦礫にしていく。


「新たなTAを確認。違和感が拭えないと思っていたがやはりいたか……【ウィスキー・ヴェルモット】。奴は遠距離戦を得意とするスナイパーだ。姿を無駄に晒すなよ。お前でも被弾の可能性はある」


 セレナから敵TAの名前を聞きつつ撃たれた方を確認する。

 それは遠く離れた生産プラント側から放たれており、そこにはこちらをスナイパーガンで狙いながら鎮座している姿を確認した。

 肩には蜘蛛とカクテルグラスがデザインされているデカールが貼られている。


「惜しかったわね。もう少し気を引けなかったのかしら?」

「申し訳ありません。あの賊共、勘が良いようで……」

「この短時間で私の存在に感づくなんて、オペレーターが優秀なのでしょう。気に病むことはありません。貴方はこのまま彼らの注意を引いてください」

「分かりました。彼らを貴方の元へ向かわせはしません」


 ウィスキー・ヴェルモットが弾を再装填させている間、ロイヤル・ガードが肩に装備されたミサイルをばら撒きながらこちらに注意を引かせようとする。


「なんなのあれ……。騎士ナイトのつもり?」


 相手のやりとりに嫌悪感が隠しきれないロンズ・デーライトは放たれるミサイルを回避した後、着地したブルー・スワローに近寄り、前に出る。


「目の前にいるあのTA、まるで後ろにいる彼女のための生きたデコイね。だったら同じことをしましょう。私、細かいことは苦手なの」


 うまく私を使ってね。

 そう言うとロンズ・デーライトはロイヤル・ガードに向かって機体を加速しながら向かっていく。

 脚部のスカート内に搭載されたブースターによって滑るように地上を移動し、ミサイルを掻い潜っていく。

 前衛を張ってくれているロンズ・デーライトの背後をピタリと貼りつくようにブルー・スワローも移動していった。


「小娘め、直進するしか能がないか」


 ロイヤル・ガードは両手に持ったマシンガンで向かってくるロンズ・デーライトに迎撃するように撃ち込んでいく。

 だがロンズ・デーライトのクレイアシールドが消耗されても重量機特有の圧倒的な装甲力によってマシンガンなどの攻撃はほぼ無傷といっても過言ではなかった。


「馬鹿な……硬すぎる」


 やがてロイヤル・ガードの距離を詰めたロンズ・デーライトはガトリングガンを撃ち込み、肉薄にしていく。


 ――ドガガガガガガ!!


 その連射力にロイヤル・ガードのクレイアシールドは一瞬にして剥がれ落ち、その攻撃を嫌がるように飛翔して回避行動を行うその挙動をロンズ・デーライトの背後にいた自分は見逃さなかった。


「――――」


 ――ドン!ドン!ドン!ドン!


 ライフルガンで"裸"になったロイヤル・ガードを撃ち込み、直撃を負わせていく。

 駆動系や制御部分を撃ち貫かれたのか、機体の制御がうまくいかなくなりロイヤル・ガードは力尽きたように地上へ落下し始める。


「申し訳ありません……。ウィスキー・ヴェルモット……」


 だがその攻撃は突然やってきた。

 ロイヤル・ガードがロンズ・デーライトの目の前に落ちた瞬間を狙ったのかウィスキー・ヴェルモットがこちらに向けてスナイパーガンを撃ち放った。


 ――ズガンッ!


 ロイヤル・ガードの機体毎、スナイパーガンによって撃ちぬかれたのは前衛を張っていたたロンズ・デーライトであり、その衝撃で機体は後ろによろける。


「っ!!」


 ロンズ・デーライトはなんとか機体の挙動を安定させたが機体の左側を大きく損傷してしまい、さらに左腕が機能しなくなっていた。


「ほんとこういう人は囮にしか使えないわね。貴方たちのせいでまた代わりを呼び出す必要が出てきました。この労力は本当にめんどうです。ですから、その鬱憤を貴方たちで晴らさせてもらいます」


 ウィスキー・ヴェルモットがスナイパーガンの弾を再装填を開始する。

 直撃を貰ったロンズ・デーライトはもう一度撃たれたら致命傷になるだろう。

 だからといって自分が先行していけばエティータを使用しても恰好の的になる。

 どうすべきか決断を迫られたとき、ロンズ・デーライトから通信が送られる。


「あなた……後一発。一発耐えれば彼女を倒せる?」

「――」


 その一言の意味を知り、自分は答える。

 遠くにいるが敵TAの居場所は把握している。

 後は近づくだけの状況でロンズ・デーライトはこの状況でも囮になると提案してきたのだ。


「あなたならやれる気がする」


 そう言うとロンズ・デーライトはウィスキー・ベルモットに向かって一気に加速を開始する。

 自分はその背後にピッタリつくようにロンズ・デーライトを追っていった。


「まるで愚かな羊ね。このまま食べられてしまうのかしら」


 ウィスキー・ベルモットがスナイパーガンの装填を終え、向かってくるTAに照準を合わせる。

 目の前にいるのは先ほど撃ちぬかれた重量機。

 ある程度クレイアシールドは回復していると予測できるがそんなのは関係ない。

 なぜならその状態で二発目を耐えられた機体は今までいなかったからだ。

 ウィスキー・ヴェルモットは向かってくる獲物に舌なめずりをするように狙いを定め、スナイパーガンの引き金を引いた。


 ――ズドン!


 その瞬間、ロンズ・デーライトは両肩に装備されたものを展開していく。

 両肩に装備されたそれはクレイアシールド量を増長させ、増量されたシールドは機体だけではなく周囲に展開する機能を持っていたのだ。


「……っ」


 周囲に展開させるクレイアシールドの膜はブルー・スワローをも包み込み、一つの青い球体へと変貌させていく。

 やがてその青い球体は前方へと力場を移動させ、青の球体から分厚い青の壁へと変化させていった。

 その青の壁に放たれたスナイパーガンの弾が着弾する。


 ――バリバリバリ!!


 大きな電気音と共にスナイパーガンの弾は勢いを失い、ロンズ・デーライトの横に逸れる。

 同時にウィスキー・ヴェルモットに向かっていたロンズ・デーライトはエネルギー不足のせいなのか速度は急激に低下し始める。


「なんですって……?」

「今よ!!行って!!」


 背後に隠れていた自分は思い切り飛翔し、ウィスキー・ヴェルモットへと飛び向かう。

 その距離は一度加速を行えば目と鼻の先に居ており、自分にとっては射程圏内であった。


「くっ……」


 その光景にすぐさまウィスキー・ヴェルモットはその場から退却しようと試みるが、その先には既に蒼い機体が待ち構えていた。


「ああ……」


 目の前に現れた蒼い機体はウィスキー・ヴェルモットのコックピットにライフルガンを突き立て、引き金をひく

 自分の利のために他者を利用し続けたTAは、コックピットに無数の銃弾を浴びせられる最後を迎えた。





「やったわね。うまくいってよかったわ。今の私はちょっと動けそうにないから生産プラントの破壊もお願いできる?」


 エネルギーを使い果たしたロンズ・デーライトの代わりに自分はこの地区にある生産プラントを破壊していく。

 その付近には破壊された二機のTAが残骸として鎮座していた。


「作戦完了ね。あなたとはうまくやっていけるみたい。また組みましょう」

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