第12話

『依頼の概要を説明します。

 今回の依頼は区部に取り残された補給部隊の救助です。

 彼らは旧型の部隊に援助として向かいましたが、待ち伏せを受けてしまい孤立したようです。

 報告には待ち伏せしてきた中にTAの存在をも確認しています。

 僚機はこちらで用意しました。

 協力して補給部隊の脱出の援助を行ってください。

 説明は以上です。

 以前のミッション成果によって貴方の評価は高くなりつつあります。

 それでは良い結果を期待してます』





「支援機の【フォルトゥーナ・スマイル】だ。援護は任せてくれ」


 補給部隊の救助を待っている区部に向かう中、僚機から落ち着いた青年の声で挨拶を貰う。

 フォルトゥーナ・スマイルと呼ばれた機体の装甲は青と白が入り混じった色であり、肩には唇だけ色が付いた女性の顔がデザインされたデカールが張られている。

 この機体の特徴はミサイルを搭載しているウェポン・アームを装備しているところであり、肩にもミサイルポットを背負い込んでいる。

 前衛には向かない構成をしているが、後衛からの支援になればとその機体の真価を発揮するのだろう。


「フォルトゥーナ・スマイルか……。まともな奴がやってきたか」

「あんたらの噂は聞いているよ。データを見ると中々凄いことをしているんだな」

「――――」

「はは。あんたなら俺をうまく生かせるかもな」


 他愛のない会話をしながら二機の救援ポイントまで向かっていく。

 


 


 到着するとレーダーには補給部隊が青く表示されており、それを中心に複数の旧型が赤く囲い込むように表示される。

 レーダーから得られる情報を見るにそれらはこちらに気が付いて一部の旧型が向かっているようだ。


「救援任務だ。巻き込まないよう気を付けよう」


 そういうとフォルトゥーナ・スマイルは速度を落とし自分の隣から後方へと立ち位置を変える。

 後方に移動したその機体からガシャンガシャン、と何かが開くような音が鳴り響いた。


「さっきもいったが俺は支援機だ。合わせてくれよ?」


 その言葉と共にブルー・スワローの背後から大量のミサイルが放たれ、こちらに向かってくる旧型に襲い掛かる。


 ――ドガガガガガガ!!


 一機、また一機とミサイルの雨に降り注がれ旧型は耐えられずに爆散していく。

 そのミサイルから避けようと旋回する旧型もいたが、誘導が掛かっているのか旧型の機動力では振り切ることができないようだ。


「弾幕足りねぇかな?」


 自分の存在はいらないのでは?と錯覚するぐらいの圧倒的な制圧力に驚かされる。

 自衛が難しい分、こういった状況で真価を発揮したときは本当に頼もしく見える。

 自分はミサイルの雨を降らし続けるフォルトゥーナ・スマイルを守るように前衛に立ち、ライフルガンでこちらの背後を狙おうとする旧型に撃ち込んでいく。

 旧型を駆逐しつつ問題なく補給部隊が待つ青い表示まで行くと、WFやトラックの中で待機している者たちを発見した。


「間に合ったようだな」

「援軍……?もしかして助けにきてくれたのか?」

「ああ。結構危ない状況だったがなんとかなってよかったぜ」

「た、助かった!!今すぐ出発をするから俺たちを護衛してくれ!」

「任せておけよ。女神はまだ微笑んでいるからな」


 補給部隊が急いで動き出そうとしている間にセレナから脱出ルートのデータを受信し、マップに表示させる。

 若干入り組んでいるが、ここに来るまでにある程度片付けておいたおかげでそこまで苦労しなさそうだ。


「こちらはいけるぞ!脱出ルートを案内してくれ!」


 補給部隊の移動速度に合わせてこちらも動き出す。

 次世代型ノーブスの速度は旧型よりも数倍の速度を出すことができるため、こういったWFやトラックに合わせた速度はとても遅く感じ、まるで老人を介護するような感覚になる。

 しばらく進行すると脱出ルートに待ち伏せしていた旧型が姿を現すが、出てきたその瞬間に大量のミサイルが降り注ぐ。


 ――ドガガガガガ!!


「す、すごい量だな……」

「まぁな。これのせいで報酬はショボくなるが俺の性分なんでな」


 旧型の襲撃をいなしながら補給部隊の脱出ルートを護衛していくとある違和感に気が付く。

 それはTAの姿が見えないという事だ。


「全然お相手さん姿出さないな。ECMで身を隠しているのか?」

「ECMを使用しているならお前たちのレーダーに異変が出るだろう」

「セレナ嬢の言う通りそれもそうか……。さてどうでるかな?」


 補給部隊の脱出ポイントまであと道なりに進むだけになったとき、その姿は現した。

 横から大きな赤い表示がレーダーに映し出され、お互いはすぐにそちらを警戒する。

 赤く表示されたそれは二つであった。


「さて、獲物をおびき出したが……【ミニマム・エンカウント】、やることはわかっているよな?」

「も、もちろんさ【ストレート・キャッチャー】。わかっているさ。それよりも約束は守れよ?」

「それはそちらの戦果次第だ。せいぜい気張れよ」

「嫌味な奴だぜ全く……」


 黄色と白の迷彩色に黄色のフードがデザインされたストレート・キャッチャー。

 灰色と緑の迷彩色にいくつもの足跡がデザインされたミニマム・エンカウント。

 この二機がこちらのほうへと向かっているようだ。


「なるほどな。旧型を囮にしてギリギリまで身を隠してたか。ストレート・キャッチャーとかいう黄色の奴……初めて見る奴だ」

「あ、あいつらだ!襲ってきたのは!!」


 襲撃してきたTAを目のあたりにして補給部隊がパニック状態になり始める。

 ブルー・スワローとフォルトゥーナ・スマイルは補給部隊の盾になるように横に並んだ。


「あんたらはこっから自力で脱出してくれ。だいたいの旧型は片付けておいた。あとはこいつらだけだが守りつつは難しいかもしれん。脱出ルートのデータは送っておいた。後はそっちで出来るよな?」

「あ、ああ。ここまで来て死ぬわけにはいかない!ここは任せたぞ!」


 補給部隊が急いでその場から後にするように移動を開始する。

 こちらは四機が睨みあう形になっており一色触発の状態だ。


「一機はミニマム・エンカウント。中量型の実弾系TAだ。手に持っているバズーカランチャーに気をつけろよ。もう一機は……データにないな。見た感じは中量型だが、肩に背負っているランチャーが気になる。何をしてくるかわからんぞ、気をつけろ」


 四機が人のいなくなった住居地で機体を浮かばせ、飛び回る。

 こちらは支援機であるフォルトゥーナ・スマイルを守るようにブルー・スワローが前に出る形になった。

 相手も同じようにミニマム・エンカウントを前衛に後ろにストレート・キャッチャーがいる形になる。


「先手必勝ってな」


 フォルトゥーナ・スマイルが肩と腕から大量のミサイルを放ち、口火を切る。

 自分はそのミサイルに紛れるように加速し、ライフルガンで前方にいるミニマム・エンカウントに銃撃を浴びせる。


「うおおお!?」


 ミニマム・エンカウントは手に持つバズーカランチャーで反撃しようと試みるがライフルガンとミサイルの弾幕により直撃は避けても多少の被弾を受けてしまう。


「お、おい!援護はどうした!?話が違うじゃねーか!?」


 メキメキとミニマム・エンカウントの装甲を纏うクレイアシールドが青く四散していく。

 このまま撃ち切れば墜ちるのも時間の問題だろう。

 そう思っていた時であった。


 ―ビィィィ!ビィィィ!


 突如としてエティータから警告音が鳴り響く。

 警告がされた表示はミニマム・エンカウントの背後にいるストレート・キャッチャーを表示していた。

 そこにはエネルギーが大量に収縮しているという合図でもあった。


「――――!!」

「ッ!!」


 それはお互いの機体が急旋回し、回避行動を取ると同時であった。


 ――ギュオオオオオン!!


 大きな緑色の閃光が先ほどいたこちらの軌道を通り抜ける。

 緑色の閃光はその先の住宅街に着弾し、巨大な爆発と共にバチバチと音を鳴らしていた。


「外しましたか……」

「お、お前……。まさか俺ごと狙ったのか!?」


 それはストレート・キャッチャーの片方の肩に装備されたランチャーから放たれたものであり、その発射口からもバチバチと緑色の電気が見えるのがわかる。


「プラズマ兵器……。おいおいそれはまだ解禁されてないだろう。なぜこいつが使っているんだ」


 セレナがその状況を見ながらこちらに情報を渡す。

 どうやらあのエネルギーは言葉の通りプラズマによるものなのだろう。


「コロニー内禁止武器を使用しているとか奴ら正気か?このまま撃たせ続ければ他の区部にも影響が出る恐れがある。あの雑魚は後回しだ。奴を最優先して撃墜しろ」

「セレナ嬢の言う通りだ。蒼いお前、あいつを一気に叩くぞ」


 こちらの攻撃でバランスを崩し、無様に着地するミニマム・エンカウントを後にして後衛に回っているストレート・キャッチャーに二機は速度を上げて向かっていく。


「最初に使いすぎちまったが十分だろう。食らいな」


 フォルトゥーナ・スマイルが全砲門を開けてミサイルを撃ち放つ。

 だがその数は先ほどの旧型を撃墜した時よりも明らかに少なくなっていた。


「使いすぎているのはわかっているんですよ愚か者」


 ストレート・キャッチャーがもう片方に装備された発射口から何発か上空に撃ち上げる。

 撃ち上げたそれはフレア弾であり、放たれたミサイルが誘導しそちらへと無残に向かってしまう。


「次は外しません。同士よ、これにて第一段階は完了しそうです。全ては浄化による秩序のために」


 もう片方の肩に装備したプラズマランチャーを再度充電させ、狙いを定める。

 高出力のプラズマ弾は大量のエネルギーを使用するため機動力を落とす必要があるがその威力と貫通力は目を見張るものがある。

 ストレート・キャッチャーはモニターに映るフォルトゥーナ・スマイルに照準を合わせようとしたとき、ふと違和感を感じる。


「……蒼い奴が見えない」


 レーダーを見ながら頭部に搭載されているカメラで周囲を見渡すと"それ"はそこにいた。

 レーダーに表示される四散したミサイルの中に赤く表示されるものがいる。

 その蒼い奴はミサイルの中に紛れ込んでいたのだ。


「くっ……」


 ストレート・キャッチャーはすぐさま機体を動かし、ブルー・スワローに照準を合わせようとする。

 充電はまだ完了してはないが、ダメージを与えるのには十分である。


「食らえ!」


 プラズマランチャーをブルー・スワローに向けて放つ。

 ブルー・スワローに放った当たるはずのプラズマ弾は、ギリギリのとこで横に急加速を行い、プラズマ弾をギリギリで回避する。

 装甲がバチバチと鳴り響きながらブルー・スワローは格納してあったミカヅキブレードを取り出し、プラズマランチャーを放ったストレート・キャッチャーを思い切り薙ぎ払った。


「馬鹿な……」


 青い光がクレイアシールドごと剥ぎ取り、コックピットを貫く。

 やがて主人を亡くした黄色と白の機体は力尽きたように地に伏していった。


「ふぅ……。これで終わりか。あとはこいつだけだな」


 フォルトゥーナ・スマイルがそう言うと、近くで隠れていたミニマム・エンカウントに機体を向ける。


「ま、待ってくれ!撃たないでくれ!降参だ!」


 そう言うとミニマム・エンカウントがオープン回線でこちらに通信を繋ぎながら隠れていた場所から姿を現すと、両手に持っていたバズーカランチャーを地に落として両手を上げる。


「俺はあいつと手を結んだだけだ!あいつがいなきゃもう戦う必要はねぇ……。あんたらも同じハウンズだろ?ハウンズだって依頼主が消えればその先はもう意味はねぇ。そうだろ?」


 セレナとフォルトゥーナ・スマイルのパイロットは目の前にいる命乞いをするTAに呆れていた。


「なんだこいつは……馬鹿にしているのか?」

「こいつはすげぇや……感動ものだな。で、どうするんだ?」

「どうするも……はぁ……。アホらしくてどうでもよくなっちまった。どちらの選択をしても大して意味はないだろう。お前に任せるよ」


 呆れていた二人からの判断を迫られ、自分はそれに答える。


「――――」

「本当か!?じゃあ約束だぞ!撃つなよ?絶対撃つなよ!?」


 その言葉と共に手ぶらになったミニマム・エンカウントはそらに飛び立ちどこかへと去っていった。


「全く……。ともかく周囲の敵影の反応なし。補給部隊も脱出ポイントに到達したようだ。作戦完了だ」

「終わったか。こんなのは勘弁してほしいが、正直あんたがいなかったら俺だけじゃどうしようもなかったな。助かったよ。また組んでくれよな」


 二機は遠くで必死に逃げる灰色と緑の機体を目にしながら作戦を終えた余韻に浸る。

 その下では黄色のフードのデカールが張られている部分が転がっていた。

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