第11話

 企業の小規模の報復合戦はやがて規模を拡大しながらコロニー全体を飲み込む。

 コロニーの中央と端の間に住民が退避して空白になったコロニーの区部が立ち並ぶ。

 さらに表に出てきた企業に対しての攻撃的であった過激派組織も影に落とし始める。

 コロニーの空白になった区部は企業が争いのための境界線ボーダーラインとして明確に線引きをした。

 この空白の区部の存在は企業が飼っている猟犬の放し所として機能し始める。

 境界線であるこの空白の区部を制したものがコロニーを制する。

 境界線の奪い合いはいつからかTA乗りたちのための主戦場になっていった。

 いつの間にかそこは猟犬たちの楽園……"ハウンズパーク"と呼ばれるようになる。

 そこは闘争の火が体に燻るTA乗りが舞い降りる場所になった。





『依頼の概要を説明します。

 今回の依頼は空白の区部になった第八居住区にフューチャー・コスモス社のTA【ビューティフル・ボディ】が確認されています。

 このTAは依然として第八居住区を占拠しており、こちらに対して牽制を入れている状況です。

 あそこを取られ続けるのはこちらにとっても不利益に繋がってしまうでしょう。

 ビューティフル・ボディを撃墜し第八居住区の奪還が今回の依頼内容です。

 尚、今回からミサイルなどの兵器の使用が許可されました。

 コロニーの天井は高く、そして厚い構造がされていますが穴を開けるようなことは避けてください。

 説明は以上です。

 私たちは貴方を評価しています。

 それでは良い結果をお待ちしております』






 目標ポイントまでの間、大型輸送機でブルー・スワローが吊り揺られていく。

 自分はTA戦に備え、機体の最終チェックを行っているところであった。


「聞こえるか?」


 セレナがふと自分に語り掛けてくる。

 何事だろうと思いつつも自分は通信を繋げた。


「この戦争……お前はどう思う?」

「――」


 企業同士で始まったコロニー内での争いにセレナは疑問を抱いているようであった。

 無論、自分たちを火種にした争いのため、良い気分はしない。

 だが契約を交わし、ハウンズとなった自分にはこれしかないように見えた。


「今ならまだ間に合う。やろうと思えばハーモニーの連中と契約を切ってお前はこの戦争が終わるまで安全な場所で身を隠すことができる。この依頼が終わったらそれをしないか?」

「――――?」

「私か?……そうだな……。ケガはほぼ治っているし機体の修復できていない部分は代用のパーツを使えば動かすことはできるかもな。お前はあくまで私の代役なのだからな。要望は通るだろう」

「――」

「そう言うな。私はただ、お前に人殺しの味を占めてほしくないだけだ」

「――――」

「勘違いするなよ。お前に与えた私の技術をくだらないことに使うんだったら降りろと言っているんだ。……それで、お前の答えはどうなんだ?」

「――――」

「そうか……。それがお前の答えか。ならば私は見届けるしかないじゃないか」


 自分を心配してくれているのであろうセレナに自分の決意を伝える。

 この戦争を戦い抜ける。

 その決意と共に、自分は蒼いゆりかごに揺られながら目標ポイントへと向かっていった。




 やがて高い建物は朽ちて瓦礫となっている第八居住区へと大型輸送機から降ろされる。

 ブースターで機体の挙動を調整しつつズシン、と音を立てて着地する。

 レーダーを確認するといくつもの敵影が映し出される。

 そのほとんどが周辺に配備されている軍用に改造されたWFであり、その中の一つにTAの存在を確認する。

 モニター越しに目視すると緑を強調した迷彩色が施されている機体に、肩には水着の女性が描かれているデカールが張られてあった。


「今度は次世代型ノーブスか。旧型を堕とすのもそろそろ飽きていたところだ」


 相手もこちらを確認すると、周辺に配備されている軍用WFを自分を囲うように移動させる。


「敵機を確認。これよりビューティフル・ボディを撃破する。奴はロウと同じような古参の傭兵だ。中量の機体でショットガンによる近距離の撃ち合いを得意としているが、データを見る限りどういうわけか旧型ではなく次世代型ノーブスに乗り替わったようだな。奴の適正は高くはないと聞いていたが……。だが奴の手練れのTA乗りだ。油断すると足をすくわれるぞ」


 セレナの言葉を聞き終わると、自分はブルー・スワローを中心に囲うように移動する軍用WFをライフルガンで撃ちぬいていく。


 ――ドン!ドン!ドン!


 一機、そしてまた一機と難なく撃ち落としていくと建物の上に配備された軍用WFがこちらに砲身を向ける。


 ――ドン!ドン!ドン!ドン!


 自分はすぐさま網膜に映し出される予測された弾道を参照にし回避行動を行う。

 放たれた弾を縫うように回避し、近くにあった建物を横から蹴り飛んで撃ち込んできた軍用WFに跳び向かう。


 ――ドン!ドン!


 壁蹴りによる跳躍によって攻撃してくる軍用WFの目の前まで即座に近づきライフルガンで仕留めると、その建物の上で周囲を見渡す。

 建物の周りには十機近くの軍用WFがこちらに向けて狙いを定めていた。


「無駄な取り巻きがいるようだな。ミサイルを使って排除しろ」


 自分はモニターに映し出される軍用WFに狙いを定めるように各機にロックオンしていく。

 全てのロックオンが完了すると両肩に装備された格納部位から水平ミサイルを発射した。


 ――ドン!ドン!ドン!ドン!

 ――シュォォォン!


 発射後、空を切るような音で軍用WFを爆発と共に駆逐していく。

 やがて周りが火柱が上がり始めると、自分のレーダーにビューティフル・ボディが表示されていないことを知る。


「――――?」


 高い建物に跳躍し高所から周囲を見渡してもその姿を確認することは出来ず、自分はブルー・スワローを一旦道路に着地するよう飛び降りた。

 周りを警戒しながらゆっくりと着地する。その時であった。


 ――ドゴォン!


 突如として近くの建物が倒壊し、煙を巻きながらその倒壊した建物から何発もショットガンが放たれる。


 ――ドガァン!


「ECM【Electronic-Counter-Measures】は初めてか?何、初めては何事もあるさ。次はないがな」


 ビューティフル・ボディの不意打ちを食らい、自分は他の建物へと素早く身を隠す。

 ショットガンという近距離で真価を発揮する攻撃を食らってしまい、自身のクレイアシールドが大きく削られてしまったのを確認する。


「反応が良いな。さすがにまともに当たらなかったら一撃で終わらないか。まぁいいさ。地の利はこっちにある」


 ビューティフル・ボディはそう言うと倒壊した煙に紛れ込むように姿を消す。

 機体に装備されたECMにより、こちらのレーダーに対して干渉を行っていたようだ。

 周囲はビューティフル・ボディを隠すのにうってつけの建物がいくつも存在しておりモニターを通して見つけるのは困難であった。


「闇討ちを仕掛けてくるだと?次世代機ノーブスを扱って舐めた真似を……。構わん、奴を炙りだせ」


 自分はブースターを点火させ、高く飛び始める。

 ある程度の高度を維持すると、地上を見渡す。

 ECMの影響で、やはりレーダーにはビューティフル・ボディの反応がない。

 だが自分は元いた場所を中心に向かってミサイルを撃ち放った。


 ――シュォォォン!!


 大量のミサイルを周囲に爆破させるとその影響で建物が崩壊し、辺りは瓦礫塗れになる。

 モニター越しでその光景を目視していると煙の中に一つの影が見える。

 それは建物の裏に隠れていたビューティフル・ボディの姿であった。


「なんて強引な!!くそっ!!」


 大量のミサイルを発射したのにビューティフル・ボディの機体はあまり損傷がないようだ。

 どうやたミサイルの爆破とその衝撃は自身のクレイアシールドで防いだのであろう。

 ビューティフル・ボディは隠れる場所がなくなったのか慌てた様子で倒壊してないほうの地区へとブースターを吹かして向かい始める。


「また隠れられたらめんどうだぞ。ここでケリをつけろ」


 ビューディフル・ボディのECMによってレーダーによる索敵は使い物にならない。

 だが目視でなら別だ。

 自分は自身の目にビューティフル・ボディに目を焼き付けるように目を凝らし、ライフルガンで牽制しながら近づく。


 ――ドン!ドン!ドン!ドン!


「うおぉ!?」


 建物のあるほうへと向かっていったビューティフル・ボディの背後からライフルガンの弾が撃ち込まれる。

 背後に撃たれながらの走行だったために速度が低下し、それを見たブルー・スワローがビューティフル・ボディを回り込むように飛翔する。


「貴様!」


 障害になるように目の前に現れた蒼いTAにすかさず装備したショットガンで狙い撃つ。


 ――ドガァン!ドガァン!




 だがその放った弾は空しくも空を切り始める。

 ビューティフル・ボディの目には引き金を引くと同時に目の前にいた蒼いTAが回避行動を取っているように見えた。


「なんだと……?」


 至近距離での射撃のはずなのに被弾すらしないこの蒼いTAにビューティフル・ボディは恐怖し、たまらず向かい合ったまま後方へと跳躍する。


「――――」


 自分は後方へと飛び逃げたビューティフル・ボディに追撃すべくブースターを思い切り吹かし、急加速を行う。


 ――キュオオオン!


 高速で後方へ逃げるビューティフル・ボディの真横に付き、張り付くように移動をする。

 一瞬の出来事によりビューティフル・ボディが自分を認識、何か反応をしようとしたが、そのときすでに自分はライフルガンの引き金を引いていた。


 ――ドン!ドン!ドン!ドン!


 無防備な横からの攻撃に飛んでいたビューティフル・ボディはたまらず姿勢を崩し、無様な着地を行う。

 ヨロヨロとしながらバランスを取り戻すとするその姿は、自分が初めてTAに乗った時を思い出すかのようであった。


「なんだあの動きは……。適正が低いとまともに操縦もできんのか」

「うぐ……くそ……」


 やっと機体のバランスを取り戻すと、そらに停滞していた自分に向かって片方の肩に装備されたミサイルを放つ。

 だがそのミサイルは慌てていたせいなのかロックオンがされておらず、こちらに向けて放ったはずのミサイルは空中でまともにこちらに向かわず四散し始める。


「――――」


 自分は四散したミサイルの間をブースターを吹かし、高速で潜り抜けながらライフルガンを浴びせ続けた。

 やがて銃撃に耐えられなくなったビューティフル・ボディの装甲を纏っていたクレイアシールドが青く四散する。


「ぐうう!!」


 そんな状況でも今度は有効射的距離ではないはずなのにこちらに向かってショットガンを撃ち始める。

 だが遠くから放たれたショットガンの弾を躱すこと容易であり、自分はこちらを向いて撃ってくるビューティフル・ボディの側面や背後に回るように動き、撃ち続ける。

 ガン!ガン!ガン!と装甲をライフルガンの直撃を知らせる金属音が辺りに鳴り響く。


「こ、これが本当の次世代型ノーブスなのか!?じゃあ俺は!?俺は一体何者なんだ!?」


 ビューティフル・ボディは恐怖した。

 目の前にいるはずの蒼いTAは、その姿をモニターに映そうと機体を動かし向いてもいつの間にか側面や背後を取られる。

 自機との圧倒的な機動力を見せつけるかのような動きにモニターによって映すことすらままならないほど防戦一方になる。

 厚い装甲による真っ向勝負の旧型の戦いとはまるで違うことをビューティフル・ボディは理解する。

 だがそれを理解をし始めたが機体はもう満足に動かすことすら出来なくなっていき、やがて攻撃を受け続けたビューティフル・ボディの機体から火が吹き始め、機動を停止させる。


「よくやった。作戦完了だ。……古兵を引きずり出してあの成果とは粗製ではないか」


 自分は撃墜されたビューティフル・ボディを後にするように帰投ポイントまで移動を開始する。

 最初にセレナに言われたことを思い出す。

 そしてそれに対しての自分の決意。

 この決意によって自分はもう戻ることは出来ない。

 だがそれでいいのかもしれないと思い始めていた。

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