第10話
――ドドドドドドドドッ!
――ビィィィ!ビィィィ!
突如として二つの機体から警告音と共に巨大な振動音が鳴り響く。
互いの機体はすぐさま戦闘モードへ切り替え、警告表示を見る。
警告表示は敵機の接近を表していた。
「巨大な何かが出現しているぞ!用心しろ!」
レーダーを確認すると先ほど戦闘が起こった場所で敵機を表示する赤いマーク表示されていた。
違いがあるとすれば先ほどの改造WFよりも遥かに大きいということだろう。
ズシン、ズシンと重い足音と振動を響かせながら暗闇の奥からそいつは現れた。
巨大な箱のようなものに四足歩行で進むその姿は過去の記録による生物で例えるとアメンボを巨大化にした形と言えるであろう。
その大きさはTAの大きさを遥かに超え、全体的な大きさはTAの数倍にも勝る。
一体どこから湧いて出てきたのか。
音の出現的にこの居住区部の外側から来たのではない。
恐らく居住区の地下に秘密裏に建造され、そして這い出てきたのだろう。
「GWF【Gigant-Walkcar-Flame】だと!?軍事用のものがなぜこんなところに!?」
通信越しでもわかるセレナの動揺の声は自分に伝播し、そのときの自分の不安な挙動によって僚機にも伝播し始める。
「なんだよあれ……。あんなの聞いてないぞ!?」
GWFと呼ばれた巨大な兵器はこちらの動揺など気にすることなくゆっくりと防衛ラインへと進行を開始し始める。
「WFだけじゃねぇのか!?こんなとこでこれを機動させるなんて正気かよ!?」
キャプテン・プロテクターが震えた声で叫び始める。
実際目の前に進行する兵器は巨大でとても威圧的だ。
GWFの進行ルートにある建物は問答無用で破壊し、その衝撃音が地上に響き渡る。
「……!!。たった今、
「―――」
「おいおいマジかよマジかよ……。本当にマジかよ……」
弱気になっているキャプテン・プロテクトを放置し、自分はブルー・スワローのブースターを吹かせ、空中に停滞する。
一歩一歩の進行速度はそこまで速くはないが時間制限付きだ。
空中からの攻めも考えたがレーダーに映るビルなどの高層の建物が多く表示される。
恐らく飛んで行っても高層の建物の影響で行動が制限されそうだと自分は判断しブースターを弱める。
ブルー・スワローは一旦建物の上に降り立つと他の建物に向かって跳躍をする。
接近までの時間を短縮するために踏んでいる建物を踏み台にするように次々と跳躍し、他の建物へと移り飛ぶことにした。
「やるしかねぇのかよ……」
弱気になっていたが意を決したようにキャプテン・プロテクターは機体を稼働させ、自分とは反対に空中へと飛び浮かんでいった。
「俺ならできる……俺ならできる……」
自己暗示をかけるようにキャプテン・プロテクターは呟き続ける。
やがてGWFと対峙するように射程圏内に入るとライフルガンを構え、狙いを定める。
「くらえ!」
――ドン!ドン!ドン!ドン!
四つ足の中央に位置する巨大な箱にキャプテン・プロテクターが放ったライフルガンの弾を浴びせまくる。
だが装甲は堅く、ライフルガン程度の威力では大きなダメージにはならなかった。
その攻撃を受けた後、GWFが反撃を開始する。
――ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!
中央の巨大な箱に何個も設備された巨大な銃砲から重い音と共に撃ってきたキャプテン・プロテクターに向けて倍返しのように発射される。
「ヴワァッ!?」
凄まじい弾幕の嵐にキャプテン・プロテクターはライフルガンでの攻撃を止め急旋回し、回避行動に専念する。
だが避けても避けても降り注ぐ鋼鉄の雨に回避行動が間に合わず何度も被弾をしてしまった。
「こ、こんなに!?よ、避けられねぇ!」
降り注ぐ大量の鋼鉄の雨はキャプテン・プロテクターの背後にある居住区に流れ着き、大音量の着弾音と振動音が鳴り響く。
キャプテン・プロテクターは装甲から青い粒子を撒き散らしながらたまらず空中から地上へと降り立っていった。
「こんなの無理だぜこんなの……。シールドもかなり持ってかれちまったし悪いが一時離脱させてもらう。シールドの回復までの離脱しても問題はねぇ。どうせ応援が来るんだ。あんたもそうしなよ」
そう言うとキャプテン・プロテクターは防衛ラインギリギリのところまで引き、GWFから存在を消すように身を隠した。
「……ッチ。やはり噂通りの奴だったか。応援が来るまで耐えるという恰好を付くことすらできないのか?」
「こういう輩は俺向きの作戦じゃないのさ。適材適所っていう言葉があるだろ?」
「その言葉を言い訳に使うならお前は傭兵向きじゃない」
キャプテン・プロテクターの言い訳にセレナは苛立つも一度深呼吸を行い、再度自分に通信を繋げる。
「こうなったらお前一人でやるしかない。今から大事なことを言うからよく聞けよ。今お前が接近しているGWFは
セレナの助言の通りにキャプテン・プロテクターのように
自分は先の戦いで改造WFを撃墜したようにビルなどの建物を壁に見立てて利用した壁キックのパルクールで移動していく。
――ガゴォン!ガゴォン!
機体が蹴り飛ぶ音を鳴らしながらやがてGWFの左前方脚部に到達すると送られてきたGWFのデータを参照しながら脚部の脆い部分をライフルガンで狙いを定める。
――ドン!ドン!ドン!ドン!
数十発その部分に撃ち込むとその箇所から火が吹き始め、デカい脚部がガクガクと痙攣するように稼働を停止させていく。
左前方脚部に異常を察知したGWFはその方向へとメインブロックに装備された砲身を向け、撃ち始める。
――ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!
自分に撃ち込まれていくその銃弾から身を隠すように素早く建物の裏側に入り込む。
だが放たれた銃弾は建物ごと貫通させ、倒壊させていく。
建物は盾にすらならないが倒壊したときに発生した煙によってブルー・スワローの姿を煙と共に身を隠すことができた。
これを利用し、再び自分はブルー・スワローを発進させていく。
時には建物を壁キックの為に利用し、時には道路を這うように姿勢を低く加速して向かっていく。
横や真上に流れるように逸れる銃弾を回避しつつ、左後方脚部へ到達し、先ほどと同じようにライフルガンで脆い部分を撃ち抜いていく。
――ドン!ドン!ドン!ドン!
数十発を撃ち込むと左後方脚部は稼働を停止し、さらに機体を支えていた脚部のバランスが崩れGWFが大きく倒れ込む。
――ズドォン!
支えきれなくなった左側に倒れる形になったGWFになり、後は前後の右脚部のみとなった。
だが倒れた衝撃でその付近は利用していた建物は全て倒壊。自分の辺りは瓦礫だらけになっていった。
十分に身を隠すことができなくなり、やむを得ず自分はブルー・スワローを
ブルー・スワローを高く飛翔させ、高さの位置的には倒れたGWFのメインブロックと同じぐらいに停滞し様子を伺う。
GWFは飛び上がったブルー・スワローを確認するとここぞとばかりに砲身を向け、狙いを定め撃ち始める。
――ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!
ブルー・スワローに重い銃撃音と共に撃ち込まれていく。
しかし、それは周囲が倒壊したこの場所ではブルー・スワローにとっても同じような状況であった。
なぜなら
だが今はGWFの左側にある場所にはその建物はなく、今なら自分の機動力を生かせる状況にあるからだ。
「―――」
自分はブルー・スワローを思い切り加速させる。
GWFの放つ銃弾の雨に高速で潜り込むように。
網膜には放たれる銃弾の予測位置が表示される。
銃弾の予測表示速度は進行しており、それは決してゆっくりではないが、その位置にいなければ銃弾は当たることはないと解った。
――キュォォォン!
背中のブースターが最大限に火を吹かし、それと同時に背もたれに引っ張られ身体が持ってかれそうになる。
だが不思議と痛みはなく、何も感じないような無に等しい感情でブルー・スワローに撃ち込んでくる弾をジグザグに避けていく。
瞬く間にGWFの右後方脚部に近づき、ライフルガンを撃ち込んでいく。
――ドン!ドン!ドン!ドン!
そしてGWFは完全にバランスを崩すことになり、もはや機体を支える脚は一つになった。
「――――!?」
後一脚で終わり。そう思った瞬間、身体に異変が生じる。
痛みがない感覚のせいで限界に近い加速を急に行ったせいか、はたまた蓄積された何かが破裂したのか、原因はわからない。
突如として身体がぴくりとも動かすことができなかった。
「――い!!どうし――!?」
今の自分が感じ取れることは微かに聞こえるセレナが自分の身を案じている声だけであり、それ以外はただコックピットのモニターが目に映るだけであった。
制御を失ったブルー・スワローはGWFと同じように機体のバランスを崩しながら緊急着地する。
やがて自分の身体の内側が熱を帯び始め、全身の血液が沸騰するような熱さを感じ始める。
毛細血管一本一本が燃えているような不快な感覚に陥りながら目に映るモニターを見ると動かないブルー・スワローにGWFの砲身がこちらに向いていた。
やがて沸騰するような全身の熱さから脳が耐えられず、その痛みから解放されるように意識が混濁し、気を失いそうになる。
自分はそれに抗おうとするが身体中が重く、思考も混乱状態に陥っているのかエティータを利用した思考操作もまともにできなかった。
ブルー・スワローは依然として瓦礫の中に眠るように倒れ込んでいる。
このままでは無防備な状態で敵機からの直撃を食らってしまう。
その時だった。
――ドォン!
突如としてこちらに向けていたGWFの砲身の一部が一閃の光と共に焼き尽くされる。
何が起こったのか、その一閃が放たれた方向を見ると一つのTAが浮かんでいた。
そのTAは白色の機体をしており、肩には数字の3の文字と梟のデザインが描かれたデカールが張られていた。
「遅くなりました。【ヴァルネイム・スリー】。参戦します」
ヴァルネイム・スリーと名乗ったTAから若い女性の声が聞こえる。
両手には巨大なレールガンが装備されており、先ほどの一閃はこれだったのだろう。
ヴァルネイム・スリーは今度は確実に当たるようにGWFのメインブロックに狙いを定める姿勢を取る。
それを予感したのかGWFは最後の悪あがきと言わんばかりにヴァルネイム・スリーに全力で発砲した。
「………ッ」
全力の発砲に対して回避行動を行わなければならずヴァルネイム・スリーは回避行動を取りつつも照準を合わせようとするが、GWFの最後の足掻きなのか放たれる弾幕によってうまくレールガンで狙いを定めることができなかった。
「悪い子ね……」
遠距離から狙いが定まらないと知ると、ヴァルネイム・スリーの背中のブースターに火が灯り始める。
そのブースターが装備されている部分の形は鳥の羽のような構造になっており、その内側にいくつものブースターが仕込んでいるようだ。
――キュォォォン!
直後、ヴァルネイム・スリーは集中砲火を行っているGWFに向かって急加速をし、高速で近づいていった。
真正面から突っ込むという常識ではありえない行動に自分とセレナ、そして遠くで見ていたキャプテン・プロテクターは息を飲む。
大量の銃弾が襲い来る中、ヴァルネイム・スリーはまるでその中を泳ぐように掻い潜っていった。
その挙動は自分がジグザグという直角的な動きならば、ヴァルネイム・スリーのそれは波のような滑らかな曲線的を描くような動きであった。
その動きで瞬時にGWFのメインブロックに至近距離まで近づくと、手に持ったレールガンで狙いを定める。
懐に入ったヴァルネイム・スリーを止めることは出来ず、GWFはレールガンでメインブロックを撃ち貫かれ、大きな音と共に崩壊していった。
「終わったのか……?」
「敵機は完全に沈黙しました。我が社のために防衛してくれたことに感謝します。それでは」
ヴァルネイム・スリーは端的にそのことだけを言うと、静かにその場を後にした。
全てが終わった後にキャプテン・プロテクターがこちらに近づいてくる。
「なんていうか……化け物みたいだな。俺も臆病な心が無ければああいう風になれるんかな……。あんたどう思う……?」
キャプテン・プロテクターから自分に問われているといつの間にか自分の身体の調子が戻っており、痛みも異常もないことに気が付く。
意識もはっきりとしており倒れた機体を立たせるとセレナへ通信を繋げる。
「やっと聞こえたが。どうやら無事なようだな。応援のおかげで今回は助かったが死にたくなかったらお前の身体の調整と状態ぐらい知っておけ。それと今回の戦闘データ、後で確認しておけよ。ヴァルネイム・スリー。ミラージュ・ピース社が誇る最強のTAだ。見る価値はある」
セレナに叱られながら自分は先ほどの光景を思い出す。
瓦礫の中から見たその光景。
圧倒的な戦闘力での敵を撃滅するその姿は羽型のブースターも合わさってまさに戦女神のようであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます