第9話

 『君たちも知っていると思うが、我がハーモニー・テクノロジー社はフューチャー・コスモス社の報復行為により敵対することになった。

 これによりコロニー内は退去した居住区だらけになってしまった。

 今やその場所が君たちハウンズにとっての戦場で間違いではないだろう。

 話を戻そう。作戦の概要を説明する。

 今回の争いにより水面下に隠れていた複数の武装集団がゴーストタウンになった居住区部に拠点を移して行動を開始し始めた。

 彼らの目的は企業に対して無差別的に行われるテロ行為と思っていい。

 我々も標的になっているが、武装集団の標的は企業として唯一完全な中立の立場にいるミラージュ・ピース社も含まれている。

 今回の作戦はミラージュ・ピース社の施設防衛だ。

 ミラージュ・ピース社はこのコロニーのエネルギー供給を任されているいわば我々の命綱といっても過言ではない。

 彼らは我々の争いに干渉しない姿勢を崩さないが武装集団がこれに目を付けたのか攻撃を開始した。

 この攻撃を無視することは我々にメリットはない。

 よってミラージュ・ピース社に対して支援を行う。

 なお、敵の数が多いため僚機として一機のTAと組んでもらう。

 こちらの方で君にピッタリのを選別した。

 説明は以上だ。

 今回の作戦は今後に大きく繋がるだろう。

 ではよい結果を期待してる』





 住民のほとんどが退去し、それに伴いエネルギー供給による光源は最低限になり暗闇のゴーストタウンと化した居住区部に二機のTAが舞い降りる。

 この区部の先にはミラージュ・ピース社の保有する研究施設が存在し、今回の作戦はそこの侵入を食い止めるのが目的だ。

 居住区部に舞い降りたTAの一つは全体が蒼く塗装されており肩に燕が飛翔する姿が描かれたデカールが張られた機体、ブルー・スワローが降り立つ。

 もう一つのTAは黄色と緑の迷彩色をしており肩に大きな盾模様の内には星が散りばめられているデカールが張られている機体であった。


「こちら【キャプテン・プロテクター】だ。今回の作戦、よろしくな」


 ブルー・スワローと同じ中型の機体であり、中距離を得意とするライフルガンを両手に手にしている。


「今回のロウの代役がこいつとはな……」


 通信越しにセレナが愚痴を漏らす。

 相方にいたロウは企業の方針として重要な作戦では次世代型ノーブスをに置き、旧型はそれ以外の、いわば裏方としての役を用意されていた。

 ロウの実力は企業も十分承知している。

 だが相手が次世代型ノーブスであれば旧型は必然的に後れを取る。

 それはシャドウ・プロトワン戦での戦闘データを見れば明らかだった。

 ロウは次世代型ノーブスの適正は低く、薬などの身体的強化が必要であったがロウはあくまで旧型にこだわり改良を提案した。

 企業はそれを承諾し、ロウの操るシェン・ロウガは組み直されることになり一時戦線を離脱することになった。

 次世代型に対抗する旧世代型の最後の星となるべく、ロウは爪を研ぐことになったのだ。


「君らのことは聞いているよ。ロウほどではないが、自分も少しは出来ると思うぜ?」

「その軽口、噂通りではなければ頼もしかったのにな」

「まぁ任せておけ。今回の相手は有象無象のWFだろ?なに普段通りにやれば問題ないさ……と、おしゃべりしてたら来やがったな」


 キャプテン・プロテクターと会話をしていると薄暗い奥からゆっくりと大きな影が複数現れ、動き出す。

 それは作業用のWFにどこで調達したのかTA用のチェーンガンやライフルガンなどを雑に装備した改造型のものであった。


「くだらないことを。弱いやつほど強いやつの猿真似をしたがる。あんたもそう思うだろ?」

「そんなこと言ってる暇はないだろうが。もうすぐ戦闘領域に踏み込む。準備しろ」

「あんたのとこのオペレーター、結構キツいね……」


 自分はブルー・スワローを戦闘モードに切り替え周囲の索敵を行う。

 モニターに映るは複数の改造WF。

 初めての戦闘に出会ったWFよりも明らかに武装の内容が良い。

 気を抜けばつまらない被弾を食らうことになるだろう。


「報酬は撃墜数に比例して増加するんだとよ。じゃ、お先にな」


 キャプテン・プロテクターは我先にと居住区を通り抜けるように機体を発進させる。


「後方には防衛対象であるミラージュ・ピース社の施設がある。撃墜数に拘るなよ。私たちの作戦は防衛なのだからな」


 セレナの忠告に自分は気を引き締める。

 中立の立場であるミラージュ・ピース社の信頼の勝ち取るための防衛作戦は失敗すれば取り返しがつかないだろう。

 自分もブルー・スワローのブースターの火を吹かし、自分も発進した。


「これまでに戦った広い場所じゃなく、居住区のような狭い戦闘は初めてだったな。こんな狭い場所だと得意の機動力も生かしにくいだろう。だが気にすることはない。どうせ人はいないんだ。逆にこの狭い空間を思い切り利用してやれ」


 道路の道沿いを進むように自分は真っすぐ向かっていく。

 やがて遠くから進行してくる武装した改造WFがこちらに気づき、頭部に武装されたチェーンガンを乱射する。


――ドガガガガガ!!


 目先にいる改造WFには手に持っているライフルガンの有効射程距離が少しだけ遠く、確実に仕留めるには近寄る必要がある。

 しかし左右にはビルが立ち並び、横に回避するには満足な空間が確保されていない。

 横のみの運動では不必要な被弾をも受けてしまうだろう。

 自分はセレナの言葉を再度思い出す。

 その言葉通りのことを思考し、それをエディータに認識させると、ブルー・スワローは横にあるビルに向かって跳躍をした。


「ッ!?」


 ブルー・スワローは横のビルに跳躍すると壁に張り付くような姿勢になる。

 予想外の行動にチェーンガンを撃ち込んでいた改造WFは慌てて照準を合わせようとブルー・スワローに砲身を向けた。


「――――」


 だが壁にめり込むように貼りついていたブルー・スワローはブースターを点火させ、それにより逆側のビルへと跳躍をする。

 ブースターの推進と脚部のキックにより、壁から壁へと跳躍を繰り返すその姿はまるでパルクールのような挙動で改造WFに飛び向かっていった。


――ドン!ドン!ドン!ドン!


 有効射程距離圏内に入った瞬間、ライフルガンを改造WFに撃ち込む。

 ライフルガンの攻撃を受けた改造WFの頭部は装甲が貫通し、爆散していった。


「まずは一機だ。このまま気を抜くなよ」


 先を見るとキャプテン・プロテクターが先の方で銃撃音を鳴らしている。

 彼の姿を見ながら今回の作戦は防衛という言葉を自分は思い出し、少しだけ後退をする。

 自分は彼の取りこぼしが施設に向かわないよう、防衛ラインを護ることにした。



――――



 敵機を墜とすことに夢中になっていたのか、キャプテン・プロテクターが撃ち漏らした改造WFを自分が尻ぬぐいするかのように撃墜していく。

 やがてレーダーに表示される敵機の表示が消えると自分は機体を通常モードに切り替えた。


「ふぅ……敵影反応なし……と。お、あんたのほうも終わったのか?どっちも片付いたようだな」


 どうやら逃した相手を別の場所の相手と勘違いをしているようだったが彼の尊厳を守ために自分は黙っていることにした。


「撃墜数は……まぁ俺のほうが多いな。悪く思うなよ。これも生き延びるためってやつさ……ん?」


 撃墜数を稼ぎ、ご機嫌な様子であったキャプテン・プロテクターは自身の足元の何かに気づいたように地面に頭部を動かし、モニターに映し出す。

 自分もそちらにカメラを向けるとそれは撃墜された改造WFから自力で脱出したであろう武装集団のパイロットが這いずっている姿であった。

 脱出したパイロットは這いずりながらこちらに向かって何か喋っているようだ。


「お、お前ら企業の犬どもが!偉そうにしやがって!」


 カメラで写したパイロットから罵声がモニター越しに聞こえる。

 這いずっているのは撃墜したときのよるものなのか身体中は血だらけになっており、脚もまともに動かせないのだろう。

 そんな血だらけになりながらもパイロットは喋り続ける。


「お前らの勝手で……俺ら持たない者はいつも割を食う……!俺らは知っているんだぞ!お前らがいつの時代もコロニーを支配しているということを!」


 目に涙を浮かべながら拳を固め、地面に思い切り叩きつけ、声を上げる。

 血と涙を撒き散らし口から嗚咽を漏らしながらこちらを睨みつけるそのパイロットを自分は何とも言えない感情で見ることしかできなかった。

 そんな中、近くで駆動音が聞こえ始める。


 ――ドン!


 その音と同時に目の前にいたパイロットの姿は硝煙と共にどこかへと消えてしまった。

 ライフルガンから飛び出た一発の薬莢が無慈悲に、そして冷たい音を鳴り響かせながら地面に落ち、自分は撃った方へとカメラを向ける。


「……ったく。こういう貧民武装集団の遠吠えはマジで耳障りだぜ。ともかくこれで作戦は終了だな。蒼いお前もお疲れ様。さて、報酬を貰いに戻ろうぜ」


 キャプテン・プロテクター鼻歌混じりにそう言うと機体を防衛ラインのほうへと向け、ゆっくりと移動し始める。

 ご機嫌な様子の足取りで防衛ラインへと帰投する僚機の背中を自分は静かに立ち止まって見続けていた。


「……あまり気にするなよ。よくあることだ」


 よくあること、その一言がセレナの口から放たれ、耳に入る。

 その言葉によって先ほどまで複雑だった自分の感情は自然と落ち着きを取り戻す。

 セレナが言ったその言葉を頭の中で言い聞かせるように復唱しながら自分も帰投することにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る