第8話

 コロニー内の企業間でTA乗りが活躍そして暗躍する中、未踏境界線付近での企業同士の衝突によって人類に新たな物語が開かれる。

 過度な挑発を仕掛けた側であったフューチャー・コスモス社が『我々の領域に踏み込んだあげくにこちらが契約していたTAを撃墜した』という主張でハーモニー・テクノロジー社に難癖をつけ、意を唱える。

 無論これにはハーモニー・テクノロジー社側も対応。

 会話と戦闘データを参照にし彼らが問答無用の先手を仕掛けたと主張。

 だがフューチャー・コスモス側はその提示を待っていたように声を高らかに上げる。

 こちらが持ちだした戦闘データを利用しお互いが争いを行った場所。

 そこは未踏境界線付近はフューチャー・コスモス側が管理する領域であった。

 接触者コンタクター出現とそれに伴う損害データ。

 それらをコロニー内にフューチャー・コスモス側に都合の良い虚偽のニュースとして広め、民衆の支持を得る。

 両者の平行線の主張による対立は溝を深めるばかりで結果的に解決には至らなかった。

 やがてフューチャー・コスモス社はこの主張と支持を盾にしハーモニー・テクノロジー社に報復を開始した。

 報復によって一度起きたその波の影響は、お互いが抱えるグループ内の企業にも急速に波紋していく。

 さらにこの混乱に乗じて影に隠れていた武装集団も企業同士の争いに顔を出し始めていった。

 もはや収拾がつかなくなった企業同士の争いは自社が保有する首輪を繋がれた傭兵"ハウンド"と呼ばれた者達による終わりが見えない代理戦争の幕が開けた。

 


――――





「セレナ……例のやつ見たか?」

「……見たさ。後で調べたがあの施設の場所は間違いなくこちら側の領域だった。だがあのTAが現れて挑発に乗った私たちはまんまと誘導され、そして火種にされた。奴らの争いのために私たちは嵌められたのだ」

「企業がこちらに応答しなかったのも恐らくわざとだろう。俺たちは所詮どこまでいっても使い捨ての傭兵か」

「それで得たのは"口止め料"が加算された報酬だけか……」

「……戦争が始まるな」

「ああ、あいつには荷が重いかもしれん」

「降ろすのか?」

「場合によっては……な。私たちは首輪が付いた犬になったが、だからといって無意味な人殺しなどで喜ぶ奴はイカれてる。あいつにそんな可能性を歩ませたくはない」

「そうか……坊やのことはお前に任せる。俺は俺のやることをやるだけだ」

「そいつは頼もしいな。だが老人が無理して自分に鞭を打つ姿は滑稽だぞ?」

「へっ、まだ現役だっつーの」





 ――某所、窓のない空間。


「先生、これが例の件です」

「ふむ……今度の戦闘データか。なるほど……」

「相手はあのシャドウ・プロトワン。つまりはそういうことです」

「戦闘データを見るにかなりしてやられたという感じだな」

「制約によるこちら側の全力が出せない状況とはいえ、さすがシャドウ・プロトワン……。素晴らしい研究成果と言わざるを得ません」

「彼らの技術力はとても魅力的だ。いずれ手に入るとはいえ、やはり見ていると興奮は抑えられん」

「ところで先生。ここのデータを見てほしいのですが……」

「ん?……ほう。これは……」

「はい。エティータの反応データです」

接触者コンタクターβ型と接敵する直前に鳴らされた僅かな警告音……」

「今までにない警告パターン。つまり新たな反応です」

「ほう……で、その内容は?」

「先生、落ち着いてください。内容については未だ不明です。ですがこれによりエティータのシステムの他の部分に関して多くのブラックボックスが開かれ、閲覧可能になりました」

「それで何かわかったのかね?」

「はい。戦術支援システムとして組み込まれたこのエティータについてですが、その内容を見る限り何かをしていると思われます」

「模倣……つまり、オリジナルがあるということだな?」

「そういうことです。エティータシステムは前時代の何かを元に作られたシステムだと予想できます」

「今まで強固だったプロテクトが警告音一回で多くのブラックボックスが解除されるとは……その付近にいればこのシステムの全容が明らかになるという事だな」

「そうことですね」

「生体データが入っている彼をますます死なすわけにはいけなくなったな……。企業同士の戦争も始まる。我々もこれに巻き込まれるだろう」

「このままでは身を隠しきれませんね」

「ああ。だから彼には隠れ蓑になってもらおう。そのために今日我々はここにいる」

「今はお互いが比較的小規模の報復の行いで済んでいますが、いずれは大規模の争いになるのは時間の問題です。戦闘の度合いも酷くなるでしょう」

「戦闘が増える……。それは彼のメンテナンスも時間が足りなくなるだろうがそのために用意したこのナノマシンがある」

「彼も本望でしょう」

「だろうな。ではそろそろ始めるとしようか」

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