第7話
灰色のTAが自分たちに向かって最初に攻撃を開始し始め、戦闘の口火が着られる。
前時代に活用されていたであろう廃墟になった施設の外側で三つのTAが飛び交うことになる。
敵意を向いた自分たちの目の前に現れたシャドウ・プロトワンは灰色のTAでありその機体の骨格は細く、また装甲も最低限のものが張られているだけのようであった。
「なんだあいつ速すぎるぜ!!おいセレナ!企業にこのことを伝えたのか!?」
「やっているがいくら通信を入れても奴ら応答しない!!クソッ!!いい加減な情報をよこして何のためのブリーフィングだ!!とにかくこのまま応答があるまで続けるからそっちはそっちでなんとかしてくれ!!」
一定の距離を保ちつつ飛び回りながらシャドウ・プロトワンがこちらに弾を撃ち込んでくる。
ロウは反撃として手に持ったグレネードランチャーで施設から離れるように逃げ回るシャドウ・プロトワンに照準を合わせるが、ロックオン寸前で急加速をされ外される。
そのおかげでグレネードランチャーを放ってもその弾は無造作に薄汚れた大地に着弾するだけであった。
「だめだ!俺の旧型じゃどうやっても追い付けねぇ!坊や!俺が後方で支援するから奴を頼むぞ!!」
こちらを向きながらジグザグに後方へと飛び回り、撃ち続けるシャドウ・プロトワンの距離を自分たちは追い付けないでいた。
自身の有効射程で撃ち続けるシャドウ・プロトワンの弾は特殊で装甲に被弾するとその箇所から弾が拡散、爆裂しクレイアシールドを著しく削る効果を持つ。
幸いにもシャドウ・プロトワン側の弾幕は薄く、避けれるものは出来る限り避けていた。
とはいえ、このままではジリ貧なのは確実であり打開策としてのロウの提案により支援を受けながら突撃していくことを決めた。
「聞こえるか?奴はウェポン・アームを使用しているためこちらよりも装弾数は少ない。だが奴もそれを熟知しているだろう。長期戦は望めばそれこそ奴の思うつぼだ」
セレナの助言を聞き、自分は機体を思い切り加速させる。
――キュオォォン!!
甲高い音と共にシャドウ・プロトワンのほうへと一気に向かっていく。
それと同時にロウ側から肩部に装備されたミサイルコンテナから大量のミサイルを発射させる。
高速でシャドウ・プロトワンに向かうのは蒼いTA、ブルースワロー。
そしてその背後には直接こちらを狙うのではなく進路を塞ぐような軌道を描く大量のミサイルであった。
「……」
シャドウ・プロトワンはこちらの肩部に装備されたフレア弾を数発撃ち上げるとその空中で爆散させる。
フレア弾の影響でミサイルの半数が軌道が狂い、逃げ回るシャドウ・プロトワンの左右にある起伏のある崖に逸れ、ミサイルは爆散した。
――ドン!ドン!ドン!ドン!
ミサイルの爆発と同時にライフルガンを放ちながら向かってくるブルー・スワローにシャドウ・プロトワンはそのままの向きで機体をさらに加速を加える。
――ドドン!ドドン!!
左右で爆散するミサイルの爆風や衝撃によってある程度は軌道を制限されているとはいえ、シャドウ・プロトワンはそれでも向きを変えず、ブルー・スワローにウェポン・アームから弾幕を張り続ける。
「――ッ!!」
後ろ向きに飛行しながらのはずなのに高速で近づくこちらとの距離の差が縮まらないことに自分は驚きを隠せなかった。
それどころか、逃げつつも弾幕を張ることでこちらを消耗させていくという人の理を超えた動きを目の前の灰色のTAはやってきているのだ。
自分は思わず加速を止め、一旦落ち着くために機体を地上に降りることにした。
急加速により機体に熱が篭り、排熱処理のために各所で蒸気が発する音が辺りに鳴り響く。
停止した場所は起伏のある場所で相手も同じ理由なのか一定の距離を保ちながらこちらを崖の上から見下ろしていた。
やがて弾幕を張っていたロウが自分のほうへと追い付いてやってくる。
「くそ……あいつは一体なんなんだ……。しかもやべぇぜここは……。施設から離れすぎちまった」
ロウのその一言で自分は周辺を見渡す。
そこは先ほどの施設があったような場所ではなく、起伏の激しい渓谷になっておりさらにその奥は黒い塵のようなものが勢いよく舞い吹いていた。
それ以上何があるか視認できず、またレーダーで確認してもわからないほどであった。
「ここは未踏境界線付近だ……。見てわかると思うがあの奥は本当に何があるかわからねぇ……」
「だが逆に奴もこれ以上逃げられないぞ。相手は武装や装甲など重量のある物は極力避け、機動力特化の軽量機体だ。そんな機体が移動が制限された場所にくるとは考えづらい……」
「何かあるってわけだな……坊や、気をつけろよ」
ロウが再度、ミサイルを撃つように機体を構える。
先ほどはシャドウ・プロトワンの周辺に撃ち込んだが、今度は狙いを定める。
それと同時に、ブルー・スワローもライフルガンを構えながら勢いよく向かい飛ぶ。
「……無駄なことを」
シャドウ・プロトワンのほうもふわりと浮かぶと、今度はこちらに背を向ける形で加速し飛んだ。
「軽量型の機動力は脅威的だ。機動戦は常に先手を取り、死角に回り込む奴のほうが分がある。だが焦るなよ。先手を取り返す動きではなく、潰す動きをしろ。奴は軽量型だ。一撃与えればそれで終わる」
自分は急加速をしながら高速でシャドウ・プロトワンの方へと向かっていくと同時にロウもミサイルを撃ち込む。
セレナの言う通り、軽量型の機動力により距離の差は縮まるどころか離されてしまう形になった。
自分はシャドウ・プロトワンがこのまま裏を描くような軌道をし、こちらの死角へと入り込もうとすると思い込んでいた。
だがその予想とは裏腹にシャドウ・プロトワンはそのまま真っすぐ、黒い塵が舞い吹いている未踏境界線へと向かっていった。
「馬鹿な。何を考えている……?」
自分は加速をやめ、機体を急停止させる。
機体を停止した二機に目もくれずシャドウ・プロトワンはそのまま未踏境界線へと向かい、入り込んでいった。
それに続いてロウが放ったミサイルも吸い込まれるように同じように入り込んでいく。
「レーダーには何も映らない……。ミサイルの爆発音も、その衝撃も……。中で何が起きているんだ?」
「おい、間違ってもあの中に入ろうとするなよ?あの中は文字通り未踏の地……。こちら側から干渉できず、あちら側で何が起こり、何があるかまだ解明されていない。深入りしたら最後、こちら側に戻ってこれなくなるぞ」
セレナの警告を聞いていると未踏境界線の奥から何か微かな音が聞こえる。
嫌な予感と同時にエティータから突如警告音が鳴り響く。
自分は咄嗟に機体を急加速させ、上空に舞い上がる。
――キュオォォォンッ!!
未踏境界線から黒い塵に巻かれながらやってきたのは先ほど入ったシャドウ・プロトワンであった。
高速でこちら側に突っ込んできたようで、ウェポン・アームで上空へ避難したブルー・スワローに向かって弾を発射する。
――ドドン!ドドン!ドドン!ドドン!ドドン!
「――ッ!!」
不意打ちによるその攻撃に自分は直撃を受ける形になってしまい、ブルー・スワローの纏うクレイアシールドは完全に消耗してしまった。
クレイアシールドの消耗に伴い、シールド確保のために機体の出力も下がり、ゆっくりと地上へと降り立つ。
コックピット画面にはシールド回復の時間とシールド完全消耗の警告音が表示される。
「野郎!!」
ロウが機体の制御が不完全になっているブルー・スワローを援護するために残っているミサイルと手に持っているグレネードランチャーを撃ちまくる。
「……次はない」
手ごたえを感じたのかシャドウ・プロトワンは降り注ぐ重火器による弾幕に対して気にすることなく、また未踏境界線の奥へと高速で入っていった。
「くそっ……俺はいつでもやれるっていうことか。これはマジで不味いぞ」
「未踏境界線特有のレーダー不可視状態を利用したヒットアンドアウェーだと……?奴め……頭のおかしいことをする。背を向ければ今度こそやられるぞ」
「そうはいってもよ。どうすんだよこの状況」
「こいつに任せるしかない。ロウの機体は一瞬の差でロックオンが間に合わず、どちらかが撃墜されてしまうだろう。あの様子だとロウの方は後回しという感じだ。ブルー・スワローとお前自身に掛かっている。勝負は一瞬だ。気張っていけ」
「――」
自分はエティータに神経を集中させ、黒い塵が舞い飛ぶ未踏境界線を睨みつけながら、ライフルガンを構える。
勝負は一瞬。
「……と、相手は想定しているだろうが……。案外、舐められたものだ」
黒い塵が舞い飛ぶ中、その中に灰色の機体が浮かんでいた。
自分の周りはその黒い塵だらけでそのほか一切視認することできず、かつレーダーも使い物にならない。
同じ風景が続くこの光景は少しでも進めば元の場所に戻れなくなりそうであった。
「……見えなくても位置は掴んでいる。シールドを削りきられた敵機は次で終わり。奴等に代償を支払わせる」
次の攻撃のためにブーストを吹かそうとしたその時、黒い塵の中に一つの影が見える。
殺気に近い物を感じ取り、咄嗟にその方向をモニターで確認する。
黒い塵のせいでそれが何者であるかはわからなかったが、同じ色の中に似ている色があるようなその違和感を感じる影をシャドウ・プロトワンは視認してしまった。
「お、お前は……。なぜ、なぜこんな所に……」
エティータから再び警告音が鳴り響く。
だがその警告音は聞いたことのない音であったが、それはシャドウ・プロトワンの攻撃の合図なのだろう。
自分は未踏境界線にライフルガンで待ち構えていた。
――ドゴォン!!
黒い塵が舞う未踏境界線から巨大な何かが落ちてくるような衝撃音が鳴り響く。
黒い砂煙を噴き上げながら現れたそれは銀の色をした巨大な筒状の植物のようなものであった。
「
「なんだと!?今すぐデータを送れ!!」
「もうやってる!!」
自分とロウは現れた巨大な植物型の
巨大な植物型の
「
「β型は初めてだぜ……セレナ、奴の対処方は?」
「β型は頭上の口から大量のα型を吐き出すタイプ、いわば母体だ。こいつがコロニーに近づけばそれだけα型の脅威を受けなければならない。なんとしてもこいつを排除しなければ……奴の体内に熱反応する核が存在する。モニターで確認し、そこを撃ち抜け」
「了解だぜセレナ。今確認してみる」
自分とロウはβ型に熱反応しているとこを確認する。
熱反応しているとこは内側とその側の二か所が存在していた。
「おいセレナ!核は二つあるのか!?」
「いや一つのはずだ。二つ反応あるのか?」
「そういうことだぜ」
「少し待ってろ……。送られてきたデータを見ると外側の部分の熱反応にTAの反応がある。恐らくだが、もう一つの熱反応はシャドウ・プロトワンのもので取り込まれたのだろう」
「奴の仕業でこいつが現れたのか……。反応ということは生きているのか?」
「……希望は持つな」
「へっ、そのほうが楽だぜ。聞いたか、坊や。熱反応のある核へ攻撃しまくれ!」
ロウと自分は機体を浮かせ、こちら側にゆっくりと迫るβ型に向かう。
するとβ型の頭上の部分が開き、その中から大量のα型が放出される。
自分はライフルガンで、ロウは残りわずかなミサイルとグレネードランチャーで対処をしていく。
自身が操る機動兵器よりも数倍の大きさを誇るβ型の威圧感はとてつもなく、その姿を目に写すだけで身震いしてしまった。
自分とロウはα型を駆逐しつつβ型の頭上まで舞い上がると、お互いの武器で頭上部分に向かって構える。
内部にある核を壊すには内部に続く箇所からの攻撃が有効的であるのは想像が容易い。
やがてある程度のα型が数を減らしたのを察したのかβ型が再度口を開き始める。
「今だぜ!!」
――ドン!ドン!ドン!ドン!
自分とロウはありったけの弾をその空いた口に向かって発射する。
だがその弾の数よりも放出されるα型が膨大で、さらにそれが盾になるような形になり内部攻撃までには至らなかった。
自分とロウは手ごたえを感じるどころか放出されるα型の勢いにたまらず、β型から距離を離すしかなかった。
「だめだ、奴との戦いで弾を消耗しちまったせいで火力が足らねぇ!」
「補給しなければこのまま奴と同じ道歩むぞ!一旦引くしなかない!」
セレナが通信越しでこちらに向かって叫ぶ。
だが自分はセレナの言葉にあるひらめきを感じていた。
「――」
「何?」
「なんだって坊や?」
自分が提案したこと。
それは内側の核に直接攻撃をせずに外側に取り込まれたシャドウ・プロトワンを攻撃し、爆散させて内部にダメージを負わすということであった。
「なるほど……。たしかに外側の方が外皮は薄いし直接狙いやすいだろう。奴にも役に立ってもらうか」
「けどよ、俺の武装……ミサイルはもうなくなっちまったし手持ちのもんもあと少ししかねぇ。お前のライフルガンじゃ内部に干渉して爆散までいかないだろう」
「……ミカヅキを使うのか?」
「――」
自分は脚部からミカヅキブレードを取り出し、二つのライフルガンをロウに託す。
ロウはグレネードランチャーを足元に置き、すぐさまライフルガンのデータを自身の機体に送り、使えるようにする。
「準備は出来たぜ。坊や」
「――」
自分はミカヅキブレードの出力を可能な限り上げるとβ型へと突っ込んでいく。
その時、β型はα型を放出、そのα型が自分に襲い向かってくる。
「うおおおおお!!!」
雄叫びを上げながらロウが後方から託された二つのライフルガンでα型を撃ちまくっていく。
本来扱うことのない武装のせいで撃ち漏らしたα型の襲撃を自分は急加速させながら避け、突っ込んでいく。
エティータに慣れたのか、景色は伸びるがこの前みたいに"どれが何か"になるほど認識できなくなるということはなくなり、ある程度はっきりとした景色が網膜に映し出される。
やがてβ型に取り込まれているであろうシャドウ・プロトワンの部分へと近づく。
「いけぇ!坊やぁ!」
ロウが撃ち切ったライフルガンを捨て、足元に置いておいたグレネードランチャーを素早く構え、撃ち込む。
撃ち込まれたグレネードランチャーの弾はブルー・スワローの横を通り過ぎ、シャドウ・プロトワンの部分へと向かって行っていった。
少しでもβ側の外皮を削るために撃ち込まれたその弾は着弾後、僅かだが灰色のTAが外側の表面に現れていた。
「――!」
自分は溜めに溜め切ったミカヅキブレードをその部分へと勢いよく斬り進んだ。
青い横なぎが一閃し、β型の薄くなった外皮を貫き、内部にあったシャドウ・プロトワンにも干渉する。
そしてその一閃は灰色のTAを爆散させるには十分すぎるほどであり、その衝撃は巨大な植物型の形をした
その衝撃で辺りには銀色の飛沫が飛び散り、そして
宿主を失ったα型も含め、全ての銀色の飛沫になり、昇華し終えると辺りは黒い塵を舞い飛ばす風の音のみへとなっていた。
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