第6話
――某所、窓のない空間。
「先生、運んできました」
「おお、わざわざすまないね。いやまさか今回の依頼でこんな戦闘があったとは……」
「名目上"模擬戦"となっていますが戦闘データを見るとミカヅキブレードを使用しています。あんなものを使用するなんてどう見ても何かしらの争いとしか思えません」
「我々にとってはそれはそれで都合がいいのだけどね。そういういざこざに黙っておいてやるということはそういうことだ。しかし投薬の量を見誤ってしまったな……。まさか彼がここまでやるとは……」
「急加速などによる急激なGの負荷やエティータによる脳加速によって彼の今の身体は外も内もかなりボロボロですね」
「まぁそんなもんはどうとでもなるが……だがこのようなことを想定するべきであったな。今後投薬の量を見誤ることないよう注意しよう」
「先生、彼の戦闘データについてはどう思いますか?」
「素晴らしいの一言だよ。投薬によって身体能力を強化してあるとはいえ、あの謎に包まれたエティータの情報処理に耐え、結果を出している。あんなものに己の身体を預けるなど狂気の沙汰だ。私なら死んでもやりたくないがね。……ところ君、エティータについて何かわかったかい?」
「残念なことにブラックボックスの部分が多く、かつプロテクトが非常に強固なので解析にはまだ時間は掛かります。これもロスト・アーカイブだからなのでしょうか……?」
「ふむ、今のところエティータの戦闘システムは三割程度しか解明されていない上にそれも全ては活用されていない。だがこの程度で彼の身体はボロボロだ。解析できれば、とてつもないものが生まれる可能性がある。そちらはそちらで頑張ってくれたまえ」
「好奇心が止まりませんね……。是非任せてください。しかしこのままでは彼の身体は持たないのでは?」
「何を言ってるんだ?持たせるんだよ。そのために君もここにいるのだろう?こういう者は死なない程度に生かしておいて、かつ依存させるように……ね。全ては人類、そしてコロニーの繁栄のためだ。そう思うだろう?仮に身体が持たなくなってしまったら彼はそれまでということさ。壊れたのならば別の者でやればいい」
「替えなんていくらでもいますしね」
「そういうことだ。ではそろそろ始めようか」
――――
『今回の依頼の概要を説明する。
コロニー外での危険領域付近での調査で前時代の思わしき施設が発見された。
この施設内には恐らくロスト・アーカイブが眠っていることは想像に容易い。
我々は至急、この施設内を調査しなければならないが危険領域付近というのもあって
それを考慮して付近の汚染地域を完全には把握しきれてない。
諸君にはその付近の未調査地域の汚染データを収集、及び付近の安全の確保をほしい。
尚、その施設は我々ハーモニー・テクノロジー社のグループが管理することが決定しているため
それでは良い返事を期待している』
地平線まで広がる曇天によって薄暗く照らされた大地を自分はロウと一緒に大型輸送機で移動していった。
「いやぁ坊やの活躍であのハウリング・ドッグをぶちのめしたのはせいせいしたぜ」
「わざわざ安い挑発に乗ったのだからな。あれぐらいは当然だ」
「へぇ……かなり信用してるじゃねーか」
「私が鍛えたからな。当然だ」
目的付近に到着するまで他愛のない会話が続く。
やがて目標ポイント付近に到着すると大型輸送機から二機のTAが降ろされた。
先に降ろされたロウが周囲を警戒する。
「……レーダーには
コックピット内に映るモニターにも付近の汚染状況が表示される。
緑から黄色、そして赤と三段階に分かれて汚染の危険度が分かるようになっているが、この地域では不明な部分を表示する灰色の割合が多い。
この灰色の部分を埋めることができれば今回の依頼は完了するだろう。
「ここらへんは未踏境界線付近だ。行き過ぎると帰り道を見失うから注意しろよ」
ロウの注意の呼びかけに自分は答え、蒼い機体を発進させる。
自分はロウと少し離れた場所で灰色の部分に表示されたところに向かい、汚染データの更新をしていった。
エネルギーの使い過ぎによって
コロニー内、そしてその外側の付近の大地の風景と違い、離れているこの場所は見渡す限り大地が荒れ果て、そして黒い塵が風によって舞い散っている。
この地上では今見ているこの大地の姿が本来の姿なのだろう。
自分たちが管理するコロニー内では、その地は完全に整備、管理され人の生きやすい地へと変えられている。
昔の外の世界はこんな風景ではなかったのかもしれない。
だがそれを知ることはもはや誰にもできない。
だが微かでもその知識の遺産を未来へと繋げるために人は記録する。
今の自分たちにとっては感じることのない過去の栄光だがその人が記録した意味を知ることが大切だ。
だからこそ、前時代の施設から得られるロスト・アーカイブは内容がどうであれ貴重なのだ。
「この付近の汚染未情報部分は埋めたな。よし、後は確認された施設のほうへ向かえ」
通信からセレナの指示がくる。
自分はマップを確認し、緑色に点滅しているところへと機体を動かし始めた。
やがて一つの荒れ果てた施設を見つけた。
施設は円を描くように掘られた場所に作られており、上から見渡すと施設内は広く、何かを作成する工場なような場所でもあった。
「なんだここは……工場か?ここでなんか作っていたのか」
「だがそれにしては不自然だ。わざわざここで作る必要があるのか?」
「たしかに……。俺たちのコロニーからも遠い。未踏境界線の奥にここを管理する場所があるとか?」
「可能性はある。だが私たちが踏み込む必要はない。汚染データは収集し終えたのだからな」
――ビィィィ!ビィィィ!
セレナがそう言った途端、自分とロウのモニターに警告音が鳴り響く。
警告音が表示されている部分を見ると赤く表示されている。
それはTAの存在を意味しており、誰かが自分たちに対して敵意を向けているという証であった。
自分とロウはその警告表示のとこに機体を向け、その方向を見る。
そこには目を瞑った人の顔がデザインされたデカールが肩に貼られた灰色のTAがこちらを見下ろすようにそこに立っていた。
「TAデータ照合……TA名【シャドウ・プロトワン】。フューチャー・コスモスの傭兵がなぜこんなところにいる……?」
セレナが警戒をするような低い声でTA名を伝える。
シャドウ・プロトワンと呼ばれた細身のTAの特徴として両手が人の手の形をしておらず、両腕の先から武器の形になっていた。
ウェポン・アームと呼ばれたその構造は、使いづらさはあるものの既存の武器にはない強味がある。
だが腕が武器そのものというその姿は自分はどう思うが相手にとっては敵意の意思表示でしかない。
やがて不気味に佇んでいるシャドウ・プロトワンから男性の低い声で自分たちに通信が送られてきた。
「君たちは……なぜここにいる?」
「ここにいる?おいおいそれはこっちのセリフだぜ。ここはハーモニー・テクノロジーの管理している場所なんだが?逆に聞くが、そっちがここにいることがおかしいじゃねぇか?」
「それはない……なぜならこの付近はハーモニー・テクノロジーと交渉し、我々が管理する場所になったからだ」
「馬鹿な……。そんな情報はどこにもないぞ!?」
「全て事実だ。そして君たちが企業として敵対勢力である私たちの領域を侵そうとしているということも事実だ」
シャドウ・プロトワンが戦闘体勢に入るような形になる。
自分の表示されている警告表示が敵意のある危険な表示へと移り変わり、こちらも咄嗟に戦闘モードへと移行させる。
「お互いの領域への干渉せず……それは両企業が交わした絶対的な確約……。ここにいる君たちの存在はそれを犯したのだ。規律に従い……代償は支払ってもらう」
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