第4話
『依頼の概要について説明する。
今回の依頼は我がハーモニー・テクノロジー社が管理するクレイア結晶採掘場から 運ばれる輸送車を護衛していただきたい。
近年我が社のグループに対して攻撃をする輩が活発になってきており、その中でも生活に必要なクレイアエネルギーを付け狙うことが多くなっている。
悲しいことに契約したフリーの傭兵も裏を取ると手引きしていた者もいたほどだ。
これ以上無駄な血を流さないためにも今後我がグループが管理する傭兵に護衛してもらうことにした。
少々過剰だが、これもコロニーの安全と安定を維持するためだ。
尚、今回の依頼は我がグループが確保しているもう一機のTAと組んでもらうことになる。
それでは、良い返事を期待している』
コロニーの最も外側に位置する場所にエネルギーの源であるクレイア結晶が採掘できる箇所がいくつもある。
それらはコロニーを代表する大企業が各地を管理していた。
管理する理由は様々で、ある企業は民間の生活のために。
ある企業は独占し、自らの開発のために。
汚染物質を吐き出さず、かつ高出力のエネルギーを持つクレイアエネルギーは前時代の遺産であるロスト・アーカイブと同等の価値があり、新たなエネルギーは飯の種どころか人類の存命を担うほどであった。
人類の進歩を飛躍的に加速させるロスト・アーカイブの価値は非常に高いがそれと同時にコロニー外での汚染地域での活動には大きなリスクとコストを背負うこになる。
それに比べてクレイアエネルギーはコロニー内での採掘になり場所さえ確保すればロスト・アーカイブの発掘よりも企業からの安定した供給が約束されていた。
故に企業同士の水面下によるクレイアエネルギーの奪い合いはコロニーという狭い世界では日常茶飯事であった。
「うちが管理する傭兵が護衛が付くと聞いてたがロウたちのことじゃねーか。お前らもついに首輪に繋がれたか?」
「この歳になってから少しばかり怖くなってな。今まで自由にやってきたツケってやつよ」
クレイア結晶採掘場で護衛対象の輸送車の運転手が顔見知りだったのかロウが自身の操る黄緑色をした【シェン・ロウガ】越しに世間話に花を咲かせているのを聞きながら自分は採掘場を見渡していた。
採掘場を見ると土地が削られた部分から輝いている結晶が見え隠れしており、それを傷つけないように作業員が丁寧に彫り進めていくのが見えた。
「しかし今の時代に企業に敵対する過激派テロリストに怯えなきゃいけないなんてな。チマチマ結晶掘りのほうが段々と安全じゃなくなるとか割に合わないぜ」
「どうせバックにいるのはうちと競合しているフューチャー・コスモスの奴等だろ。裏が取れてないから表沙汰にならないだけで皆知ってることだしな」
「記録を見る限り復興速度が今の時代が一番早いらしいからな……。コロニーをどっちが握るかとかいう、いがみ合いよりも、
「ハハッ。ちげぇねぇ」
「ところでその蒼いTA……。ロウの相方変わったのか?セレナ嬢に愛想でもつかれたか?」
「そういうわけじゃねぇが……まぁ代役ってやつだ。まだ坊やだが腕は本物だぜ」
「ほー。それは期待するしかねぇな」
「……ったく。あまり私の話題を出してほしくないもんだ……」
途中で自分の話題をあまりされたくないセレナが通信で自分に言ってくる。
自分が今この場にいることを改めて思い出す。
自分が
セレナが扱うTA、ローズ・リッパーの損害を受けた部分は最悪なことに駆動系とエネルギー供給の部分だったために、その修理に莫大な費用を背負うことになってしまった。
さらに身体にケガを負ってしまったセレナために現場復帰までの代役として、自分が出撃するとこになった。
自分はセレナの説得により大手の企業と条件付きだが契約することができた。
条件とは自分が起動させたTAの解析と戦闘データを提供との引き換えであり、今の機体【ブルー・スワロー】が与えられた。
自分はブルー・スワローの機体調整の他にシミュレーションを使った仮想戦闘による訓練が行われたがその指導を務めたのはセレナであった。
彼女の指導はかなり厳しく、少しのミスも許されないほどである。
だがそれほどまでに実戦ではそのミスで命が無くなるという意味も自分にはわかっていたために耐えることができ、短期間で実戦に出れるほどになった。
「もう時間だろう。しゃべってないでさっさと護衛任務を終わらせるぞ」
「ハハ、昔話に花咲かせてたらセレナに怒られちまった。おい、準備は出来てるんだろう?そろそろ出発してくれ」
「それはそうなんだがよ……。あと一機TAが護衛にくるんだろ?それ待ちなんだよ」
「……は?まだ来てないのかそいつは」
ロウが呆れたようにため息をつくと採掘場の外側から黄土色のTAがブースターを吹かしてやってくる。
口を開けて威嚇する犬がデザインされたデカールが肩に張られており、どうやらあのTAが今回の作戦を共にする一機らしい。
「いやぁすまんすまん。ちょっと寄り道をしててな」
「もう一機ってお前か【ハウリング・ドッグ】……。まさかお前と組むなんてな」
「それはこっちのセリフだぜロウ。まぁこっちのほうが都合がいいか」
「何を言ってるかわからんがさっさと済ましてしまおう。ほら、もう一機きたから出発してくれ」
ロウの合図と共に数台の輸送車がゆっくりと走りだしていく。
自分とロウとハウリング・ドッグは輸送車の周りを囲むようなポジションで発進していく。
コロニー内とはいえ薄暗い曇天の景色を見つめながら歩むのはなんとも憂鬱になる。
「ところでセレナはいるのか?久々に声が聞きたいぜ」
ハウリング・ドッグのパイロットがこちらに通信で聞いてくる。
その声を聞いていたセレナは少しため息を吐きながら応答することにした。
「……なんの用だ?犬」
「おいおい挨拶がすぎねーかその言い方は」
「お前を呼ぶにはお似合いのはずなんだがダメだったか?」
「へっ、相変わらずセレナは口が悪いな。お前って今その蒼いTAのオペレーターやってるんだってな?なんだ乗ってた機体ヤっちまったのか?」
「お前に関係ないだろ」
「そりゃそうかもしれないけどよ……。で、どうなんだ?」
「……そうだと言ったらどうするんだ?」
「いやね、別に」
含みのある言い方をするハウリング・ドッグにセレナは舌打ちをしたのが聞こえる。
「だから嫌いなんだこいつは……」
セレナはハウリング・ドッグとの通信を切ったあと自分でも耳を澄まさないと聞こえない音量でぽつりと呟く。
依頼した企業が危惧していた輸送車の襲撃は
「ここから先はもうコロニー管理内だ。俺らの護衛はここまでだな」
「助かるぜロウ。今回は何もなかったが毎回こうだといいぜ。お前と昔話もできたしまたよろしくな」
輸送車の運転手はそう言うとコロニー内へと入っていくのを自分たちは見届けていた。
これで依頼は達成され、一息ついているときにハウリング・ドッグから通信が入る。
「お疲れロウとセレナの代役!今回は何事もなくてよかったな!」
「最近は物騒だからな。何もないほうがいいに決まっている」
「ハハ!老人らしいこというじゃねーか!ところでよ、俺たち
「ハウリング・ドッグ、何が言いたい?」
「あー、そうだな……。回りくどい言い方しても仕方ねぇよな。おいセレナ、聞こえているよな?俺と一つ勝負しないか?この蒼いTAと戦って俺が勝ったら俺のものになれよ」
「……何言ってんだこいつは」
セレナが呆れた声で返事をする。
突拍子もないことをいきなり言い始めたハウリング・ドッグは特に気にしてないように話を続ける。
「セレナ、お前が腕の立つTA乗りというのは誰でも知っていることだ。だが今のケガをしたお前にそんな姿はなく、オペレーターの身になってTAの修理で借金に追われる身になった女でしかない。違うか?」
「……」
「だからよ。こいつから俺の専属オペレーターに衣替えしてくれよ。俺とお前ならいけるとこまでいけるぜ?何よりも俺も企業と契約した身だ。それなりに金も実力も持っているしなんだったらそれでお前の借金もすぐに無くせるぞ?お前が可愛がっているその蒼いTAぶちのめせば俺の実力もこの場で証明できる。悪い話じゃないだろ」
勝手に話を続けるハウリング・ドッグにロウが割って出た。
「おい、何勝手なこといってるんだこいつは。そもそも同じ契約したTA同士の私闘は禁じられているし、仮にそうではなかったとしてもまずはセレナの相方である俺の方に喧嘩売るもんじゃないのか?」
「俺はセレナとこの蒼いTAに話しかけてんだ。ていうか、頭固いなロウは。そんな違反行為は模擬戦とかの説明でなんとかなるんだよ。ボケてんなら早く帰って植物でも愛でてな爺さんよ」
「……
ロウの機体の片手に装備されている巨大な重火器、グレネードランチャーをハウリング・ドッグに銃口を向ける。
その銃口を向けられたハウリング・ドッグもすかさず両手に装備されたエネルギーマシンガンをロウに向ける。
コロニー外で緊張した時間がゆっくりと流れていくのを感じているとセレナが口を開く。
「はぁ……。発情を隠せない下卑た犬の姿を見るのは堪えるな。お前のくだらない誘いに乗るやつがどこにいる……」
「おいおい断んのかよセレナ。ここで逃げたらこんなビッグチャンスはもうないぜ?」
「つまらん挑発を考える暇があったらまともな口説き方を学んでくるんだな」
「へっ、そうかい。この依頼で会ったときに感じてたがやっぱり若い男に媚びを売るメスに成り下がったか。トップランカー様も落ちたもんだな」
「……」
挑発を続けるハウリング・ドッグにさらにこの場の空気がひりつき始める。
ロウの感情も限界に近いだろう。一色触発の緊張が周りを支配し始めた。
そんな緊迫した空気の中、自分は意を決して言葉を放つ。
「――――」
「お?」
「おい坊や!何を言ってやがる!?」
「お前……何を考えている?」
「そこの蒼いTAはやる気マンマンみたいだな。その言葉を吐いたなら、もうこれは後には引けんな?この近くに広い荒野がある。そこで
ついてきな、と言いながらブーストを吹かしてハウリング・ドッグはそこへと向かい始める。
構えたグレネード・ランチャーを降ろしたロウは自分に通信を繋げると慌てたような声が聞こえ始める。
「おいおい何考えてんだ?」
「奴のくだらん挑発に乗ったか……。まぁ遅かれ早かれ
「――――」
「ふっ……。そうだな」
「……お前らがそういうんだったら止めねぇけどよ。だったら勝つしかねぇよな?」
二人からの激を貰い、自分はハウリング・ドッグが案内する場所へとブースターを吹かし、向かっていった。
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