第1話
生き延びた人類は襲撃の際に破壊されたコロニーから記録媒体や技術など回収、復元する技術が時が経つにつれて向上し、滅亡に瀕していてもある程度の復興までに大きな時間を必要とはしなくなっていった。
解析されたロスト・アーカイブの内容は様々で、技術的革新の内容から前時代の一般市民の生活記録まで幅が広いが、内容がどうであれ回収する価値は非常に高い。
前時代から約百年足らずで新たなるコロニーを建設し、生活のためのエネルギー源や機動兵器などは回収したロスト・アーカイブから復元、解析した結果によるものだ。
存在が人類にとってパワーバランスを覆すほどの影響を持つこれらによってコロニー内は複数のグループに分かれ奪い合いが発生している。
コロニー外では除染が少しずつ進みながら人の住む地が徐々に拡大しているとはいえ、その先を行けば汚染された広大な大地が広がり
逃げられぬ状況化でお互いが助け歩む足の奪い合いをいつまでしているのか……。
「聞こえるか?そろそろ目的地だ。準備をしておけ」
宙に揺られながら女性の声に反応し、自分は目を開ける。
曇天による薄暗い空を一つの大型輸送機が巨大な機動兵器を吊りながらコロニー内の外側の部分にあるエネルギー貯蔵庫へと飛び進んでいく。
自分は揺られているコックピット内で人型機動兵器、通称TA【Tactical-Armor-Soldier】と呼ばれたそれの最終調整を行っていた。
その途中、自分の前に吊られている同じような人型機動兵器から通信が入る。
「坊やにとっては初仕事だろう。まぁ気楽に行けや」
落ち着いた初老の男性の声が響き渡る。
その一言は自分の初仕事による緊張を和らげるのには十分だった。
「これは私に、そしてお前にとっても大事な仕事だ。
最初に聞こえてきたその女性の声は厳しくも、冷静で気高いその声質に和らいだ身体にほどよく気が引き締まる。
自分は冷静に機体を確認していく。
コックピット席の後ろから突出した部分が自分のパイロットスーツの背中を刺していった。
目を瞑りながら機体のエネルギーが身体に染み渡る感覚を味わいながら左右に鎮座している穴の空いた丸い形のレバーに、指を入れる。
次に目を開けると機体の情報が網膜に映し出され、さらに指の動きに合わせて機体の挙動も細かく連動した。
「今回の任務はコロニー拡大計画で起きた暴動を鎮圧することだ。情報によると最近勃発している武装集団も関与しているらしく、私たちが向かうエネルギー貯蔵庫には旧型のTAも確認されている。ただ鎮圧するだけじゃなく、お前が扱う次世代機のパフォーマンスも兼ねているから下手を踏むなよ」
「おいおいセレナ。その言い方だと坊やが委縮しちまうだろ」
「何を言っている。こいつのおかげで私は酷い目にあったんだ。稼ぎ頭になってもらわないと困るのはロウ、お前も同じだろう?」
「はっはっは!ちげぇねぇ!」
他愛のない会話をしていると、目的地のエネルギー貯蔵庫が見えてくる。
巨大なタンクが並ぶその地上には戦車のような装甲に二足の脚を生やした機動兵器が佇んでいた。
「WF【Walkcar-Flame】も結構いるじゃないか。俺の旧型の機体じゃ少し辛いなこれは」
「無駄口はいい。降ろすぞ」
大型輸送機から吊られた2機の機動兵器の枷が外され、地上へと落とされる。
お互いが背中に搭載されたブースターで機体の挙動をうまく調整するように火を吹かしながら地上へと降り立った。
目で辺りを見渡すと、こちらの侵入に気づいたのかWFが囲うように武装集団が集まってくる。
「目の前に三機……遠くにまだ複数確認できるな……。坊や、目の前の三機はお前に任せる。セレナにしごかれた成果を見せてやれ」
――シェン・ロウガ 出るぞ。
その一言にロウは自分に背を向け、背中に積んであるブースターを強く吹かし遠くへと移動していった。
「勝手なことを……まぁいい。お前にとって目の前の奴等は敵ではない。速やかに排除しろ」
横に並んだ三機のWFの頭部に搭載されているチェーンガンがこちらに狙いを定めてくる。
網膜に銃口を向けられていることを知らせる警告の赤く文字が表示され、警告音も鳴り響く。
自分は冷静に、そしてゆっくりと三機のWFを見ながら指にゆっくりと力を込め始める。
直後、三機のWFに搭載されているチェーンガンから火が吹き始める。
薬莢を排出しながらWFは目の前のTAに向かって撃ち続けた。
この規模の兵器を通常の建物に放てば一機でも瞬く間に蜂の巣になり、倒壊してしまうだろう。
そう、通常であれば。
「―――!」
自分が操るTAは勢いをつけて高く跳躍する。
WFが放った銃撃は空を切ることになり、自分はそれらを見下ろす形になった。
背中のブースターと各所に搭載されたバーニアを駆使し、体勢を整える。
WFは標的を失い、照準を再調整するのに数秒。
その隙を逃さず、まず初めに近くの二機に両手に武装されたライフルガンでそれぞれを狙いに定めながら二機のWFに向かって前進する。
「―――」
ドン!ドン!ドン!ドン!
重厚な音を鳴らしながら、WFの上半身、特に頭部の部分を撃ち抜いていく。
戦車のような装甲を持っているのにも関わらずそれぞれのWFは火花を散らしながら衝撃により後ずさりし、やがて弾が装甲を貫いていく。
最初の銃撃から自分は結果的に前に跳びながら近づいて撃ち抜く形になり、着地するときには二機のWFのコックピット部分は穴だらけになっていた。
「なんだあの動き……まさか企業の傭兵なのか!?」
後方からチェーンガンを撃っていたWFがこちらに慄き、身を隠すようにエネルギータンクの裏に隠れる。
息を整える暇を与えないよう自分はブースターの出力を上げ隠れたWFの後を追う。
WFが逃げたエネルギータンクの裏に行くとそこにはこちらを待ち伏せするようにチェーンガンをこちらに構えていた。
「死ね!」
不意を突いた至近距離でのチェーンガンにより目の前の敵は穴だらけになり死亡。
その未来が今見えるとWFの搭乗者はそう思い込んでいた。
「―――」
タンク裏に隠れたWFを追い、そのまま顔を覗かせると、チェーンガンを構えているWFを目のあたりにした自分は反射でそのままブースターの出力を落とさず、撃ち込んでくるWFを中心に円を回るように背後を取る。
「ば……ばかな……」
背後に回り、そのままライフルガンでコックピットに数発撃ち込むとWFは力尽きたように脚を崩し倒れ込んだ。
「三機のWFの破壊を確認。まぁWFなど苦戦すら論外だ。依頼主がほしがっていた雑魚用のデータもこれでいいだろう。後はTAの撃破だけだ。敵TAのデータを送信する。受信後、速やかに向かえ」
画面に今回の主犯であろうTAのデータが送られてくる。
TA名は"ヒート・クラーケン"。
データの受信によってレーダーにその目標が赤く表示される。
その目標はここから遠くないことを確認し、脚に力を込め高く跳躍する。
そのままブースターを吹かし、高度を維持しながらレーダーを頼りに目標に向かっている。
やがて赤い迷彩色に機体を彩っている機動兵器が目に写った。
「おらおら!俺が相手になってやるからさっさと運びやがれ!」
下の者に指示しているその姿からどうやらエネルギー貯蔵庫からエネルギーを盗み出しているのを護衛しているらしい。
両手に持っているマシンガンで弾幕で警備部隊に威嚇射撃をしているようだった。
「ん?あれは……」
やがて警備部隊の姿が消えていることに気が付き、空を見上げると1つの機体がこちらに向かっていることを確認した。
「見たことねぇ蒼い機体のTA……まさか
ヒート・クラーケンはこちらを視認後、速やかに迎撃態勢を取る。
まだ距離はあるがこちらが武装しているライフルガンよりも相手のマシンガンのほうがレートが高く、真正面の撃ち合いは不利になるだろう。
「敵TA"ヒート・クラーケン"を確認。ちょうどいいデクだ。対TAのセオリー通りのことをやってみせろ」
「
お互いが銃口を向けて構えていたが、先に口火を切ったのはヒート・クラーケンのほうだった。
対面から空を切りながら迫ってくる蒼いTAにヒート・クラーケンはニヤリと笑う。
「馬鹿みてぇに真っすぐ空中から仕掛けるとかド素人かよ!?そのまま死にな!!」
両手のマシンガンによる高レートの弾幕が蒼いTAに降り注いでいく。
機動兵器のTAは
ネックとなっている部分が重量であり、機動性・・・特に空中制御に関しては維持が難しく、また速度も出しにくいためそれなりの工夫が必要になる。
元々地上戦を意識しており、飛べずとも対空手段としての機能はそれなりに充実していた。
「―――」
空中から真っすぐ向かう自分の目に映るのは降り注ぐ弾の嵐。
そんな状況でも落ち着いて手に力を込め、瞬時に自分が想定した回避行動を思い描く。
すると本来、空中では鈍い動きしかできなかった機体が横方向へと急加速していく。
「な、なんだありゃ!?」
横方向へと回避行動した蒼いTAを追うように銃口を修正する。
だが横に追った銃口を避けるように今度は反対側に急停止後、急加速を行う。
急加速と急停止を繰り返し銃口を避けるように大きくジグザグに動き回るその姿はまさに異様であり、マシンガンを握っていたヒート・クラーケンの手は徐々に無造作に振り回される形になった。
「こ、こんな動きありえるのか!?」
「―――」
不規則な動きに振り回された結果、マシンガンの弾幕は規則性を失いバラけるように散っていった。
こちらを狙うことが難しくなったその瞬間を見逃さずにライフルガンを構え、狙いを定めて引き金を引く。
「うううぐぐぐ……」
マシンガンほどの高レートでは発射されないが、一発一発が重くそして確実に削り取る威力を放つライフルガンの弾を浴びせていく。
その衝撃にヒート・クラーケンはよろけ、表面を覆っていたシールドが削り取られていく。
ジグザクに動き続けながら数十発のライフルガンを撃ち続けた結果、ヒート・クラーケンの姿勢がガタガタになり、照準を合わしていた腕はもはやこちらに狙いを定めることも難しくなっていく。
やがてヒート・クラーケンの装甲を覆っていた青い電磁波、【クレイア・シールド】が急激な負荷により四散していく。
「うおおお!?」
シールドが破壊された瞬間、撃ち込まれたライフルガンの弾の衝撃はより激しくなり、装甲を貫かれはしなかったが抉り取られるような衝撃により真っすぐ立っているのもやっとの状態であった。
その瞬間を見逃さず、自分はジグザクに動くのを止め、機体を真っすぐ急加速させる。
右手のライフルガンを腰に格納し、脚部から近接戦闘用に開発された高出力エネルギーブレードを取り出し、起動させる。
ヒート・クラーケンの目には舐めていた相手が遠くの
「マ待って―」
勢いよくブレードによってコックピットごと抉るように横に斬りつけられたヒート・クラーケンは、胴体を宙に舞うとそのまま地面に叩きつけられた。
機体を着地させ二つに別れた機動兵器を見下ろしながらブレードの刃に伝わるエネルギーを消していく。
「目標の撃破を確認。依頼主もこのデータは満足するだろう。よくやった。初めての実戦とはいえ上出来だ。だがあまり浮つくなよ。相手が格下に過ぎんのだからな」
セレナの言葉を聞くと、こちらに近づいてくる者がいた。
その者を確認すると先ほど別れたロウの姿であった。
「お、坊やのほうも終わったか?」
「こちらの任務は終わった。ロウのほうはどうだ?」
「所詮はWFしかいねえし余裕だぜ」
「では任務完了だな。私は依頼主に報告をする。お前らはその間に離脱地点まで移動しろ」
高揚感に包まれた蒼い機体はロウに先導してもらいながら離脱地点まで移動を開始する。
与えられた次世代機での初めての実戦。
機体と一体となり、敵を撃破するときに感じた生の充足を自分は噛みしめていた。
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