第2話
『まずは今回の依頼を成功させて我々ハーモニー・テクノロジー社の代表として感謝を述べたい。君たちも知っている通り最近は我が社に対するテロ行為が多発している。どこの馬の骨に資金を提供している輩は大体予想できるが核心を得られてない以上、身動きが取れない状況だ。しかしフリーの傭兵の中でもトップランカーの君たち二人と一人の加入は我が社にとってとても有難いことだ。そうそう、戦闘データを見させてもらったよ。セレナ君の代役の……彼は素材としてはとても素晴らしい器量の持ち主だよ。これからも経過観察は続けていくつもりだ。とりあえず我が社へようこそ。そしてコロニーの繁栄のために我が社に協力してほしい』
自身の生命が活動する鼓動音が一定間隔で鳴り響くのに気が付いて意識が少しずつ戻り始める。
重い瞼をゆっくりと開けると真上には白い天井が目に入る。
身体のほうに目を向けると自分は病院のようなベットに身体を寝かせており、薄い服の裏には身体中にシールのような物が張られていた。
意識が鮮明になり始めたのか、身体が重くなり、そして鈍い痛みが広がり始める。
「戻ったか。今は治療中だ。あまり身体を動かすな」
重い頭を横に振り向かせると黒く艶のある長い髪を後ろに縛っている女性が目に映る。
その声の主は作戦のときにオペレーターをしてくれたセレナの姿であった。
凛としたその姿はこちらを見ることはなく、邪魔にならないように設計された細身のギプスが付いている足を絡ませながら手元のタブレットに目をやっていた。
「お前はTAの適正が低く、薬物による調整が必要と事前に話しただろう。起きたばっかでボケているのか知らんが今は作戦後の身体を調べている最中だ。おとなしくしていろ」
こちらを見ながらそう言うとセレナは再びタブレットに目を向け、それに集中しはじめると、部屋は自分を治療する機械音とセレナがタブレットの画面を擦る音だけに包まれた。
自分は身体中に感じる重く鈍い感覚を紛らわすように目を閉じ、そして思考を闇へと落としていく。
この作戦前に自分に何が起こったかを思い出しながら……。
だが人は過酷な環境に適応し、敵の目を欺くことを知り始めた。
このエネルギーは結晶から抽出、そして使用するときに汚染物質を出すことはなく、かつ他のものよりも高いエネルギーを出すことができた。
まさに救世主的存在であるそのエネルギーを人々は栄光の神にあやかって【クレイアエネルギー】と名付けた。
だがクレイアエネルギーを他のエネルギー並みに多く出しても
これによりクレイアエネルギーをコロニーの外壁に纏わせることで、エネルギーの供給が止まらない限り、敵の目を欺くことに成功した。
人類は次の襲来まで繁栄と反撃のチャンスを掴んだのだ。
この技術革新により前時代よりも急速に生活圏を広げていくうちに前文明が遺した記録媒体【ロスト・アーカイブ】の発掘、解読に手を出すほどほどの余裕が出てくるようになっていった。
ロスト・アーカイブの内容が何であれ、それは貴重な内容に変わりなく、人類が
これによりクレイアエネルギーとロスト・アーカイブの確保は人類にとって最優先になり、自分はロスト・アーカイブを非合法で汚染された大地から探す【スカベンジャー】として生計を立てていた。
本来ならばこれらの仕事は企業側の手厚い保護の元で安全に行われるものなのだがコロニーの貧民街で育った自分には余裕はなく、生きるためには身を削る必要があったのだ。
ロスト・アーカイブは内容がどうであれそれは一攫千金であり、さらに"当たり"を引けば貧民街で過ごす者としては当分何もしなくても生活に困ることはない。
地道だが確実に収入を得られるクレイアエネルギー発掘という道もあったが、それは企業に過酷な環境で飼い殺しされるに近かった。
企業に一生を捧げて死ぬほどこき使われるよりは一発当てたほうがマシだと自分はそう思ったのだ。
「おい、そろそろ目標ポイントだ」
防護服で包まれた四人の男たちが型落ちした作業用WFを操作して、空中に舞う黒い塵と曇り空によって薄暗くなった大地を走り続ける。
そこはコロニーから遠く離れた場所に位置しており、コロニー内では周辺の調査、そして除染作業が行われるまで危険地帯として警告されている場所であった。
「本当にここにあんのかよ?」
目標ポイントに到達した四人の男たちの一人の男が大きな声で問いかける。
そこは崖のような場所になっており下には穴がぽっかり広くと開いた場所であった。見た感じだと本当にこの場所にロスト・アーカイブがあるというのは信じられなかった。
「俺の情報が嘘っていうのか?じゃあもし見つかったらてめぇの取り分はなしでいいんだな?」
「……悪かったよ勘弁してくれ」
――うーし、さっさとやるぞー。
一人のリーダー的な男の声をきっかけにして四人が崖下に降り始め、それぞれの作業をし始める。
「行きと帰りの分で時間はあまりねぇ。長くて四~五時間で見つからなきゃ一旦撤退するぞ」
「おいお前!こっちにきて手伝え!」
自分は他の男たちの作業をサポートするように動き回る。
黒い塵が舞い飛ぶ中、掘り進めるWF鈍い作業音が辺りに広がる。
大体四時間ぐらい経っただろうか。
疲労と体温による防護服内の蒸し暑さで体力が持っていかれる中、一人の男が叫び始める。
「おい!なんか見えてきたぞ!」
その声を聞いて三人がそこに近寄り始める。
すると掘った土の中から何か金属的な物が見えてきた。
「これは掘り起こしたら当たりじゃねぇか……?」
「まじかよ!ここまでやっといてこれ掘らなかったら損じゃねーか」
「だがここにいる時間を作業時間で大きく使っちまった……。ここは一旦引いて後で掘り起こすのはどうだ?」
「は?ビビってんのかおめぇ。ここで掘らなかったら他の奴にこれを見つけられて取られでもしたらどーするんだよ」
「び、ビビってるわけじゃねぇよ!だが物事は安全も大事だってことを言ってんだよ」
「それがビビってるってことじゃねーか。スカベンジャーの仕事はするくせに肝がちいせぇな。嫌ならママの乳吸いに帰りな」
「うるせぇな!やればいいんだろやれば!!」
三人の男が作業を継続するかどうするか揉めたあと、自分は彼らの作業のサポートをし続けた。
土を掘り返しているとやがて一つの金属の箱らしきものが浮かび上がってきた。
推定約三十メートルほどの土塗れで外側が茶色く濁っておりそれが何かを判別するのはこの場では不可能だった。
「ヒュウ!やっぱ当たりじゃねーか!俺のこと信じろってよ!」
「よくわかんねぇ箱みたいなもんだが……中身がわからなくてもこれ売りつければ本当に金になんのか?」
「あぁ?俺らにこの価値なんてわかるわけねぇだろ。あっちが高く買い取ってくれるならそれでいいんだよ」
「今のこのWFじゃこれを運ぶのは不可能だ。機体を変えて戻ってくる前にカモフラージュを施しておこう。そうすれば通りかかった同業者にすぐにバレることはないはずだ。とりあえず早く周りの土をどかしてさっさとここから去ろうぜ」
お宝を見つけたような高揚感に浸りながら三人の男は笑いながらその金属の箱の周りにある掘り起こした土をどかし始める。
ビィィッ!!ビィィッ!!
その直後、四人の乗っているWFから鋭い警告音が鳴り響いた。
四人はその警告音を聞いて周辺を見渡す。
「やべぇぞ
一人の男がすぐ近くにあった岩影に身を隠す。
もう一人、そして自分も被らないようにできる限り遠い別々の岩影に素早く身を隠した。
「え……?え……??」
その場に取り残された一人の男が突然の出来事に対応できずにオロオロとしていた。
やがて警告音が鳴り響く大地の上から雨のように何かが落ちてくる。
「うわ……うわぁぁぁあああ!!」
取り残された男は夥しいほどの数で落ちてくる
大量に地面に投下されていく
「うわぁ!くるなぁ!」
その叫びを聞いて自分は少しだけ顔を覗かせると最初に警告した男が近くの岩影に飛び散った
男がWFに乗り込み、護身用として装備されたWF用のハンドガンを手に取り迫ってくる
ドン、ドンと重い音と共に
「だからやべぇって言ったんだよ!」
最後の一人が緊張に耐えられずに岩影から飛び出し、
その様子に気が付いたのか二人目を磨り潰した
ほんの少しの時間だけで周囲は血の海になり、取り残された自分は岩影に息を潜めてその様子を伺っていた。
防護服からでも感じ取れる血と金属の臭いによって少しでも気を緩めると胃袋の中が漏れ出てきそうだった。
周囲をゆっくりと漂い浮かぶ
自分が隠れている岩陰の近くに放棄されたWFの電源は切っているが排熱の影響なのか、それとも別の理由なのかはわからないがともかくこちらのほうへと向かっているのだ。
「――!!」
意を決して自分はWFへと走って乗り込み、素早く電源を付け、岩影から勢いよく飛び出す。
ここに居てもただ静かに死ぬだけだと感じ取った自分は何かを求めて外に出たのだ。
WFの機動音によって
自分は出来る限り速度を上げて先ほどの掘り起こされた土塗れの金属の箱のほうへと走り向かっていく。
途中追い付かれそうになり、自分は乗っているWFから勢いよく飛び降りた。
寸前で
やがて土塗れの金属の箱に近づくと、その付近でどこかに身を隠す場所を探す。
死が間近に迫っている恐怖によって必死に金属の箱を摩ったり、叩いたりしてなんとか開けようとした。
するとそれが功を奏したのか、自分の目の前の箱の外側がゆっくりと開き始める。
中は暗く空洞になっていたが、背後には
「――!!」
金属の箱の中に飛び入ると、外側が閉じ外から
中でボロボロになった防護服を脱ぎ捨てて自分は暗い内部を手探りで調べていくと、何かのスイッチを押したのか起動音が鳴り響き辺りが光りが灯り始める。
その光によってこの中が何なのか解り始めてきた。
箱の中はTAが保管されていたのだ。
だがTAの周りを見ても武器はなく装甲もない、所謂"裸"の状態であった。
ドォン!!
外の衝撃はより強くなり、この機体を覆っている金属の箱も時間の問題なのは目に見えていた。
自分は貧民街に居た時に見たTAの記憶を思い出しながらうろ覚えでハッチを探る。
背中に昇って手探りで探しているとそのハッチを見つけることができた。
自分はコックピット内に入り、席に座る。
中には指を嵌めるハンドルが左右にあり、それに指を通す。
指を通した瞬間、指先から電流が走り痛みによる反射で目を少し瞑ってしまい、すぐに目を開けるとの目の前の画面に文字が表示された。
『Are you killing A ?』
この表示された物騒な言葉の意味はわからないが何かのコード入力なのだろうか。
だが外は衝撃で今にも金属の箱が破壊されそうだ。
考える暇もない。だがコード入力がなんなのかはわからない。
だが衝動的に思ったことを自分は叫んだ。
―動け と。
『――認証完了。これより貴方の生体データを保管します』
機械的な音声が響き渡ると頭上からヘルメット降りてきて頭を覆い尽くす。
同時にハンドルから先ほど感じた電流のような鋭い痛みが指先から断続的に流れてくる。
「―――!!」
ヘルメットが覆いかぶさると頭の中がかき回されるような感覚に陥り、そして終わりが見えないような苦痛を味わい続けることになった。
『認証保管完了。これより戦術支援システム【エティータ】の起動を行います』
終わることのないような苦痛から今度はコックピット席の頸椎の部分に何か突起物が盛り上がる。
背中の盛り上がっている部分に少し不快な気分になるので自分は身体を前に倒すように画面に顔を近づけることにした。
やがて機体がゆっくりと動き始める。
動き始めた機体に自分は驚いたが、どうやら自分のこの機体の動かしたいことを思考すると多少のタイムラグを経由して動いているようだった。
ドォン!!ドオォン!!
外の衝撃がより強くなるのを見て、この金属の箱がもたないことを感じ始めた。
外に出なければいけない。そう思ったとき、上を見上げるとコックピットの画面が頭上を覆っている金属の箱の部分を表示させる。
『ESCAPE』
画面にそう表示された意味を自分は直感で理解した。
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