第4話 寺町から甲賀伊賀
京都市のど真ん中、京都市役所の西側の道、言わずと知れた寺町通りである。
河原町通りと御池通りの交差点から御池通りと寺町通りの交差点までが、京都市役所。
御池と寺町の交差点から南側にはアーケード商店街が四条通りまで続く三条通りで少しだけ途切れるが、京都市最大の繁華街。
寺町通りは、寺町京極と呼ばれてすぐ東に並走する新京極と並んで京都市最大の繁華街を構成する。
この寺町アーケードの御池通りから三条通りの間を行ったり来たりしながら掃除をしている冴えない三十路男がいる。
寺町御池下がるという住所表記に当たる地にある大きなお寺の寺男として働くオッサン。
みすぼらしく薄汚れた作務衣のズボンにランニングシャツの肌着も薄汚れたままである。
ところが、この男。
動きにムダも卒もない。
見事な足さばきで、掃除をしている。
たしかに、道路はどんどんピカピカになっていくのだが。
誰も気がつかない。
このオッサンが所属する大きなお寺。
なんと本能寺である。
そう。
明智光秀によって織田信長が討たれた、本能寺の変の、あの本能寺。
ただ、現在の本能寺は、明智光秀が襲撃した本能寺とは所在地が違う。
本能寺の変で焼け落ちてしまった本能寺の伽藍。
豊臣秀吉によって移転再興された本能寺である。
そしてこの寺男。
どう見てもただ者ではない。
当然である。
この寺男。
名前を服部半蔵という。
伊賀忍者の棟梁、服部半蔵の18代目である。
現代も皇居に残る半蔵門の名前の由来となった由緒正しい名前である。
本能寺の変の時、大阪で大阪本願寺に向き合っていた徳川家康が当時の領地、三河に帰る矛先案内人を務めた功績をどれほど家康が感謝していたのかがわかる逸話である。
半蔵の周りで騒ぎたてる子供達が数人。
半蔵が掃除を終えると、子供達が鬼ごっこを始めた。
鬼は、服部半蔵。
そう、子供達は半蔵を待っていたのである。
途中、横道から吹き込んだ風に運ばれて紙屑が数個。
その紙屑が爆発して子供達の中の1人があっという間に姿を消した。
アーケードの上に飛び上がっただけのことだが。
ところが、アーケードの高さは5メートルほどある。
普通の幼児には飛び上がれるものではない。
普通の、どころか大人でも無理であろう。
伊賀の忍者が使う微塵隠れという忍術であるが、この小僧、3歳になって間もない。
もちろん、さまざまな抜け落ちがあり、半蔵にはバレバレ。
半蔵も軽々とアーケードの上に飛び上がった。
『慎之介、よくできるようになったがまだまだ隠れていないぞ。』
この小僧、霧隠慎之介。
服部半蔵の息子である。
この時は、まだ慎之介自身テレポテーションを使えることは知らなかった。
瞬間移動ができれば、微塵隠れなどという派手な技は必要ない。
慎之介は、かまわず三条の隙間を飛び越えて、四条方面に逃げた。
寺町と錦市場の交差点のアーケードに女の子が慎之介を待っていた。
『慎ちゃん、
遅かったやん。』
『ごめん雅。
今日は、なぜかしつこいおっ
さんが。』
『しつこいおっさんって、
何ていうことを。
おじさん、久し振りです。』
『これは、望月様のお姫様。
ご機嫌うるわしゅう。
慎之介の遊び相手をしていた
だいているのですか。』
甲賀望月家のお姫様で雅という。
甲賀忍者は16の家に分かれて、郷士として地域の領主でもあった。
慎之介と雅は同じ年の幼なじみになり、よくいっしょに遊んでいる。
遊びの中で、忍術も取り入れて切磋琢磨しているらしい。
どこの一族でも、タイミングの悪い奴はいるもので。
『姫、危ないでしょう。
下りて下さい。』
望月家の家来の男がのそのそ現れた。
半蔵の意識が、ほんの一瞬雅と慎之介から離れた。
その瞬間、雅が慎ちゃんと叫び。
慎之介が手を伸ばした。
雅が慎之介のそばに飛び、慎之介と手を結んだ、その瞬間、2人は空中にかき消した。
まさに、吸い込まれた。
慎之介が、最近使い方を覚え始めた術である。
もちろん、忍術ではない。
テレポテーションである。
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