第3話 結果的に
俊寛僧都の怨霊、しばらくして瀬戸内海の村上水軍にとり憑いた。
もとより、村上源氏の俊寛。
村上源氏の水軍にはとり憑き易かったのかもしれない。
自らの子孫である村上水軍にとり憑いたことで、居心地がよくなってしまったのかもしれない。
何はともあれ、京都は数百年に渡り、助かったことに。
早良親王に続き、菅原道真、平将門と怨霊に苦しまされてきた京都は、陰陽師に守られてはいたものの、あまりに数が多いと、さしもの陰陽師でも、手が足りない。
そう、安部清明の時代より少し後のことで、清明のような強大な陰陽師がいなかったのだが、それでも、各社寺仏閣の結界は、しっかり効いていた。
しかし、俊寛僧都ほどの者ならば、たやすく結界を破ることはできたはずである。
俊寛僧都、元々真言宗の僧侶で、しかも、上から数えて4番目という高位の位に就いていた。
高々、寺領程度の結界なら、難なくくぐり抜けられる法力を持っていてもおかしくない。
しかし、俊寛は帰らなかった。
鬼界ヶ島や途上の海上に、よほどの何かを見付けたに他ならない。
しかし、江戸から明治になって大正・昭和・平成・令和と、時代が進んで、もはや、怨霊が太刀打ちできることはなくなった。
海賊働きに手を貸そうにも、木造船など、よほど小さなボートしかない。
結果的に俊寛は、時代遅れになってしまった。
しかし、なぜそんな時代になってから帰京して何をやろうとしているのか。
安部清明の血をひき、陰陽師の技を使いこなす者が現れた。
このことは、怨霊には見逃せない。
ただ、清明から数えて28代の子孫、まだまだ赤子である。
怨霊が恐れる必要のない存在。
ここでもタイミングの悪い俊寛。
仕方なく、自身の若い頃を取り戻すように鹿ヶ谷から錦林車庫銀閣寺交差点辺りをうろうろするようになった。
俊寛の悪いところは、すぐに他のことに熱中してしまう。
ここでも俊寛、赤子のことを忘れてしまった。
数年して、赤子から俊寛に伝達があった。
僧都様とは、闘いたくない。旨の懇願に近いもの。
もちろん、直接話しをするはずはなく、手紙がきたわけでもない。
霧隠慎之介、この時まだ3歳。
俊寛は、この時はじめて、ことの重大さに気がついた。
3歳で、テレパシーを使いこなす幼児。
強大な超能力者であることは間違いがない。
『和尚様。
俺は、霧隠慎之介と申します。
安部清明の28代目の子孫に
なります。
お気付きと思いますが、霧隠
という名前である以上、忍者
の血統でもあります。
伊賀の服部の血をひいており
ます。』
『それがどうだと言うのだ。』
俊寛、かなり的はずれになっている。
伊賀の服部ということは、真言宗宗徒である。
真言宗の高僧である俊寛僧都とは闘いたくないのが当たり前と思われた。
『俺は、毎朝真言を唱えて1日
をはじめております。
かなりの宗徒であると自負し
ております。
やはり、真言宗の高僧であら
れる和尚様とは闘いたくあり
ません。』
慎之介としては、俊寛が鬼界ヶ島に帰ることを選んでくれることを希望している。
ここでは、慎之介が俊寛を甘く見過ぎている。
慎之介は、真言宗以外の陰陽師が俊寛と闘い、勝ってくれると希望している。
ところが、俊寛の怨霊力、それほど低くなかった。
結果的には、後に闘うことになる
のだが、この時はまだお互いにそんなことは知るよしもない。
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