第109話 ブランカ、トージン先生の見解

「そもそも、ゲイル博士って何者なんです?」

「ああ、そうか。お前たちには、そこから話さんといかんか」

「お願いします」


 兄弟は、討伐隊に呼ばれ、どんな人物とかかわってこのようなことになったのか。


「だめ!」


 出し抜けにペコちゃんが飛び込んできた。


「どうしたの?」

「ながくなる!」


 昨夜のような展開を気にしているらしい。


「また、ぜんいんねてしまう!」


 ほかの魔法生物たちも、同じように騒ぎだした。


「ながくなる! ながくなる!」

「こら!」


 一喝されて、静かになった。


「長くなる。先生、お知り合いなの? ゲイル博士と?」

「わし、あいつ嫌いなんだよな」


 三人は凍りつく。

















「だめ! だめ!」


 ペコちゃんが勇敢にもトージン師を抑えた。
















「まあ。その話は別にするが」


 トージン師は賢明な選択をした。


 三人は胸をなでおろした。


「ゲイル博士には謎が多いとしか聞いてないわ」

「そりゃあそうだ。昔から極端な秘密主義でな。身内だけでいつの間にか成果を上げるんだ」


 研究の内容いかんでは、それも仕方ないんだろうなあ、と、ダンは思ったのだ。

 この、いつどのような異世界とつながるのか、油断できない世界では。〈赤の竜〉はクギバネを放ち、常に聞き耳を立てているのであるし。


「とにかく身内相手と外の相手で態度が変わってな。わしは昔から気に食わんのよ」

「トージン先生、お腹の中で思ってることも外で話すことも同じだもんねえ」


 それはそれで困ったことでもあり、学者というものは面倒なものだとトーガは思った。

 そして、サヤがなぜトージン師とうまくやってゆけるのかもわかった気がした。彼女も心に思ったことしかできない。


「白い蝶の話が広まった時、ブランカと聞いて思い浮かんだのも奴の名だ。どうせ、あ奴のやらかしたことがらみだろうとな」


 すぐ名前が浮かぶほど意識してるんだ。三人は思った。


「ゲイル博士は、どういう方面のご研究をされているんですか?」


 おそるおそる、ダンが尋ねてみる。


「む?」


 いちいちハラハラさせられるのが困る。


「なんのことはない。からくりだよ」

「からくり」

「機械人形の鳥に手紙を運ばせてみたり、猫の機械人形に給仕をさせてみたりな。まるで実用化されていないのにな、なぜか金を出す金持ちが後をたたん。どんな口車に乗せてのことだか、油断ならん」


 実用化されていないのに資金繰りが順調。

 何か大きな目標があるのだろうか。そのあたりが極秘で、不透明に見えるので、こうしたやっかみを招いているのだな。三人はこれでも少しは賢明なのところがあるので、サヤでさえそれだけは口にしなかった。


「この絵刷り新聞に肖像がある」


 謎の人物なのに、肖像があるとは。


「なあに。花見客のひとりとして描かれているのだよ。知らん者が見ても、ご当人とはわからん」


 なるほど。

 何年か前の、紫の霧に包まれつつも白いポンポンマリーの花見でにぎわう名所、シロノ公園だ。


「この、とぼけたかぎ鼻の男だよ。目を閉じているだろう」


 なんだか様子がおかしい。


「立ったまま寝ているな、これは」


 花見中に立ったまま寝る。

 まわりにいる人間三人に支えられながら。


「ん?」


 トーガ、その三人が気になる。


「似てないか?」

「そうだな……」

「あら? 兄さん?」


 丸い眼鏡のバン。

 角刈りにドングリまなこのカネダ。

 陽気そうな束ね髪のトルソ。


「似ているけど」

「だとすれば、ずいぶん前から博士とご縁があったということかしら?」

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