第108話 〈赤の竜〉のおそれ、トージン先生の推測
「本当にお前たち、知らんのか?」
優秀な兄弟の陰に隠れて、好きな暮らしをしてきた三人は、どうもまずいかんじらしいぞ、と、顔を見合わせた。
「私、消防団でほとんど実家に戻ってなかったし」
「俺も、呼ばれて直しに行く仕事だから」
「魔道具の買付で旅をしていて」
家業はどこまでも任せきりなのだ。
「お兄ちゃん、そういえば防火布に興味持ってたけど、私が消防団だから興味がわいたのかと思ってた。それから討伐隊に呼ばれたのも、その方面の関係だとばかり。この生地見本、はじめて見たわ」
「お前たちは、よほど家業から離されていたと見える」
「出来の悪さはだてじゃないですよ」
「ねえ」
あはは、と笑う三人にトージン師、ぴしりと言った。
「だが、魔法具を支度しここまで追跡してきたのは他でもないお前たちだけだろう」
「……」
「出来は関係ない」
おかみさんから茶が出された。
四人はそれを持って、トージン師の離れへ向かった。
* *
「おはよう!」
「サヤ、ダン、トーガ、おはよう!」
魔法生物たちが出迎える。
「おはよう」
ベニトラネコのペコたちが掃除をしていたらしく、すべての足にモップを履いていた。
「今、終わったところだよ。大切なおはなしの続きがあるよね?」
「ねえ、みんな。私たちをゆうべ部屋まで運んでくれた? ありがとうね」
「へいきだよ!」
「ありがとう」
「ありがとう」
ダンとトーガも礼を言って、
「君たちは、朝めしすんだのかい?」
「食べたよ! おかみさんのこさえた揚げ団子最高!」
「食べたよ! おかみさんのこさえたお粥も最高!」
「こら、やかましい!」
トージン師にまた叱られたのだった。
* *
「この生地見本は、我々の仕事に大いに関係がある」
トージン師の話がはじまる。
「表立っては普通の生地としてあつかわれているのだが、実は魔法生物に接近する時の防護服に用いるものなのだ。魔力の加護はないが、それは使用者のそれぞれの判断で後づけするということでな。何より〈赤の竜〉の目をあざむくため、普通の生地の顔で取引されている。なので、お前たちのみならず、おそらくほかの家族も何も知らないはずだ」
そこまでの極秘事項なのか。
「この生地こそ、魔法生物の未知の鱗粉、炎、植物なら花粉、浸出液、それらから身を守る防護服に最適の代物なのだ。神殿でも用いられているぞ」
三人は、本当に知らなかった。
そして、おそらくその秘密も兄弟の姿が見えなくなったこととつながるのだろうとの予感に身ぶるいした。討伐隊には、ただの技術協力としてそれぞれ呼ばれていただけではないとにらんではいたが、やはり思った以上の秘密がありそうだ。
「トルソさんの仕事がそうだとなると、俺の弟やダンの兄さんも」
おそらくは。
「わしが存じておるのは、この生地のことのみであるが、バン、カネダと言えば、彼らに仕事を任せたいと希望している、討伐隊どころではない者たちの噂があってな」
「ゲイル博士ですか?」
トーガの問いに、トージン師はうなずいた。
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