第107話 消えた三人、トージン先生の知見
翌朝。
ダン、トーガ、サヤの三人は宿の柔らかな寝床でそれぞれ目を覚ました。
「あれ」
ダンはしばし考え込む。
「あっ。ゆうべは全然話が進まなかった、ってことだな?」
思い出してみよう。
見てもらったところ、魔法具の網が使えることがわかったので、目的のひとつは済んだのだ。
だが、それで話は終わらなかった。見落としていたことが明らかになり、新たな装備についてさらに相談が必要になったのだ。
「そこから先を覚えていないな」
頭をかいていると、トーガ、つづいて衝立の仕切りの向こうでサヤも起き出した。
「朝めし、何時だったかな?」
「もう始まってる!」
あわただしく三人が動き出す。面倒な話はあとだ。
「馬の様子見てから行くね」
サヤが駆けていく。
* *
「おはよう。ハナ垂れども」
「おはようございます、トージン先生」
ダンとトーガが挨拶したころ、サヤもすべりこんできた。
「おはようございます」
食堂は、静かだった。
みな、それぞれの卓で食事をし、朝の神殿からの通知や今日の風向きについて話などしている。
霧は薄いようだ。晴れるかもしれない。
「話の続きがあるだろう。その前に腹をこしらえておけ」
燻製肉の薄切りを鳥の玉子でとじて焼いたものに、香草のかおりがきいた腸詰めをゆでたものが添えられ、数種の雑穀の粥と熱い茶が出た。
「おいしいわあ」
「おはよう。昨夜のウサギのお礼だよ」
おかみさんが揚げたての丸い菓子をくれた。粉砂糖がまぶしてある。
「ありがとう。揚げ菓子大好き」
朝から、こってりしてるなあ、と、ダンが目を大きくしている。
「魔力のある蝶を捕まえるために、網以外の必要なものも、集めなきゃいけないのねえ」
サヤはもう、三つ目を頬張っている。
「朝からよく食えるなあ」
「あら。消防団では少食のほうだわ」
「お前たちが白い蝶を捕らえてくれば、こちらとしても助かるからなあ」
トージン師、茶は二杯目だ。
「魔法の蝶に対する時は、鱗粉対策が必要になるのだよ。魔力のある布でなくてもいい。織り目の細かい、丈夫なものだな」
言いながら、隠しからポン、と何か取り出して卓の上に置く。
生地見本のようだ。
「あれ?」
サヤがその表紙に気付く。
「うちの店の商標があるよ?」
「うちの店だと?」
トージン師も、妙な声が出る。
「ハナ垂れ娘、お前の実家の店とは? 仕立屋と聞いたが?」
「仕立屋なのだけれど、そうか、生地のお店と何か協力したのね、お兄ちゃん」
「お兄ちゃん。
そうか。白の蝶の件で消えたお前の兄とは、トルソ氏のことか! それは一大事だ」
サヤもダンもトーガも、きょとんとしている。
「念のため聞こう。お前たちのいなくなった兄弟の名は?」
トーガが弟の名を。
「バン」
時計屋と機械からくりはこの弟に任せていた。
続けてダンが兄の名を。
「カネダ」
鉄の加工では若くして名工とされている兄だ。
「バンとカネダだと? やはりそうか」
きょとんとした顔が、三人並んでいる。
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