第104話 トージン先生の住まいに招かれたのだが
サヤとトージン先生のやり取りも、やがて落ち着いた。
「そうかそうか。サヤ、でかした」
いつの間にかトーガとダンも、トージン師とサヤの同じ卓につき、湯気の立つウサギ料理を味わっていた。
ヤマナキウサギはおかみさんの予告通り煮込みとなった。穀物の粉を捏ねて平たくひとくち大に伸ばし、つるりと茹で上がったものが添えられていた。
「でかした」
「えへへへ」
「そちらの若いのは?」
「サヤの幼なじみです」
「同じく」
「三人旅か。その汚れたなりでは物見遊山ではなさそうだな」
何とか師弟の再会は滞りなく果たせた。
だが、目的はそれだけではない。
食後の甘味と茶で、すっかり人心地がついた頃に、サヤはあらためて切り出した。
「先生。実は今日は、お願いしたいことがあって伺いました」
「なに。ハナ垂れ娘がかしこまって」
「ブランカの件なんです」
神妙な様子のサヤに、トージン師はそこでどう応じたか。
「うわあ!」
そんな状況の時に、しかも食事中だというのに、ダンは大声を出すのを止められなかった。
「イトマキトカゲ?」
「こいつらが、先ほど教えに来てな。あやしい三人の馬車がガランスに入ろうとしているとな」
イトマキトカゲの一匹が、ダンのまぶたにしがみついている。
「そうだったの。あやしく思われたのは、参ったわね。それにしてもこの子、よっぽどその場所、気に入ったのね」
「ブランカの件でか」
トージン師は腕組みした。
「となれば、ここでの話は憚られるのではないかな?」
* *
三人はトージン師が逗留している離れの特別室に向かっている。宿の中庭にあるここに、もう数年住まっているそうだ。
(ご存知なのかもしれない)
〈ブランカ〉のひと言で、何事かが通じていた。人目を憚るということまで。
(ブランカの事情や、あるいは蝶についてのことか)
蝶については、類似の魔法生物についての知識を得られるのではという期待があったが、さて。
「入りたまえ」
小さな部屋の中には。
「先生、おかえりなさい」
「おかえりなさい」
出迎えの声があちこちから。
「……ベニトラネコ、マダラハネネズミ、ムラサキオオコウモリ」
魔法生物が同居していたようだ。
「ただいま。薄汚い三人が来たが、気にするな」
「サヤだね?」
ベニトラネコが飛び付いてきたので、思わず抱き止める。
「あなた、ペコちゃん?」
「そう!」
「ヴィドーでは子猫だったのに、すっかり大人ねえ!」
「サヤだ!」
ペコちゃんの行動を合図に、あちこちから何かがサヤに向かって飛んでいく。
「サヤだ!」
「みんな、大きくなって。見違えちゃってごめんね?」
「ヴィドーの火災で拾ってきた、魔法生物のみなしごたちだよ」
トージン師の言葉を、トーガとダンは静かに聞いていた。
「みんなで食べ物をあつめて、炊き出ししたんだよ!」
ペコちゃんが誇らしげに言うのだが、あの災害を思い返すと、さすがの二人も、
「そうかい。サヤといっしょにいてくれて、ありがとうな」
「俺たちは、サヤの幼なじみの、こっちがダンで、俺はトーガだよ」
自己紹介の調子がいくぶんしんみりとする。
「ダンとトーガ! ダンとトーガ!」
「うるさい!」
ついにトージン師が一喝した。
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