第99話 「ところでブランカでは、いま」

 と、ガランスを目指す三人の話はいったん置いて、ブランカの研究所である。


   * *


「ところで〈救い手〉殿?」


〈機械の竜〉がどうやら灯油でも動くらしいことがわかって数日。博士が唐突に話しかけて来た。


「なにか?」


 俺はロディの算数の勉強を見ていたところだった。

 ここは異世界のはずなんだが、足し算引き算の記号がまるで俺が元居た現実世界と同じなのはなんなの。


「ガランスをご存知か」

「ガランス?」


 ご存知も何も、俺は〈白の地〉に来たばかりだぞ。


「この地において、魔法生物が多く生息する地域として高名でね」


 魔法生物?

 竜だけじゃ足りないのか、この世界は。


「どんな生き物がいるんですか?」


 すると博士はすらすらと、様々な生き物の話をしてくれた。

 丸いボールみたいな、薬種にされる生き物とか。他の動物の体温が好物のトカゲとか。桃色のわたあめみたいな知恵のある生き物とか。


「そこに、ギンイロアカメドリという鳥がいてね」


 その鳥。見たまんまのネーミングであるだろうということしか俺にはわからない。


「近年、濃い紫の霧の中にあっても視界がそのままらしいということが判明して、注目されているわけだが」

「へえ」


 どんな仕組みの目なのだ。


「魔法生物なので、我々の技術では再現不可能な部分があり残念なのだが、機械の竜の目の部分は一部その性能を持たせたつもりだよ」

「まって、博士」


 俺は、小さなことだが引っかかった。


「機械の竜って、機械だよね」

「さよう」

「〈燃える水〉で動く」

「さよう」

「その〈目〉って、どういうこと。竜に乗り込む人間の視界が開けるのが助かるのはわかるけれど」

「ん?」


 博士は一瞬、話を分かりかねたようだ。


「〈救い手〉殿の世界には、機械の生き物がいない?」

「いえ、居るけれど」


 動きに自律性を持たせるものにはセンサーが付いて、他の障害物との衝突を避けるのだけれど、たしか。詳しくはわからない。花屋だからな。


「……あっ。

 そうか。はっはっはっ」


 博士、急に笑い出す。


「〈救い手〉殿。機械の竜は、単なる乗り物ではありませんぞ」

「というと?」

「〈燃える水〉の続く間は、独自にものを考え話し、御者に助言し、生身の竜とも思いを通ずる、ともに困難に立ち向かう機械の友ですぞ」

「……ああ! そうかあ」


 俺は機械の竜は戦闘機のようなものと理解していたが、どうも違うらしい。


「……てことは、機械生命体?」


 トモダチロボットと呼んでもいいのかもしれない。わからんけど。


「そうご理解いただいても構いません。

 ですから、名前を考えていただきたいのですよ」

「はい?」

「〈救い手〉殿の命名ともあれば、あの竜も起動した際には喜ぶことでしょう」


 なんだかまたよくわからなくなってきたのだが?


「………!」


 表で何か声がした。

 俺の理解でこの音に近いものといえば……

 怪鳥音?

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