第98話 「イトマキトカゲたちは」
ガランスへの途中の茂みにいた、イトマキトカゲたち。
「追いかけよう、追いかけよう」
「何者か調べよう、何者か調べよう」
「先生にはそれからだ、先生にはそれからだ」
〈先生〉とは。
とにかく彼らはすばしっこく、たちまち姿を隠してどこかへ行ってしまった。
* *
「で、どういう人なのよ」
肉に塩をし終えて満足げなサヤにトーガは尋ねた。
「トージン先生?
私に、〈白の地〉全地域の狩猟許可を取るよう勧めてくれた方よ」
「ほう」
仕事で世話になった人、というのはその通りのようだ。
「ササラさんの話だから、間違いなくいらっしゃるんだろうけど、急に行ったら驚くかなあ。へへ」
「うん。でもまあ魔法具を見てもらうっていう火急かつ大事な用件もあるし、突然の訪問も失礼にはならないかな。何とかなるだろう」
なんであれ、サヤになにか見込みがあると思わなければ、狩猟許可の取得を勧めたりはしないだろう。
それだけサヤのことを見てくれていた人物なら信頼できるのではないか。トーガはそう考えていた。
「お元気かなあ」
しかしこんな胸算用もあった。
魔法生物の専門家であれば、自分たちの追っているブランカの蝶の情報もなにか持っているのではないだろうか。平凡な衆生の知りえないところまで。それこそ、神殿が秘匿しているようなところまで。
「トージン先生、ウサギの料理がお好きでね」
「ああ、それで目ざとく仕留めたわけか」
「ううん、これは私たちの晩御飯」
調理場を使わせてもらえる素泊まりの宿か、持ち込みの食材を料理に使ってくれる宿か。
とはいえあの詐欺事件の印象も強く、あの町は油断できない面もあるに違いないのだった。
* *
イトマキトカゲたちの魔法生物らしい生態のひとつに、馬よりも早い脚がある。
「追いついたよ、追いついたよ」
「町までいくかな、町までいくかな」
「くっついていこう、くっついていこう」
三匹は話し合いの通り、こっそり馬車についていきながら、乗っている人間たちについて調べをつけようと考えていた。
「人間だ、人間だ」
「馬だ、馬だ」
しかし残りの二匹は、久しぶりに生き物の体温が味わえるということではしゃぎ出し、ぴょんぴょんと跳ねて、一匹は馬の尻尾にしがみついた。
「あぶない、あぶない」
「馬が怒るよ、馬が怒るよ」
幸い、馬は怒らなかった。
「あぶない、あぶない」
「気付かれるよ、気付かれるよ」
もう一匹は。
毛の帽子の歩きにくさに苦心しながら、ゆっくりゆっくり頭の上を登って行った。
「まぶた、まぶた」
目の周りから温かい気配がする。
もうひとつ、イトマキトカゲの魔法生物らしいところは、体温の高い動物から拝借した体温がエサとなるその食性である。
「あたたかい、あたたかい」
「……はっ?」
* *
「あ。ダンの悲鳴だ」
サヤが、雨でも降ったかしら、くらいの深刻さで言った。
「なんだ? 魔法生物か?」
「イトマキトカゲかもね」
「大丈夫か?」
「ダンの瞼で暖を取ろうとしてるだけよ。
あ、駄洒落になっちゃった。ははは」
サヤの知識は半分正しくて、半分正確ではないようだ。
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