第96話 「魔法生物とは」

「さっきねえ、ササラさんから聞いちゃったんだよね」


 ササラさんとは、先ほど果物屋にいた婦人の名前らしい。


「ここの救助に来てた仲間に、魔法生物の先生がいたんだよね。トージン先生っていうんだけど」

「ほう」

「災害後の生物保護と生態変化の調査で来てたんだけど、町の片付けも手伝ってくれて、いい人だったんだよね」

「その人が?」

「今、ガランスにいるんですって」


 それを聞かされた二人はそろって息をついて、


「ガランスに寄れってか? 予定変えてか?」

「魔法具見てもらえるのは助かるが」

「急がば回れって言うじゃない」


 魔法具である捕虫網が本当に真価を発揮するには、魔術の心得がある専門家の鑑定を受け、どの程度の能力を秘めているのか知っていたほうが安心だ。


「それに、実際の取り扱いにも慣れておく。それはやっておいたほうがよくない?」


 それはそうなのだ。


「蝶を捕らえて、どんな力があるのかを明らかにする。それが俺たちの兄弟を探す道だ」


 誰にも知らせずここまで来たのだが。

 誰かの力を借りるべき時が来たということか。


「じゃ、行こうか!」


 サヤが嬉しそうだ。

 それを見て二人は思った。


(魔法生物の先生って……)


 よく絵入り新聞に取り上げられる、男前美形魔導師みたいなやつだったらどうしよう。

 いや、サヤはそこまであからさまに男前にはしゃぐ方じゃない。むしろ……


(あんまり変な人じゃないといいなあ……)


 そんな心配を抱えながら、馬車はガランス方面へ向きを変える。


 魔法生物が多く生息する土地について、もと消防団の猟師は、どんな対策を持っているのか。


「これかぶってね」


 ダンは、いきなり帽子をかぶせられる。

 毛の糸で編んだ、目鼻と口あたりに穴があいている冬の被り物だ。


「暑いな!」

「私たちは、しばらく窓閉めるから」

「ちょっと待て! なんの対策だこれは」

「今の季節、確か〈イトマキトカゲ〉が飛び付いてくるから!」

「なんだそれ?」

「緑色で、ちっちゃいんだけど、肌を出してると集団で飛び付いてくるから取るのめんどくさいの。人肌の温度が好きみたい。

 毒はないけど、手には吸盤があるからね!」


 なるほど、この帽子なら吸盤は効かなそうだ。


「あとはガランスに着くまで大丈夫。この道は人間が通るから、魔法生物もわかってて避けてくれる。

 ……多分」

「多分、か」


 しかし、顔にひっついてくる生き物なら、魔法生物じゃなくてもいるのだが、そのイトマキトカゲとやらが〈魔法生物〉とされる理由はなんだろう?


「一匹現れると、瞬間五匹になる」

「え?」

「自在に分身するから、面倒なのよ。

 薬師は、わざわざ五匹に増やしてから要領よく捕獲するみたいだけど」


 さっさとガランスに到着したほうがよさそうだ。

 ダンは馬をほんの少し急がせた。

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