第94話 〈白の巫女〉の「神託」

「『その者ら、具足たずさえる武人のごとし』」


 詩のかたちで来る神託だと、ベルリオーカは身構えた。


「『はぐれし花、はぐれし蝶、』」


〈白の巫女〉の〈神託〉は続く。

 ここがやっかいなのだが、〈神託〉を伝え終え、正気にかえった〈白の巫女〉が何も覚えていないことがたまにある。特に詩としてあらわれるものにその傾向がある。

 ベルリオーカは自動筆記具を執務机から呼び出した。

 瑠璃色冠鳥るりいろかんむりちょうの羽の筆記具と、亜麻色葦あまいろあしの紙が〈白の巫女〉のそばに控え、綴り始める。


「『ひとりは捕らえ

 ひとりは悟り

 ひとりは打ち勝つ』」


(蝶の件にまつわること? だといいわねえ)


 ブランカの蝶について、ぱったりと報せが途絶えた。


「『太陽が寿ことほ

 月はうたう

 星が響き

 竜が舞う』」


 そこで〈白の巫女〉が膝から崩れ、ベルリオーカは駆け寄り介抱する。


「……書いてくれた?」


 気が付くなり、そんなことを言う。


「なんとか間に合ったわ」


 二人は来客用の卓について、〈神託〉をあらためる。


「魔法具の検証はどうなの?」

「少しだけ手ごたえがあったわ。とはいえ、まだはじめたばかりだから」

「その検証、この〈神託〉と関わりあるかしら」

「あ、そうだ」


〈乗り物〉が図の上をまだうろついていた。命じた内容を解く。


「小道具のひとつひとつを試しているところでね。

 その流れで今、いいことないかなあ、と思ってね、この小道具で探っていたの」

「占いみたいね」

「でも基本は観測の道具なので少し違うわ。

 今、漠然と注目すべき三人がヴィドーにいる、と示されたの」

「私の〈神託〉も。


『ひとりは捕らえ

 ひとりは悟り

 ひとりは打ち勝つ』。


 これ、三人、ということよね」


 その三人。


「この図から考えると、その三人はブランカに向っているんじゃないかと思うの。ヴィドーからこの方角はブランカのほかは森ばっかり」

「ブランカといったら、例の博士。そして、蝶の一件」


〈神託〉中にも、蝶が登場した。


「ブランカに向かう三人。

 目的はわからないけれど」

「いずれにせよ〈神託〉にも三人が示されている。

 同じ人たちを示していれば、話が早くて助かるんですけどね……

 イリヤ」


 イリヤを呼び〈白の地〉内で神託に沿った件が実際確認できるか情報収集をする調査室に、神託と魔法具検証の件を伝えるようにことづけた。


「あとで室長が来るでしょう」


 長い会議になるかもしれない。


   * *


「そろそろおやつは?」


 三尺たとうがめくれたと思えば、サヤが出てきた。


「その前に、どこまで来たの?」

「森からまだ出てないよ」

「霧は?」

「視界不良。でも、対向車が来たとして、見落とすほどじゃない」

「はい」


 小さな碗と匙を配られる。

 トトラの実と酪と砂糖を混ぜただけの菓子を、サヤは作っていたらしい。眠っていたのだと思っていたら。


「ありがとさん」


 馬車を停め、馬にも角砂糖をなめさせた。

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