第93話 誰も知らぬ間に

 ベルリオーカの検分している魔法具の外箱には〈人〇ゲーム〉と書かれているのだが、それは〈白の地〉に生きる者にはかかわりのないことである。


「〈富〉の札はいいみたい」


 では、〈負債〉の札は。


「あら」


〈管理所〉に集まった。


「衆生のために働く場所は、みんなそんなものよね」


 これは必要なところに足りない予算があることを示しているのかもしれず、あとで知らせを送ろうと考えた。


「これも試してみようかしら」


〈乗り物〉と〈人形〉。


「……何を試そう」


 現在、ヴィドーは火災からの復興がいまだ一番の課題だった。

 幸い、昨年つながった異世界の住人は共感性が高い人々が多く、かえって復興を手伝おうと協力的だったために衝突も少なかった。


「〈管理所〉のイヌダさん、ね」


 毛の長い白い犬で、ヴィドー復興に尽力されていると評判だ。元の世界では軍の災害対策長だったとか。


「こうしてどこも混沌期が穏やかに過ぎればいいのだけれど」


 そうもいかないのでこうして自分は働いている。

 話がそれた。


「そうだ。今、ヴィドーで注目すべき人はいるかしら。明るい話題として」


 質問は具体的な方がいいのだが、今はあくまで検分なので、その糸口としては問題ないだろう。なんとなく明るいことも考えたかった。

 ベルリオーカは〈乗り物〉と〈人形〉とを図の上にぱらり、と広げる。


「もしも、そんな人がいるならば、まず、その人数を」


 赤い〈乗り物〉がふわり、と宙に浮かび、〈人形〉が集まって来た。


「三人」


〈乗り物〉に〈人形〉が三体おさまり、その者たちは三名だとわかった。


「あら。頼もしいどなたかがいらっしゃるということ?」


 何か。

 何かがはじまっているようだ。


「では、この三名の方は今、なにをなさっているのかしら?」


 宙に浮いていた〈乗り物〉が、人形をのせたままくるくると回転をはじめた。


(時間がかかるわね)


 となると、それは隠密行動であることを示すことがある。


(軍の方かしら?)


 しかしそれならベルリオーカの耳に入るはず。

 見つめていると、やがて〈乗り物〉は図の上に降り、そのまま右往左往しはじめた。


「そうだ。忘れていたわ」


 このような時は〈進退を定める運命の輪〉を回す。


「どうかしら?」


〈乗り物〉が動き出した。


「あら」


 どうもヴィドーを抜け、どこかへ向かっているようだ。

 この方向は。


「……ブランカ?」


 そのとき、気配を感じて振り向くと。


「『その者らは……』」


 そこには〈白の巫女〉がいた。


 髪も、瞳もすべてが白く輝き、神託中の状態である。

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