第87話 ブランカに向かう人々
ブランカであやしい蝶が舞い、〈赤の竜〉討伐のため集った者たちが消えた。
消えた彼らの共通点は、機械の竜を開発しているゲイル博士の研究所にゆかりがあったこと。らしい。
消えた討伐隊員のうち、最初の犠牲者三人。
時計職人だったバン。
鍜治屋出身のカネダ。
仕立屋出身のトルソ。
「霧が濃いのか、ここは」
馬車はブランカを目指していた。
「何か出てこないの?」
「ああ。今のところはな」
〈白の地〉の都からブランカは馬車で二日ほどかかる。
「炭は足りるよな?」
クギバネ避けの炭を、四方に据えてある。この馬車の積み荷、〈赤の竜〉に知られるわけにはいかない。
「そりゃもう。
秘密厳守。これからブランカへ行くことすら誰にも伝えてないんだから」
そもそも、あの三人も秘密厳守だったはずだ。家族に何も知らされていなかった。
それが、あやしい蝶が現れてあのようなことになったのだ。
「〈赤の竜〉の意向がそこにないとは考えにくい。今はその段階だけど」
いずれにせよ、この馬車の積み荷とそれを守る三人も、最終的な目的が〈赤の竜〉討伐であることに変わりはないのだから、秘密主義の姿勢と入念なクギバネ対策。抜かりはないのだ。
「到着するまでに出くわすことがあれば、手間が省けていいんだけどなあ」
「それはそうなんだけど」
「あれから目撃されていないんだろうか。最近の消えた人間については、報告はないみたい」
〈白の地〉を発つ前に、神殿からの広報を見てきた。
「俺たちも、道中どうなるんだか。こんなに濃い霧、街中ではないよな」
この三人。
バンの兄、トーガ。
カネダの弟、ダン。
トルソの妹、サヤ。
消えた家族の探索をすべく、ブランカへ向かっているのだ。
「今日の夜営予定地まで、あと三里。明るいうちに行けそうだな」
「ガランダ鳥だ、ガランダ鳥だ!」
サヤが出発前に罠でとらえ、さばいたガランダ鳥の肉が二羽分ある。
「内臓までいけるのは、今日まで!」
鍋の中で、香草と塩にまぶされ、火にかけられるのを待っている。
「ほんとにいくつになっても食い気だなあ」
「夜営は、あたしがいると便利よ」
優秀な兄が仕立屋を継いだのをいいことに、早くから家を飛び出して消防団に入った。
「災害の多い土地にばっかり行ってたもんなあ……」
危険地域の活動は迷惑にならぬ程度にそこそこ、その場の全員が食いつなぐための手腕ばかりが磨かれて帰ってきた。
「でもさ、あんたたちも、たまたま身体あいてて助かったわ」
ダンは、兄が名工と呼ばれる鍛冶屋であるのをいいことに、自分は趣味の鋳掛けでの小遣い稼ぎに専念していた。
トーガは、弟が優秀な時計職人で、各種からくりを工夫すると名を高めているその陰で、趣味の古い魔法具集めの世界で知られる存在となった。
「よく、あったわよね、まさかトーガ兄さんの蔵に」
サヤが言えばダンが馭者台で手綱を操りながら、
「でさ、俺の腕で直せる程度の損傷でよかったよな」
それにトーガがこう返す。
「まあ、それで大昔に二束三文で買えたんだよ。
俺の目利きも大したもんだろ?」
「まったく、優秀な兄弟に頼りきってきた二流の三人にはふさわしいわね!」
そしてひとしきり、あははと笑い、
「だけど、こうして三人で出来ることが見つかったんだ」
「絶対に諦めないわよ……絶対、消えた三人を突き止めて……連れて帰るんだから!」
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