第86話 エルフさまの思案

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 神殿にベルリオーカがニヤとマルウスを連れてトトとともに戻り、それぞれの保護者に引き渡したそのあと。


「よかった」

「よかったわね」


〈白の巫女〉もこちらへ戻っていた。


「よくそれ、あったわね」


〈創造者〉の世界に。ただの玩具として転がっていた、ベルリオーカが長く求めていた魔法具。


「やっぱりわたし、依代を持って正解だったわ」


 依代は今回関係なかっただろうと思ったのだが、ベルリオーカはあえてもう何も言わない。


「クギバネに見つからないようにしないと」


 神殿より外では用いないようにすることだ。


「明日からこれで博士の仕事の進捗や各地の戦況を読むための調整を。なにせ言葉が違うし」

「そんなに便利なものなのね?」

「うまくいけば、ブランカで消えた人たちの消息もいくらか。

 こういうこともあるのね。〈創造者〉の世界では単なる玩具」


 上位の存在。こちらはその下。だから取るに足らない、との解釈はしないのが禁忌の継承者。


「となれば〈創造者〉の世界では、十分にその力を引き出せないまま打ち捨てられているものがそれと知られず放置されているということ?」

「そうねえ。この世界の創造だって、ほかの世界の創造だって、あの方々は〈スマホで執筆〉という余暇の仕事のようなのよ」


 そうした相違があるのは当然だろう。


「とにかく、この世界はまだ停止していない。〈赤の竜〉の生み出す混沌と安定がもたらす悲劇に私たちはまだ、立ち向かわなければいけない」

「まあ、今晩はもう休みなさいよ、エルフさま。朝からまた執務よ。ニヤもマルウスも学校のために眠ったわ」

「……そうするわ」


 イリヤが寝所の支度を整えたと知らせに来た。


「イリヤ。今宵は心配をかけました」

「いいえ。突然の出来事ですから」

「また朝に」

「はい。少しでもお休みください」


   * *


 ニヤは寝床の中で、今夜の出来事を思い返して眠れなかった。


(お絵描きができる)


 明日からのマルウスとの時間も楽しみだ。

 しかし。


(……王子さまってたいへんだ)


 もとの世界が戦乱の中なんて。自分の命や住む場所が、むずかしい話で決められて、とにかく果たさなければならない。王子だから。

 でも、ああして兄弟と話ができて、うらやましいとも思った。


(お父ちゃん。いえ、父は朝ごはん、何にするのかな)


 お手伝いをするので、ちゃんと寝なければ。

 ふわふわの綿毛がひとつふたつ、飛んでくる様子を思い浮かべ、みっつ、よっつ、数えているうちに眠ってしまった。


 夢の中でニヤは、野原で腰をおろし、マルウスとお互いの顔をスケッチブックに描いていた。

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