第77話 やっぱりなるようになるらしい。叔父さんの腹が決まる。
「この二軒の家の件から、〈救い手〉のもとの世界はこちらと似ているが異なる別世界のようだと、察せられたところでござるが」
グレンさんのひと言ひと言を、巫女さんとベルリオーカさんが逃さぬよう静かに聞き入っている。
「それでまた〈赤の竜〉に憑いた者どもの新たな計略に悩まされる可能性が浮かんできたと。
あいやお二方、顔を上げられよ」
二人とも言いつけ通りに向き直る。
「懸念されることが明らかになり、こちらとしては安心したでござる。
手数をかけたでござる」
「そんな。もったいなきお言葉」
ベルリオーカさんて真面目なんだなあ。
「〈白の地〉にての現在の動きは承知いたした。
〈赤の竜〉討伐は〈救い手〉殿の、明日からのお働きに委ねるとして。
ところでお二方、こちらの〈創造者〉スズカワ殿も泰然として待ち構えているだけではござらぬからにして」
なに?
「〈赤の竜〉に憑依した者どもにつき、糸口を探しておられるところでござる」
なんで知ってるのよ。突然神様にならないでよ驚く。
「なんと」
「当面は双方でこのまま進めてゆくことで、よいのではござらぬか。巫女殿。こちらにはタロキチと申す拙者の従者もおるゆえ、神殿の勤めに無理のなきよう今後はお願いしたいでござる」
「先ほどはお手を煩わせご無礼を」
ベルリオーカさんが、何をしでかしたのかという圧で巫女さんを見ている。
「まあまあ。俺のせいでもあるからそこは」
俺は。
こちらに戻ってきてから〈書き手〉として何をすればいいのかわからなくなっていたのだが。
この先自分の手加減ひとつで、目の前の〈ニヤ〉や〈王子〉、〈白の巫女〉や〈ベルリオーカ〉が不幸になるのだ。
しかし、展開上の必要があっても登場人物を不幸にできない書き手ってどうなのよ。そこでモヤモヤしていたのだ。読者がいるのだから。これは物語なんだよ。ものによっては何百人も人が死んだりするんだよ。
だがこれもわかった。少なくとも当面俺には〈白の地〉を止めない義務があるようだ。
ひょっとしたら〈赤の竜〉に憑いてる連中に先手を打つ方法も、それしかないのかもしれない。先に物語の流れを作るのだ。
ここから先は読者だけではなく、〈白の地〉にある彼らとも共に創っていくことになる。それがどういうことなのか、まったくわからないけれど。
「みんなで乗り切れたらと考えています。よろしくお願いします」
思わずそんな言葉が口に出た。
「なんともったいない〈創造者〉様」
ベルリオーカさんの前だからなのか、巫女さんまで平伏する。いつもの態度と違いすぎるんじゃねえかと思うが今は突っ込まない。
「さて、本日のところはここまででよいでござるかな?」
グレンさん、いつもの調子に戻る。
「ところでこの家は、何か助けになるものを受け取るために導かれて来る場所。
あのちびさんたちは〈白の地〉で生きるため、何を受け取りに来たでござるかな?」
あ、やっぱりそういうことになる?
「ニヤと王子。
そうだわ、どうしているかしら?
わたくしこの家に一度は参りたいと存じており、その通りこうして〈創造者〉様〈創作物の神〉様ともご対面を許され恐縮しておりますが。
そもそも本日は二人の保護者を渡りに船と買って出て、こちらへ参ったのがことのはじまりだったのです。
……そういえばイリヤに何も言わないで来てしまったわ……」
となると今あの子たち、どうしているのか。
「あら」
笑い声が聞こえてくる。
「ちょっと見て来る」
昭和部屋と化している、あそこだな。
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