第76話 「賢人会議」、その続き
「それで……」
麦茶を配ったのだが、ベルリオーカさんがまだ〈うやうやしく頂戴〉する姿勢でくるので、まどろっこしい。自分は後光出てるのに。
「いや、たいした飲み物ではないので」
「いえ、もったいのうございます」
「ベルリオーカ、堅すぎよ」
〈白の巫女〉は、くだけすぎなのではないか。
「わかっているんです。
〈創造者〉様がごく普通の、ただし〈創作物の神〉のご加護のある人間だということは」
「えっ」
「それが我々神殿にある者の禁忌とされる事実。決して明らかにしてはならない秘密なのです。
けれど、世界を創造されたという事実をそれで軽んじてよいとは思いません。貴方様のおかげで私達はこうしていられるのです」
「そんな」
なんと答えればいいのか。
ただの人間の気まぐれで創られた世界と存在。
そこを自覚しながら何の屈託もないベルリオーカを見て、かえって俺はめまいがしそうになった。
俺でよかったのか? 〈白の地〉へ召喚されてから、むしろずっとそれが俺の中にはあるんだが……
だって、俺たちの住む世界が実は近所のおっさんの妄想だったら普通どう思うよ?
「ベルリオーカ、ほんとに堅いわねえ」
いや、麦茶普通に飲んでる〈白の巫女〉も、どうなんだそれ。見たら足組んでるしくつろぎすぎ! 梨穂子本人かと思うだろ!
「このお茶も、おいしいわー」
「そうでござろう」
グレンさんがよくわからん上機嫌ぶり。
「こちらの世界を満喫するには、身体があったほうがよいでござる」
そして、そのグレンさんをベルリオーカさん、なるべく見ないようにしている。
神殿勤めって、そういう一線を守るのか? 俺は〈作者〉ではあるのだが、参考にしなければ。
いやいや、それよりもこれを尋ねないと。
「この家は〈白の地〉の誰かに必要なものを与えるためにそちらの世界につながることになった。こちらの世界での〈日曜日〉という名がついている、七日に一度の日」
「そう。ですから、こちらは〈日曜日〉という日なのですね」
ベルリオーカさん、何か〈日曜日〉を特別な日だと思ってないか。
「〈日曜日〉は。七日に一度の休日、と理解してもらって構わないんだけど、それはさておき。
巫女さんにも、グレンさんの従者のタロキチからも同じ報告をもらったところなんだ。この家は今、〈白の地〉の、ルールウ公国邸敷地内にあるんだね。
しかし数時間前、〈救い手〉のところにも似た家が出現したということで」
巫女さんとベルリオーカさんが顔を上げた。
「私どもは、こう考えておりました。〈救い手〉様がついに〈創造者〉様と直接相まみえたのかと。そこまで〈白の地〉の状況と、この〈創造者〉様の世界とが、油断ならない状況となったのか、と。
けれど、あれは別の家となれば。また別の意味で少し混乱しました。
というのも、先日〈赤の竜〉の霧が二つの世界を無理に重ね合わせるという事態がありました」
それもタロキチから聞いていた。
「〈救い手〉様と〈創造者〉様の世界は、あの似た家の様子から推測いたしますと、似ておられるのではないでしょうか」
似た世界。
「つまり、〈赤の竜〉に憑依した者どもが行うあの仕業の射程に入ったのではないか。
この懸念をこの〈白の巫女〉は、お伝えしたく参じたのです」
俺が至らないせいで体調を崩させてしまって話が途中になり悪かったけど、そんな心配をさせてしまっていたのか。
「巫女殿、ベルリオーカ殿」
グレンさんが話し出した途端、二人ともソファにかけたままではあるが頭を深く下げ、拝聴する体勢になった。
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