タロキチは散歩中だった

「あれ」


 コンビニ袋を下げた葦原が、思わぬ顔を見つけた。

 ビニール風呂敷に包まれた、大きな荷物を下げた栞さん。


「おはよう、葦原くん」

「おはよう、栞さん。

 試験対策、順調?」


 順調だったら、ちょっとだけ会おう。そういうことにしてはいたのだが。


「そんなに順調じゃないんだけど、お父さんが」


 栞さんの家は商店街のおにぎり屋さんである。赤飯や混ぜご飯がおいしい。


「いつも勉強会でお世話になっているでしょう、叔父さんと浩平くん、二人暮らしなんでしょう、葦原くん、すごく食べるんでしょう、って」

「ありがたい!」


 全部おにぎりである。おそらく店の全種類。明らかに葦原の胃袋を考慮した量だ。


「持つよ」

「ありがとう。

 今朝はどうなんだろうね、浩平くんと叔父さん」


 鈴木邸へ向かうのだった。


 その鈴木邸では、それではまた、と、おばあちゃんとサクラちゃんが玄関口で挨拶をしていた。


「あら、お早いこと」

「おはようございます」


 葦原と栞さんに気づいたおばあちゃんとサクラちゃんがご挨拶。


「おはようございます」


 ふたりも返して、


「あ、タロキチ。

 お散歩ですか?」

「途中で、鈴木さんのお家に飛び込んじゃって。

 朝からやんちゃだねえ」


 サクラちゃんの腕の中からタロキチ、葦原と栞さんへ何か言いたそうな目を。


(もう何かあったんだな……)


「じゃあ、また」

「今日も楽しくね」


 現実世界の鈴木邸は、外から見たところなにも変わりないのである。

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