第75話 「賢人会議」

 さて。

 未成年者たちが広くもない鈴木邸の各部屋をめぐっていた頃、鈴木邸居間では〈創造者〉、〈白の巫女〉、〈エルフ〉、そして〈神〉が額をつき合わせていたのだが……


「わたしだけ、なんだか浮いてる……みなさん、こちらの平服ですのね?」


(そうだけど)


 聡志は思った。


(俺は、少しゲームっぽいキャラクターを出したかっただけで、特に容姿や装束について描写を細かくしなかったんだよな……)


 ある日ファンアートのイラストが近況ノートを通して贈られた。

 今、目の前にいるベルリオーカは、そのイラストのまんまの神々しい美女である。

 グレン氏など、Tシャツショーパンだというのに。


(……なんだ、この申し訳なさは……)


〈創造者〉だそうだ、自分は。

 しかし考えてみれば、ゼロからすべて作り上げてはいない。ベルリオーカや、リンとランの姉妹など、特に女性のキャラクターの容姿は読者との交流が大きい。


(そして、こうして実際会ってみると)


 彼女らは、どう考えても自分の手を離れ、それぞれのあり方で生きている。親離れ子離れの心境とはこれか。


「スズカワ殿」


 グレン氏が小声で。


「現実世界へ降臨し、人間社会に紛れたときの我らの感慨、少しはご想像いただけましたかな?」


 急に神視点から言われた。

 人間世界を手のひらで転がす神々。

 いや、あなた方はさ、もっと上手くやってるでしょうよ? ちがうの?


「え、こんな感じなのかなあ?

 神視点なんて、でかすぎてわかんないよ、俺、花屋の営業だぜ?」

「そこがスズカワ殿の素晴らしいところでござる」

「ええと」

 ベルリオーカさんが、何かを言い出し辛そうに。


「まず、そちらの方は姿は違うけれど〈白の巫女〉ですね?」

「その通りよ」

「本当に、申し訳ありません。こちらの世界の方へご迷惑をかけて」

「え? なんで謝っちゃうの?」

「なんで、じゃないわよ!

 そして、その〈白の巫女〉がご迷惑をおかけしているこの身体のお方は、畏れ多くも〈創造者〉様のご婚約者様と存じております」


 そんなことが知れていたとは。


「重ねて申し訳ありません。

 失礼ながら察するに、あなた様が……」


 聡志の方をまっすぐ見据えてくる。


「〈創造者〉様であらせられますね?」

「……あ、ええ」


 なんて応えるべきなんだこれ? 場所は居間だし。


「そして、そちらにおわすお方は、」


 今、気づいたけどベルリオーカさん、さっきからグレンさんと目を合わせないようにしている。


「勿体なく目がつぶれます。

 韜晦なされておられますが、このベルリオーカめにはこの世を超えた、神の光が眩しうございます」


(まずい。俺、グレンさんと話しててそんなこと思ったことないぞ)


 聡志が凡人とエルフ様の格の違いを見せつけられ震えていると、


「まあまあ」


 グレン氏はいつものように優しくなだめ、


「そう硬くなされてはこれから先の相談事が進みませぬぞ?」


 聡志は何となく立ち上がり、冷蔵庫から麦茶とグラスを運んだのである。


 ただの人間だもの。

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